264 なんで?
ズドーン!と落ちた水の龍が消えると、そこにはぐったりと横たわる二匹が。
『どうした?解放してやったんだ。立ち上がったらどうだ?』
ギンが威圧を込めて二匹に言う。
『『うっ』』ゲホッ
なにか喋ろうとした二匹が言葉を発っしようとしているが、むせて話せないようだ。
〖やれやれ、また治しますか?よくこれで、自分たちが森の主だ。などとほざけますね〗
〖まったくです。嘆かわしい。もはや、哀れですね〗
〖本当にねぇ〗
神三人が呆れたように言うと、それが挑発と聞こえたのか、二匹がふらつきながら立ち上がり、神三人に向かって駆け出した。
『ふざけるな!』
『よそ者が!』
牙をむいて襲い掛かる。
神三人はため息をついてそんな二匹を眺めている。その間にスっと入る者たちが…
ギンと吹雪だ。
『親父、二匹とも我がやる。親父の出番はないぞ』
『分かってるさ』
『が、万が一の時は』
『ああ、任せろ。あの方たちの元へは行かせん』
『頼んだ』
ギンも吹雪も、万が一があるとは思っていないが、神々や仲間のためには万全を期す。
『邪魔だ!どけ!』ガアッ
『退きなさい!』グアッ
構わず牙をむく二匹、だが
『愚か者が』
ギンは飛び掛ってくる叔父を軽く躱し、逆に首に牙をたてる。そのまま叔父を咥え、その娘にその体を叩きつけ、二匹まとめて吹き飛ばす。木に叩きつけられると思った瞬間、またもや木を守るように氷の壁が。
『『ギャンッ』』
ギンが魔法で出した壁は、崩れることなく、そこにある。
『ふん。お前たちの相手をするのに、もはや魔法は必要ないようだが、大事な森の木を傷つける訳にはいかぬからな。そして、お前たちはこれから己がしでかした事の重みを知るのだ。反省する心が少しでもあれば良かったのにな』
ギンったら、それは言外に、
『お前たちより木の方が大事だ、お前たちは守る価値などない』
と言ってるようなものね。 まあ、最後の言葉には、かつての家族に対する複雑な感情があったようだけど…
決定的な急所を押さえたのにアレが生きているのがいい証拠だわ。優しすぎる森の主。ふふ。だからこそ皆から好かれるのよね。
さて、そろそろ引き取ろうかしらね。
〖森の主、先代。そろそろ代わりましょうか?〗
ジーニ様がいよいよ一歩前に出る。
一方、音は聞こえないけど、戦いを見ているこちらでは
「ほえ~、ぎんしゃま、ちからもち~」
お口でぱくっぽいっ!すご~い
『お父さんすごいね~』
ね~♪
「ねぇにぇ~しらゆき~」
『何かしら?サーヤ』
「ありぇ、しらゆき…も、できりゅ…るっ?」
おしゃべり、れんしゅうれんしゅう。
『ふふっサーヤも頑張ってるのね?ゆっくりでいいわよ』
にっこり笑って分かってくれました!さすがです!
「あい!」
えへへ~
『それで、あれが出来るかってことね?出来るわよ。それに私だけじゃなくて、ハクも出来るようになるわよ』
「しょ、そうにゃにょ?はくみょ?」
うにゅ~むずかしい…
『ふふっゆっくりゆっくり。ね?それでね、私たちは人型の者とは違って、自由に手を使えないでしょう?』
「あい」
おてて違うもんね。でも、肉球は癒しだよ。
『肉球?これ?』
白雪がぷにぷにの肉球を見せてくれます。
「あい♪」
ぷにぷに気持ちいいよね。あとで触らせて欲しいな~
『え、ええ。いいけど?何がいいのか分からないけど?』
「やっちゃあ!」
肉球ぷにぷに!うへへへへ
『サーヤ、お返事以外、またお顔でお話してるね~』
『おしゃべりの練習はどこいったのかしらね?それにしても、ハクのおばあちゃん、すごいわよね』
『最初から完璧に顔で会話出来たもんな』
ハクと、フゥとクゥが二人のやり取りを見て感心してます。
『そ、それでね?手の代わりに口で色々出来るようになるのよ。ああやって攻撃することもあれば優しく咥えて子どもを移動させたりもするわ』
「ふえ?おけが、ち…しないにょ?」
歯がいっぱいだよ。痛くないのかな?
『怪我はしないわ。もちろん痛くもないわよ。優しく優しく咥えるの。ハクが小さかったら実践してあげるんだけど』
白雪がハクを見て呟きます。でも、ちょっと寂しそう?
