スカウトなんて、夢物語
「ふん、お前のようなクソガキに、俺の崇高な作品の面白さがわかってたまるか」
わざわざ天神まで来たのに、ボロカス言われるとか……。
児童虐待で訴えてやりたいわ!
「ええ、センセイの言い分はごもっともです。編集部でもごく僅かですが……センセイの作品にすごく惹きつけられた人もいるんです」
ごく僅か……なのがムカつくが、まあ良しとしよう。
「ほう。やはりお前のようなクソガキではなく、大人様はよくわかっていらっしゃる」
「だ~か~ら、そういうことを言いたいのではないです!」
左右のツインテールを獅子舞のように振り回す。キモいからやめろ。
「つまり?」
「センセイの作品は極端すぎるのです」
「……?」
白金はキモいほどに、童顔で小学生の女児にしか見えないのだが、その時だけは立派な大人の鋭い眼をしていた。
「センセイの作品は、主に暴力を題材とした作品が多いですよね」
「フッ、まあな。俺は『世界のタケちゃん』の崇拝者だからな」
世界のタケちゃんとはお笑い芸人でありながら、映画監督である。凄まじい暴力描写とその美しい映像に定評のあるお方だ。
「ハァ……いわゆる中二病ですね」
「はっ? お前、俺の作品に文句つけるのはいいが、タケちゃんの映画をバカにしたら許さんぞ」
タケちゃん、誹謗中傷。ダメゼッタイ!
「そこにこだわっているのが、中二病特有の症例ですね」
え、俺って入院したほうがいいの?
どこか、中二病の病棟とかありますかね……。
「だが、俺にも一定数の読者がいるのだろう? その人たちがいなければ、この場もなかったわけだ」
「まあそれに異論はありませんが、先ほども言った通り、センセイの過激すぎる暴力描写、表現はライトノベル界ではあまり受け入れられない傾向があります。今はどちらかと言うと、夢がある異世界ものとか……」
そのワードを聞いて、俺は鼻で笑う。
「異世界だ? あんなものはただの現実逃避だろ? 死んでまで、手に入れたいとは思わんな。自殺願望が強すぎるんだ……。現実世界で何かを成し遂げろ!」
だから、あなたも生きて!
「そんなの、流行なんだから仕方ないでしょ!」
机をバシンと強く叩いて、怒りを露わにする白金。
※
「ならば、なぜこの天才の俺がライトノベルの担当に呼び出される?」
「それが他の作家さんや下読みさんに読ませたら、半数の作家さんたちが声を揃えて『おもしろい!』と言うのです」
「ふむふむ、さすが大人作家さんたちだな。よくわかっていらっしゃる」
「しかも必ず『他の作品はないのか?』と皆さん、しつこく聞いてくるんですよ……めんどくさ!」
「お前……最後のわざとだろ?」
人が気持ちよく聞いていたのに、クソがっ!
「……つまり、これはある種、我々編集部の賭けでもあります。センセイの作品をおもしろくないという人は大半ですが、一部の読者はセンセイの作品に一度ハマるとそこから抜け出せないくらい、のめり込む魅力があります。ですので……どうか、センセイの作品をオンラインに留めることなく……私たちで『紙の本』にしませんか!」
「……」
悪い気分ではなかった、大勢の大人たちが俺の作品を読み、皆が「おもしろい」と言った。
少しだけど……。
だが、この趣味は俺のものだけであり、それを販売すれば、読者や編集部の気まぐれで作品のクオリティが下がってしまうリスクもある。
迷っていた。
でも、誰かの手のひらが俺の背中を押そうと必死に感じる。
俺と一緒に数年間、歩んできた小説。
読者のみなさんだ。
「センセイ、ダメ……ですか?」
そう、この呼ばれ方も心地よい。
齢十四にして、大の大人(クソガキだが)が俺のことを『センセイ』と呼ぶ。
「おもしろい……」
「え?」
俺は気が付くとその場で「ハハハハハ!」と高笑いしていた。
その大声に、編集部の社員たちから視線が集まる。
「あ、あのセンセイ? 何がおかしいんですか?」
「いや、すまん……これが笑わずしていられるか、ハハハハハ!」
白金は首をかしげて、俺を見つめている。
覚悟なら決めた。
「いいだろう、今日から俺は『センセイ様』だ。お前の会社で出版させてやろう」
偉ぶった発言に、白金はジト目でしらける。
「その話し方、辞めたほうがいいですよ……中二病満載ですし、それに出版するのって、たくさんの大人やお金が動くんですから」
「俺のために、人材や金をとくと使うがいい」
「いやいや、本当に皆さん狭き門に向かって、頑張っているんですよ? センセイみたいな人、初めてです……」