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第一話 Bad news travels fast.

「いや~君が新しく派遣されてきた子かー。うちは万年人手不足だから助かるよー」
「いや、誤魔化さないでくださいね?」
 私はミストレートさんの案内のもとで、ココに来る前に入社試験に合格していた『Company』という実験都市最大の派遣組織に向かった。
 すぐに仕事が決まり、向かった先が私が、実験都市に来て最初の手続きを済ませたあの建物。実験都市第一区入都関所だったわけだが……
「私、忘れてませんからね?」
 出迎えたのは、つい先程私を見捨てたキツネ目だったというわけだ。
「それについては申し訳ないと思ってるさ。ただ、ボクのアクトは荒事には向いていないからね。どうしようもなかったんだ。ごめんねー」
 イマイチ誠意を感じられない謝罪だが、これ以上追求しても仕方がないだろう。
 心の中で振り上げた拳を納める。いや殴る。
「無駄話もこのくらいにして、仕事の話をしようか」
「無駄話って……まあいいですけど!お願いします」
 キツネ目は満足したように頷くと話を続けた。
「今から君と同じように新しく都市に移住してくる人たちが来る。ボクたちの仕事はそんな人たちの情報を確認して今後の案内をすることだよ。先に何か聞いておきたいことはあるかな?」
「すみません。私、まだカンパニーのデータベースを扱うことに関する研修を受けていないんですけど……」
「そこら辺はやってる内に覚えていくから大丈夫だよー」
 実にあっけらかんと応答するキツネ目。
 そんなに適当で大丈夫だろうか。
「それに今日のメインはそっちじゃないんだ」
「はぁ…」
「毎回そうなんだけど、国からの追跡を免れたい犯罪者やテロリストなんかがあの手この手で身分を偽って入ってこようとするからね。そいつらを捕まえなくちゃいけないんだ。だから怪しい人を見つけたら報告してね」
「はぁ……はあ!?」
 思わずキツネ目を二度見する。
 いや、そっぽ向いて話聞いてたわけではないのだけれども。
「そんなの抵抗されたら終わりじゃないですか!」
「だから人手不足って言ったじゃん。それとも、君は戦闘向けのアクト持ってるか、アクトデバイスを扱った経験とかある?」
「アクトデバイスは触ったことありますけど………オリジナルアクトは持ってないです」
 アクトとは一世紀近く前にアフリカの少年(詳細は不明。恐らく少年の暗殺や誘拐を防ぐためだが流石にこの程度の情報は割れたようだ)が発見した特殊元素を燃料に発生する魔術のようなもののことだ。
 基本的にはアクト専用の道具を用いて事象を発生させるが、稀に自分の力だけでアクトを発生させることができる者もいる。その能力がオリジナルアクトだ。
 私はオリジナルアクトを見たことはない。そもそもアクトデバイスでさえ軍隊か国の研究機関に所属でもしていなければ生で見る機会なんてほとんどないのだから当然のことだ。
 そしてこの建物には携帯できるアクトデバイスはない。自衛手段は己の可憐な肉体のみというわけである。
「まあ、いざとなったらピースフル・エントに連絡するしかないかなー」
 あらためて、この職務態度で大丈夫かと不安になった。


 
 実験都市はそれなりに長い歴史を持っているが、それでも運営が円滑に進んでいるとは言い難い。
 むしろ治安は地球上で最も悪いと言ってよいだろう。世界を敵に回せる戦力を持った組織や個人が溢れるほど存在するのだから、これでも頑張っている方だ。
 そんな実験都市は世界統合委員会という国際組織によって設立された。二度の世界大戦を経てそれまでの歴史を大きく覆す確変が巻き起こっていた世界を安定させるべく成立されたものだ。
 多少の問題はあれど格段に地球上の争いごとの量を減らすことに成功した委員会は、その後のケアを次世代に託し、メンバーを総入れ替えした。
 しかし、現状の平穏に甘え、一世代で清廉さを失った委員会は、作るだけ作った実験都市の運営を内部の住人に丸投げした。
