第二種目
二人三脚のレースは終了し、勝利したペアが次の種目へと出場できることになった。
生徒の三分の一ぐらいが脱落。
テント前にはスコアボードが立てられている。
白組である三ツ橋が9点。紅組である一ツ橋が8点。
五分だな……。
宗像先生がマイクを手に持つ。
「続いて~ 第二種目! 『死ぬまで帰れ騎馬戦』を始める!」
だから、なんで戦って天国にいかないといけないんだよ。
死ぬのが前提とか、ヴァルハラか?
「先ほどとは違い、四人でグループを作れ!」
「またか……めんどくさいなぁ」
ふと後ろを振り返る。
そこには赤い帽子を被った華奢なブルマ姿の少女……じゃなかったミハイルが。
何やらニコニコ嬉しそうに笑っている。
しかも、俺の背中にぴったりと胸をくっつけている。
ドキドキしちゃうからやめてね。
「タクト! もちろん、オレと組むよな☆」
目をキラキラと輝かせて上目遣い。
「ああ……」
どうせ断ったら怒るんだろ。
「はいはーい! あーしも混ぜてまぜて~♪」
そう言って手を振るのは、花鶴 ここあ。
「えー。オレとタクトの二人でじゅーぶんだっつーの」
いや、騎馬戦はふたりじゃ無理だってーの。
「いいじゃん、ダチだろ~ ミーシャってば~」
そう言うと花鶴はニヤニヤ笑って、自身の胸をミハイルの顔にグリグリとくっつける。
やられた本人はすごく嫌そう。
「やめろよ、ここあ! キモい!」
ひどっ! 仮にも幼馴染の間柄なのに。
「あ、年上のあーしをそんなん言うのはこの口かぁ~?」
花鶴は何を思ったのか、ミハイルの頬を片手で掴み、力を入れる。
するとあら不思議、彼の小さな唇がぶに~っと前に出る。
おちょぼ口してるみたい。
ちょっと、かわいいかも。
いいなぁ、俺もやりたいわ。
「だに、ずずんだよぉ! ごごあ!」
両腕をブンブン振り回すが、彼の手が花鶴に当たることはない。
身長の差だ。
「ハハハッ! あーしを仲間外れにしようとするからっしょ♪」
あのミハイルを片手で制御するとは……さすがどビッチのここあさん。
そこへ一人の巨人が現れる。
頭が禿げあがったおっさん。
「お前ら、仲間割れしてる場合じゃねぇだろ!」
コツン! と二人の頭を小突く。
「キャッ」
「いってぇな」
ミハイルの方が女らしくて草。
「タクオ! 俺も加勢するぜ」
そう言って、親指を立てるのは千鳥 力。
「リキ! お前までオレたちの邪魔すんのかよ! 二人でじゅーぶんなのにっ!」
いや、だから無理だって。
ルール、わかってんの? この人。
「ああ、これでちょうど四人だな。そうしてくれ」
半ばどうでもいいと言った感じで答えた。
人に声をかけてメンバーを集めるのも一苦労だしな。
ミハイルと昔から仲の良いこの二人なら、連携も取りやすいだろう。
「もう、タクトのバカッ!」
俺の思惑とは裏腹に、ミハイルは不機嫌そうに地面を蹴り上げる。
なんで怒ってんだ?
あれか、女子の北神 ほのかとか欲しかったのか?