『ぼく?小さくなる?』
話を聞いていたハクが首をかしげながら参加してきました。でも
『ハク、今はやめておきましょうねぇ。さっき大きくなったあと、どうなったかしらぁ?』
結葉様がハクを撫で撫でしながら止めてます。
あっ!そっかぁ~
『小さくなっちゃったまま戻らなくなっちゃったんだったね~』
ハクも思い出したみたいです。
『あとで、みんな片付いてジーニ様がいる所でやりましょうねぇ。きっと、自由に変化できるようになった方がいいと思うしぃ。ね?』
結葉様は、あとでにしましょうって。やるなとは言いません。優しいです!
「えへへ~はくも、れんちゅう」
『サーヤも練習だね~』
「『えへへ~』」
二人でにこにこ。一緒だね~。
『ふふ。仲良しね』
そうだよ!
『はい。それじゃあ、白雪にはとりあえず~』ひょいっ
『にゃ!?』
『この子なんてどう?サイズ的にちょうどよくなぁい?』
そう言って結葉様が持ち上げたのは、ニャーニャにゃん!
『うにゃ~!?待ってにゃ!ニャーニャはたしかに小さいにゃ!でもれっきとした大人にゃ~!こどもじゃにゃいにゃ~!!』バタバタバタバタ
みゃ!?『ねぇね~!?』
ニャーニャにゃんがバタバタして逃げようとしてます。ココロはニャーニャにゃんのピンチに大慌てです。
『え、ええと?じゃあ』
「ふあ?」
サーヤが浮き上がりました。お洋服の首のとこで咥えられてプランプランです。
「ふぉぉ?」
あんよが地面につきません!背が高くなりました!
『あらぁ。サーヤがプランプランしてるわねぇ。なんか、かわいいわぁ♪ちなみに背は高くなってないわよぉ♪』
がーん。なんで?
『分かるわねぇ。でも、背は高くなってないわよぉ』
うりゅ~
『ていうか~、なんで背が高くなったと思ったんだろね~?』
ぴゅいきゅい『『どちてだろね?』』
『『さあ?』』
『『『わかんな~い』』』
うりゅ~
『そろそろ、下ろしてにゃ~』
みゃ~『ねぇね~』
『何?この状況?』
『さあ?何からこうなったんだろな?』
フゥとクゥが不思議そうです。
『でも、平和です』
『そうですね。壁の向こうと違って』
山桜桃ちゃんと春陽お兄ちゃんが言うと
『『そうだな(ね)』』
フゥとクゥが外を見て、こっち見て、しみじみ言いました。
〖森の主、先代。そろそろ代わるわ〗
優しいギンに、いつまでもかつての身内を攻撃させるのもね…
『分かりました。よろしくお願い致します』
『よろしくお願い致します』
礼儀正しく、頭を垂れてから、こちらへ戻ってくるギンと吹雪。お疲れ様。
『お二人とも大丈夫ですか?こちらで少し休んでくださいませ』
アイナがギンと吹雪を心配そうに迎える。
『ありがとうございます』
『ありがとうございます。地の精霊王様、孫たちは?』
お二人とも、今になって心配になったみたいですね。安全は疑っていないようですけれど、自分たちが見せてしまったことで、ショックを受けていないか心配しているのでしょう。ですが、実際は…
アイナは苦笑いを浮かべながら
『大丈夫ですわ。何も心配ありませんわ。それどころか、大興奮してましたわよ』
しかも、とても楽しそうですわよね。
『は?』
『大興奮、ですか?』
お二人とも、びっくりされてますわ。そうですわよね。普通は不思議に思いますわよね?
『魔神様とお母様のご配慮のお陰ですわ。氷の龍がしたことは見ていませんの。その後は見てはいますが、音は伝わらないようにしてくださいまして、かっこいいと大興奮でしたわ。まあ、大きい子達は流石に引きつったお顔をしてましたけれど…』
まあ、仕方ないですわよね?
アイナ様の話に、流石に二人ともポカンと聞いていたが、次第にこちらも苦笑いに変わっていた。
『そうですか』
『あれがかっこいいとは…』
くくくっと笑っている。
『少し後ろを見てくださいませ。今はあんな感じですわ。安心しますわよ』
そうアイナ様に促され、二人が子供たちの方を見ると
『『ぶっ』』
二人揃って吹き出した。
白雪がサーヤを咥えてぷらぷら。結葉様がニャーニャの首根っこを掴んでぷらぷら。
『あなたの真似みたいですわよ?』くすくす
アイナ様も笑っている。ぷらぷらしているニャーニャの足元で、ココロがぴょんぴょんしている。
『私の真似ですか…』
ハクも笑っている。
『良かった。大丈夫そうですね』
『ああ。彼女も、もうしっかりと迎え入れられていますね』
二人ともようやく安心できたようだ。
『安心されたようですわね。それでは、そろそろ魔神様たちがどうなさるのか、見守りましょう』
アイナ様の顔が引き締まる。
二人も頷き
『そうですね。気を抜かずにいないといけませんな』
『そうだな。いつでも動けるようにして控えていよう』
二人も改めて、気を引き締めた。
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