 不幸中の幸いというべきか、志願者から抽選で選ばれた最初期の住人たちは有名無名かかわらず世界屈指の有能揃いであり、各分野ごとの運営を行う組織と、それらすべてを取りまとめる『ENGAGE』が設立された。
 住人が増え、規模が拡大した今、それらの組織は都市の中核を担う大企業のようなものとして大成した。
 『Company』や『Fleet』のように一単語で簡潔な名前が付けられているのが特徴の一つだ。
 それに対して『Peaceful ent』は都市が独自の発展を遂げ、一つの国と呼べるレベルにまで成長した頃にできた組織だ。
 基本的に実験都市内では『ENGAGE』に届を出さなければ組織を設立し、名乗ることは許されない。
 それは周知の事実なのだが、現状都市内で確認されている組織の7割は非合法組織だ。
 これだけでも酷い話だが、そこに思い思いに暴れるチンピラや、港の監視を掻い潜って侵入してきた外部の犯罪組織まで相手しなくてはならないのがピースフル・エントの仕事であるとなれば、気が滅入るどころでは収まらないだろう。
 更に付け加えるなら、チンピラでもそこらの経済大国程度であれば一級品レベルの武器を持っている場合があるのだから始末に負えない。
 『Absolute Observer』なる組織が好き勝手に新型武器を格安でばらまいているらしいが、ピースフル・エントは把握しきれていない。
 ピースフル・エント三等級監視官であるパンクルクは目の前の惨状に顔をしかめた。
 港に存在する無人の警備システムは全滅し、海岸を隔てる壁には巨大な穴が空けられている。破壊力だけではどうにもならない壁であるはずなので、おそらく内部の人間の仕業だろう。
 大人数が通った痕跡がありながらパンクルクらが駆けつけた段階で誰一人犯行グループの人間を見つけられなかったのだから、犯行は恐ろしい手際の良さで行われたようだ。
 ここしばらくは珍しいくらいに平和だっただけに余計に事態が重く思え、パンクルクは頭を悩ませた。
 そんな彼に一人の女性の声がかけられた。
「ごめんなさいっ……遅くなっちゃってっ………」
 声をかけられたパンクルクは目を輝かせる。
 駆け寄ってきた女性、ミストレート二等級監視官はパンクルクにわびを入れると現場を一目見てすぐに何処かに通信を取る。
「どこに連絡を?」
「エーブ管理官のところ。けっこう大きめの機械が持ち込まれた可能性が高いから、そっち方面で経験豊富な人に聞いてみようと思ったの。あ、もしもしエーブくん?」
 そう言ってミストレートは現場の状況を通信先の人物に送りながら自分の見識を述べる。
 パンクルクはミストレートを尊敬している。
 ピースフル・エントの職員は監視官と管理官の二種類がある。正直仕事内容は大して変わらないのだが、その中でも五から一までの等級も定められている。
 職員の大半が生涯で五、四等級止まり、どんなに出世欲のある才人であっても目指すのは三等級といわれる中で若くして二等級まで上り詰めた彼女の下で働けることをパンクルクは誇りに思っていた。
 今も現場を一目見ただけで何が起こったのかを詳細に推察し、迅速かつ適切な処置をとっている。一応自分よりも年下であるはずなのだが、全くそうは思えないし、あまりに圧倒的すぎて嫉妬心も羞恥心も湧いてこない。その事実を平然と受け止めているパンクルクは心の中で彼女のことをアネさんと呼んでいた。
「ルーくん。行くよ」
 どうやら話は終わったらしい。
 ルーくんというのはパンクルクのことだ。元々パンクルクというアバターネーム自体慣れるのにかなり時間がかかっていたが、ルーくんというのは一生慣れる気がしないとパンクルクは思う。
「何処に行くんですか?」
「第一区の入都関所。オモチャの輸入はこれだけじゃなさそう」
「分かりました。行きましょう」
 その場にいた四等級管理官の男に後のことを任せて、二人は目的地へと向かった。