一応、あいつも可愛いし。一応、おっぱいもデカいし。ただ、変態だけど。
※
俺たちは役決めをするまでもなく、配置は自ずと決まる。
先頭の騎馬が千鳥、そして後尾の騎馬役が俺と花鶴。
そして肝心の騎手はミハイルだ。
各々、準備が整ったところで、宗像先生からルールが説明される。
「この競技に関してだが、至ってシンプルだ。一つでも相手の帽子を奪ったグループは勝ち。そのまま三種目に出場できる! 勝負がついた時点で勝っても負けても退場してもらう!」
「ふむ、本来の騎馬戦とは違って、団体戦ではないのか……」
あごに手をやり、作戦を考える。
すると、誰が俺の肩をポンッと叩く。
「タクト☆ オレがついってから負けないって☆」
ウインクする天使が一人。
「わかった、頼んだぞ。ミハイル」
「うん☆」
俺は前から見て、左側の騎馬役になった。
右手を先頭の千鳥と繋ぎ、鐙をつくる。
反対側の手で彼の肩に手を当て、騎手役のミハイル様の鞍が出来上がり。
「よぉし、三人とも! 気合入れろよな☆」
そう意気込み、彼は軽々と地面から跳ね上がる。
ストッと腰を下ろし「立っていいゾ☆」と叫ぶ。
命令された通り、俺たちはミハイルを乗せて立ち上がった。
そこでやっと気がつく。
彼のブルマが……いや、小さな桃のような尻が、俺の左腕にぴったりくっついていることに。
思わず、生唾を飲み込む。
だって目の前に女子のブルマが……あ、いや男だった。
俺の邪な考えを察知したのか、ミハイルが振り返る。
「タクト!」
「え……」
「気張れよな☆」
「あ、はい」
なぜか敬語。
だって別の意味で緊張して、ドキドキしちゃうもん。
試合どころではない。
そうこうしているうちに、ピストルの音が鳴り響く。
「はじめぇい!」
「リキ! あそこのグループに向かってくれ!」
ミハイルが指をさして、千鳥に命令する。
「おし、まかせろ! タクオ、飛ばすからちゃんとついてこいよ」
「ああ……」
俺はどこか上の空だった。
頭の中はミハイルちゃんのブルマとお尻でいっぱい。
「いっけぇ!」
ミハイルの叫び声と共に、千鳥の手に力が入る。
瞬間、激しい豪風が目の前を舞う。
気がつくと、俺は一人で立っていた。
というのも先頭の千鳥が先走りしすぎて、俺だけついていけず、伝説のヤンキー三人だけで敵陣に突っ込んでいく。
「あらら……」
一人、運動場で置いてけぼり。
こんなところでも俺はぼっち、放置プレイを楽しまないといけないのか?
ミハイルたちはもう遠いところで、頑張ってらっしゃる。
騎馬戦って3人でもやれたんすね。
初めて知りました。
俺はその場で体操座りする。
半分、涙目だけどな。
数分後、ミハイルたちが帰ってきた。
「あれ、タクト。そんなところにいたの?」
片手に白い帽子を持って。
見上げると、ミハイルの金色に輝く長い髪が眩しく感じた。
「すまん、力不足だったな……」
完全にすねていた。
置いていかれたことに。
「アハハ……気にすんなよ、タクト。勝てたからいいじゃん☆」
「そうだぜ、タクオ! 無能もスキルの一つだぜ?」
おい、ハゲ。お前いま俺のこと無能って言ったか。
ぶち殺すぞ!
「オタッキーてば、あれじゃね。自家発電のしすぎでバテてたんじゃね?」
違うわ! Me Too運動起こすぞ!
「え? タクトってば、こんな時もレンジでお菓子作りしたかったのか」
頭痛い……。
「ミーシャ、オタッキーはあれだよ。ブルマで興奮したんっしょ♪」
ケラケラと品のない笑い方だ。
しかし、当たっている。
見ていたのは女子じゃなく、男子のミハイルだが。
「えぇ、ブルマって、ただのたいそーふくだゾ?」
純真無垢なミハイルちゃんには、ブルマの尊さが理解できてない。
「あーしが魅力的すぎんしょ♪」
頼んでもないのに、尻を突き出す。
いや、断じてお前じゃない。
それを聞いたミハイル殿が顔を真っ赤にする。
「なんだと! タクト、ここあのブルマをそんな目で見てたのかよ!」
違うって、あなたの見てたんだよ。
それを面と向かって、言えってのか?
「違うよ……」
「じゃあ誰のブルマ見てたんだ!?」
なにこの尋問、死にたい。
「言ってやれよ。タクオ……おめーも男だろが」
千鳥、男だからこそ、言えないよ。
俺は立ち上がって、ズボンについた砂を手ではらう。
ミハイルは未だ、千鳥と花鶴たちの上に乗っかっている。
聞こえるか聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。
「見てたのはお前……だよ」
頬が熱くなるの感じた、と同時に背を向けて退場する。
チラッと、彼を見たが「へ?」といった顔して、首をかしげていた。
「おまえってことは……オレ?」
自身の顔を指差してはいるが、理解できてないようだった。
お馬さんの二人は、顔を見合わせて答えを探る。
「タクオは一体誰の尻を見てたんだ」
「リキのケツじゃね?」
それはない。