恋愛は学生時代からはじめておこう。あとで後悔する。
「もう気は済みましたか? 小説家の『DO・助兵衛』先生?」
その場にそぐわない名前から、ざわつきだす少年少女たち。
「白金くん、君は誰のことを言っているのかな?」
「いやいや、そんなフザけた名前はあなただけでしょ?」
白金がジト目になっている。
ヤバい、こいつの攻撃ターンになっているぞ。
「ハハハ、これだからは子供は……ささ、ママのところまで送りまちょね」
「私はれっきとした成人女性です!」
クソッ! お前のキモい体型を使って逃げようとしたのに。
「なんのことやら……俺と君はたぶんあれだ。どこかの遊園地で迷子的な出会いをしただけだろう?」
「言い逃れ……できませんよ? センセイだって、さっきあの女性に言ってたでしょが!」
「な、なんのことだ……」
フケもしない口笛で、ごまかす。
「平等でしたっけ……?」
ニヤけだしやがった……図ったな!
「センセイのペンネームも暴露してこそ、ここは平等ということですよ。DO・助兵衛先生♪」
するとどこからか
「プッ、ダッセ!」
「スケベだってさ」
「自分が一番の羞恥プレイだよな」
俺はそんな性癖を持ってないよっ!
「ガッデム!」
両手で激しく頭を左右に振り回す。
「あ、あなた……ホントにそんなバカげた名前で活動しているの?」
女教師が憐れむような眼でこっちを見る。
あたかも「きっとこの子もいろいろあったのね……」みたいな近所のおばちゃん的な目でみるな!
「そうですよね~ DOセンセイ♪」
「クソガキ、お前あとで覚えてろよ」
「文句はあとで聞きますから、ささっ、お仕事お仕事♪」
いつか殺す……いや殺すだけじゃ物足りない。
ここはどっかのロリコン御用達の風俗店に「合法ロリですよ、タダであげます」と性奴隷にしてやろう。
「お前のせいで、俺の評判はがた落ちだ!」
「DOセンセイの評判なんて、ネットでボロカスですよ」
俺は白金に手を取られ、その場から連れ出される。
人込みを掻き分け、すれ違いざま何度も
「スケベ」
「ヘンタイ」
「性の権化」
と、ディスられるおまけつきだ。
だが、去り際に一つの声で呼び止められた。
「あ、あの……ドスケベ先生!」
そのストレートすぎる直球は、俺の眉間に直撃し、気絶するところだった。
俺を呼び止めたのは先ほどのJCちゃんだ。
「おい……そこは『お兄さん』とかでいいんだよ? それに俺はドスケベではなく『DO・助兵衛』だからね」
そう言い直すと、少女はクスクス笑っている。
「でも、私は素敵な名前だと思いますよ」
この少女は、中学校であの痴女教師に洗脳とかされているんだろうか。
「あの、これ……忘れるところでした」
差し出したのは一つの人形。
フェルト生地のサンタクロースのキーホルダーだった。
「なんだこれは?」
「募金された方には全員にお配りしています。私たちからのクリスマスプレゼントです♪」
なにこれ、施しを受けたみたいで、こっちが可哀そうなんですけど?
女子からクリスマスプレゼントもらうなんて、初めてなんですけど!
「これは……手作りか?」
「はい、みんなで徹夜して作りました」
嫌だ。泣けてきた……。
「そうか、お前らもあんなハレンチ教師じゃ、いろいろと苦労するな」
俺がそう突っ込むと、また少女はツボにハマり、クスクス笑いだす。
何がおかしいの?
あーあれね、ハシ落としたり、駅のハゲ見たりして笑う年ごろね。
「うまく言えないんですけど……きっと、あなたにもいつか……クリスマスを一緒に過ごせるひとが現れると思います」
少女は満面の笑みで俺を見つめている。
正直、惚れそう。
君がそのひとになってくれるの?
「お、俺に……?」
予想外の言葉に動揺する。
「DOセンセイ、さすがにJCに手を出したらダメですよ~」
耳元でバカが俺に囁く。
「なぜそう断言できる? 俺はこう見えて、もう何年も友達すらいない。なぜ年下のお前がそうも言い切れるのだ?」
「だって……ふふふ」
「な、なにがおかしい?」
「見ず知らずの私たちに気を使ってくれて……大人の先生に啖呵を切る人、初めて見ましたもん。ドスケベ先生は、きっと優しいひとなんだろなって思いました」
人の性格を読書感想文のようにまとめるな!
「ま、まあ……俺は白黒ハッキリさせないと気が済まない性分なのでな。お前ら生徒たちだけが薄着なのが、不平等と感じただけだ」
「確かにすぐケンカになっちゃいそうな性格ですね」
「まあ……な」
「でも、私は素敵だと思います。どうかあなたにも良いクリスマスイブを過ごせますように」
そう言うと、少女はその場で祈りをささげた。
この子は女神か?
じゃあ、この場で君が俺の彼女になってくれ!
俺ならこの子を幸せに、(いっぱいエッチなこと)してあげるのに。
「お、おう……」
「へへ、DOセンセイたらJCに照れてやんの!」
「お前はあとで覚えてろよ」
「あっかんべー!」
少女は最後まで、俺に手を振っていた。
だが、彼女言った言葉、なぜかグサッと来た。
あの少女のセリフはなんの信ぴょう性もないのに、なぜか予言めいたものを感じる。
なんだこの胸の高鳴りは……。