 ああ………アネさんっ!!やっぱり今日も美しいよアネさんっ!!うへへ………ルーくん………ルーくんだって………パンクルクってアバターネームが決まったときは正直はずれだなって思ったし今も誇りには思えないけれどアネさんがルーくんなんて可愛い呼び方をしてくれるきっかけになったって考えると案外悪くなかったのかもなんて思っちゃったりもするわけなんだけどまだなんというかムズ痒いというかこの年でルーくんなんて呼ばれるのもどうなんだろうなとか思ったりもするけれど別にアネさんに文句を言いたいとか不満があるとかではなくてアネさんのことは本当に大好きで例えば歩いた時に左右に揺れるポニーテールだとか、あ、今日の髪の毛もサラサラですね。シャンプー変えました?いつもよりフローラルな香りがするのでなんて聞いたら変態みたいかな?とか思って口に出せないのがもどかしい、、、じゃなくてあと着やせするタイプの胸とか鍛え上げられた、薄着だとうっすら確認できる腹筋だとか、女性らしい柔らかさを持ちつつも力を込めれば男顔負けの逞しさを見せる太股とか、綺麗でひんやりと気持ちよさそうなふくらはぎとかだけどそんなわかりやすいところだけじゃなくて綺麗な爪してるのに普段は白い手袋で隠しているところとか、いや、考えてもみてほしいな。だって白い手袋だよ?しかも手入れや交換もこまめにしてるから私生活にも健気に努力してるのが伝わってくるし、やっぱり秘められた美しさみたいなものがあるんじゃないかなと思うわけだけれども、あとこの前トレーニング中のアネさんと会ったときなんて息切らして頬も赤らめてたのがなんかいやらしくて汗もたくさんかいているはずなのになんでそんなにいい匂いするんですかってホント思ったし、ああ、いけない、まるでアネさんの体目当てのクソ野郎みたいじゃないかアネさんの魅力は決して体だけなんかじゃなくてやっぱり外見は大人しい美人ってかんじだけど結構子供っぽいというか年下感があるけどやるときはやるキリっとしたかんじがもうギャップもんのたまらなさでたまて箱通り越してパンドラの箱といっても差し支えないレベルであっていやなにに差し支える可能性があったのかは分からないけどもそういえばアネさんが遅れて現場入りするなんて珍しいけど用事があったんだろうかおのれ犯行グループ許すまじ……まさか恋人か?恋人なのか?許さぬ………犯行グループより許さぬ。アネさんは才色兼備で器用万能なパーフェクトウーマンではあるけれど悪い奴に騙されているかもしれないしだいたいアバターでしかないんだから飾りだしイケメンに見えるやつだってドブスのデブ野郎に決まってるって言いたいけれどアバターはその場で本人の顔を元に作られるからアバターの顔立ちが整っていれば本人も整った顔なのはまず間違いないし体つきなんかも本人由来だからごまかしがきかないし、というかここでごまかしがきくならアネさんも嘘つきってことになってしまうのは本当にごめんなさいそんなふうにアネさんを貶める意図はなかったんですよアネさんのことは大切に思ってますし尊敬してるんですアネさんはどんな状態でも魅力的だって信じてますしそうであるはずですしそうでなくてはいけないわけでそれでもアネさんに万が一のことがないかと不安に思ってしまうことを許してほしいですああ!アネさん!!
アネさんの腕アネさんの瞳アネさんの髪アネさんの声アネさんの肩アネさんの脇アネさんの胸アネさんのお尻アネさんの指アネさんの頭アネさんの心臓アネさんの肺アネさんの血管アネさんの上皮組織アネさんの支持組織アネさんの筋組織アネさんの中枢神経アネさんの末端神経アネさんの核膜孔アネさんの小胞体アネさんの核膜アネさんのリボソームアネさんの細胞質基質アネさんのエンドソームアネさんのペルオキシソームアネさんのタンパク質アネさんの脂質炭水化物アネさんのビタミンアネさんのミネラルアネさんのアネさんがアネさんにアネさんなアネさんでアネさんをアネさんとアネさんからアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさんアネさん
ア“ア“ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアネさ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




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