デジャブ
ドクターフィッシュにより、ミハイルと夜臼先輩はその後も何回も『脳イキ』しまくっていた。
俺は肌がツルツルになって満足。
ミハイルは終わってもまだ、頬が赤い。
「ハァハァ……なんか変な気分だったけど、気持ち良かったぁ☆」
エロい魚だと誤認するなよ。
かわいそうだろう。
夜臼先輩はまだ残ると言っていたので、俺とミハイルは二階から階段で降りて、プールに向かう。
ビーチという表現が正しく、押しては返す白い波が目に入る。
プールサイドで、競泳水着を着たひとりの少女がいた。
巨乳の眼鏡っ子。
北神 ほのかだ。
泳ぐわけでもなく、大きなタブレットを片手に、何やら絵を描いている。
「うひひっ! 尊いでぇ~ ここには素材になるショタも豊富や~ あ、でも、あのキモデブおじさんもヒロインに使えそう~ ひゃっひゃっ!」
と、涎を垂らして、近くにいた親子をガン見している。
右手は、ペンを激しく揺らせて……。
「おい……ほのか、せっかくプールなんだから、泳いだらどうだ?」
すかさず、声をかける。
犯罪になりかねないので。
「あ、琢人くん! こんなにショタがいっぱい見れる機会ないから、これで絡めまくることができるわ!」
目が血走って怖いです。
そこにミハイルが、割って入る。
「ねぇ、ほのか。絡めるってなあに? さっきから、なに書いてんの?」
ミハイルが尋ねると、ほのかはニヤァと怪しく微笑む。
「観たいの~? ミハイルくんも~? 仕方ないなぁ~ 見せてあげるぅ」
頼んでもないのに、液晶画面をこちらに向けた。
「うえっ!」
俺たちのすぐ近くで、ビーチボールを楽しむ親子連れを、エロマンガにしていた。
『おじさん、らめぇ!』
『いいじゃないか……僕は君みたいな少年が大好きでねぇ。もう止まらないよ』
『あぁん! おじさん、好き好き~! もっともっとぉ!』
「どう! 琢人くん!? これ、今度、編集部に持っていこうと思うの! 採用されたら、私もこれで晴れて商業デビューね♪」
悪びれる様子は一切ない。
もうこの人、病院に連れていくべきでは?
「あのな……せめて、帰ってから描けよ。あの親御さんにバレたらどうする気だ?」
「別によくない? だってほら、あの子も作品みたいなこと言っているよ」
ほのかが指差すので、振り返る。
「パパァ~ ボール遊び楽しいねぇ~ パパのこと大好き!」
「そうだなぁ。パパも大好きだよぉ」
「……」
好きの意味が違う!
「頭痛くなってきた……」
俺がそうぼやくと、ミハイルは対照的に、じーっと黙って液晶画面を見つめる。
「うーん、男の子の方は上手く描けてる気がするけどぉ。おっさんの方がなんか、あんまりかな?」
それを聞いて、ほのかが鼻息を荒くする。
「え? どこが!?」
「オレには絵とかよくわかんないけど……ほら、あのモデルになってる人って、もっとすね毛とかヒゲとかさ、毛深いじゃん。ほのかが描いているおっさんは、ちょっとキレイすぎるんじゃない?」
モデルを目の前に、酷いことをサラッと抜かすミハイル編集長。
「なるほど! ヒロインはちゃんと忠実に描かないとね! ありがとう、ミハイルくん!」
「いや、オレなんかで、ほのかの漫画のお手伝いになれるなんて……エヘヘ」
「謙遜は良くないよ、ミハイルくん。フフフ」
全然笑いごとじゃない。
※
変態女先生は、放っておいて、俺たちはさっそくプールに入ることにした。
「キャッ! つめた~い!」
と悲鳴をあげるが、ミハイルの顔は嬉しそうだ。
「確かに冷たいが、楽しいな」
「うん☆ これでもうオレたち二回目のプールだもんな☆」
「え……?」
設定、設定忘れているよ! ミハイルさん!
この前はアンナモードだったじゃん。
「え……あ! い、いや、初めてだったよな☆ なんか、この前アンナがさ。タクトとプール行ったって聞いたから、それで間違えたみたい…ハハハッ」
笑ってごまかす女装癖のヤンキー。
「そ、そうか……まあ、奥まで行ってみようぜ」
「うん☆」
プールの波は一定の間を置いて、発生する。
30分に一回、特に激しい波が押し寄せてくる。
あまりに強い波なので、アナウンスで「小さなお子さんは離れてください」と注意されるぐらいだ。
まあ成長した俺とミハイルなら、大丈夫だろう。
どんどん、奥へ奥へと進む。
次第と波が深くなっていき、水が胸元まで浸かるほどだ。
「うわっ! けっこう、深いじゃん」
俺が胸元まで浸かるぐらいの深さだから、低身長のミハイルは水面から首を出すのがやっとだ。
「あんまり、無茶するなよ。ミハイル」
「大丈夫だよ☆ オレってタクトと違って運動しんけー良いからさ☆」
あーそうですか。
その時だった。
背後から、叫び声が聞こえてくる。
「ヒャッハー! いい波だぜぇ~!」
迫りくる超ど級の巨乳、ブルンブルンと左右に暴れまくっている。
今時珍しいハイレグのビキニを着ているビッチ、宗像 蘭。
サーフィンボードに両脚を乗せ、波の動きに合わせて、上手い事進んでいる。
海にいるヤンキーじゃん。
しかも、片手にハイボール缶を掴んでいた。
「どけどけぇ~ 今日はいい風じゃないかぁ!」
この波、人工で作られているんですけどねぇ。
教師のくせして、プールの禁止事項を全部破っている。
「ヒャッハ~!」
奇声をあげてどこかに行ってしまった。
嵐のようなクソビッチ。
「まったく、宗像先生にも困ったものだな……。なぁ、ミハイル」
隣りを見ると、そこには誰もいなかった。
「ミハイル? どこだ?」
はっ、まさか!
水中に潜って見ると、足をバタバタさせて苦しそうにもがく彼の姿を確認できた。
俺はすぐに泳いで、ミハイルを救いに行く。
抱きあげて、水中から出してやると……。
「ぷっは! ハァハァ……ごめん。溺れちゃったみたい」
「いや、俺は構わんが、ミハイルは大丈夫か? 水を飲んだか?」
心配で彼の顔を覗き込む。
水の中で暴れたせいか、結っていた長い髪がほどけている。
濡れた小さな薄い唇、キラキラと輝くエメラルドグリーンの瞳、頬を伝う雫。
どこか色っぽい。
「あ、ありがと……そのちょっとだけ飲んじゃったけど、オレは大丈夫」
頬を赤くする。
「そうか。ここは深いから浅いところまで戻ろう。それまで、俺にしっかり掴まっていろよ」
「う、うん」
俺は男のミハイルをお姫様抱っこで、波と同じ方向にゆっくり歩く。
抱きかかえられた彼は、顔を真っ赤にして黙り込む。
細い両腕を俺の首に回し、俯いている。
当の俺はと言えば、桃のような丸くて小さなお尻を手の甲で楽しむ。
股間がパンパンになり、激痛を覚える。
あれ……なんかデジャブを感じるのは、俺だけでしょうか?