博多あるある
俺とひなたは支払いを割り勘で済ますと、博多駅へと足を向けた。
外は既に真っ暗。
スマホを強制的に電源を切られたため、時間は知らんが20時は超えているだろうな。
博多駅は駅の上に高層ビルが複数連なっている。
左からバスターミナル、博多シティ、KIDE、JPビルの順だ。
この三つだけでもかなりの敷地を使っているのだが、まだまだ合体し足りないようだ。
博多駅を増築しまくる計画があるのだとか……。
「随分、変わったな……この街も」
ふと寂しさを感じる。
「なんですか、センパイ。おっさん臭い」
おらぁ、まだそんな年じゃねぇ!
「いや、博多駅がここまで変わっていくのに……自分は変化がないと思ってな」
「……やだなぁ、センパイは十分変わってますって!」
といつつ、人の背中をバシバシと叩くひなた。
「いってぇ……なあ、さっき聞きそびれたが、ひなたの家はどこだ?」
「い、今なんて言いました?」
顔を赤らめるひなた。
「え、家」
「違いますよ! その……な、なま……」
「だから家」
「知らない!」
こいつは本当に忙しい女だな。
「家は
梶木とは俺の住む真島から二駅離れた地区だ。(博多寄り)
「なるほど。俺と近いな」
「え? センパイはどこなんですか?」
「俺は真島だ」
「うわ! 自転車で行けるレベルじゃないですかぁ~」
中学生かよ。
「まあそうだな」
俺は自転車ではいかんが。
改札口を通り、列車に乗る。
列車は空席が目立つ。
二人してお見合いの形で対面式に座る。
「真島って有名な店がありますよねぇ」
「そんなんあるか?」
「えっと……BLってわかります?」
わかるよ、嫌気がさすぐらい。
「痛いBLショップがあるって三ツ橋高校では有名なんですよね。店主はガチホモで、その子供もホモガキ。それから、これは裏情報ですけど……店のトイレではハッテン場にもなっているとか?」
噂に尾ひれ! 尾ひれつけ過ぎィ!
「へ、へぇ……その店の名前はなにかな?」
「確か……貴腐人」
「それ、俺のかーさんの店」
「……ウソ」
「ホント」
「「……」」
それからひなたのやつは、なにかを察したのか無言を貫いた。
『梶木~ 梶木~』
「じゃ、下りるか?」
「え、いいですよ。わざわざ下りなくても……」
「いや、夜道を女子一人で歩かせるのは、俺のルールに反する」
紳士的判断!
「そんな……いつも塾帰りとか…これぐらいの時間になるのに……ブツブツ」
なにをボソッと喋りよるか。ハッキリ言わんか。
俺とひなたは列車から下りると、梶木駅の改札口を出る。
「家は近いのか?」
「歩いて10分ぐらいです」
頬を紅く染めて、一歩後ろにさがる。
なんでこんな時は遠慮がちかね?
梶木駅も博多駅まではデカくないが、ビルと駅舎が一体化しており、複数の店がある。
駅ビルを出て、『セピア通り』をしばらくまっすぐ歩く。
少しすると左手に回り、『梶木キラキラ商店街』に入った。
地元の真島商店街とは違い、道幅も広く、店もオサレ~ なのが多い。
しかも、真島より商店街の規模がデカい。
商店街の入り口から長~い道のりだ。
なので、出口がすぐには見えない。
「くっ! 真島の負けだ!」
「なにがです? 真島もいいところじゃないですか」
「嫌味に聞こえるが」
「だって同じ福岡市じゃないですか」
嘲笑すんな。
かっぺムカつく!
やはり梶木民は福岡市民としての民度が高い。
俺らが住んでいるギリギリ福岡市内の真島とは大違いだ。
店もオサレ度も段違いだ。
福岡市民……いや福岡県民は地区ごとにおいて、競争意識や地区によって差別しがちだ。
博多や天神、大名に近いほど、ステータスを感じていいのだ。
梶木は博多からそんなに近いわけではない。
だが、昔から何かとオサレ度が高いことで有名だ。
居酒屋もレパートリー多いし、オサレな古着屋、もっちゃん饅頭とか……。
度々、ローカルテレビ局にて取材される街なのだ。
「しかし、梶木もまた色々と変わったな」
「いちいちおっさん臭いですよ」
梶木キラキラ商店街を抜けると、真島にもあるスーパー『ニコニコデイ 梶木店』が見えた。
「ほう、梶木にもニコニコデイが進出しているとは」
「失礼なニコニコデイぐらいありますよ!」
ぐらいとはなんだ! これだから梶木民は!
ニコニコデイの前には大型道路、国道3号線が流れている。
大型の立体交差点があり、横断歩道がないため、強制的に歩道橋をあがる。
歩道橋を渡ると、博多湾に隣接する梶木浜方面へと進む。
梶木駅と梶木浜の中間ぐらいに、ひなたの住む家があった。
比較的新しい建物で、オートロック式のマンション。
しかもかなりの高層建築。
チッ! なぜ人間は空を飛べないくせに、天空へと近づきたがる?
お城が宙に浮いているとでも言いたいのか?
「あ、ここまでいいですよ♪」
「ふむ、そうか……しかし、デカいマンションだな」
「私は産まれてからずっとこのマンションですよ?」
「お値段のほどは?」
「そ、それは知らないです……パパが買ったので」
買ったってことはもうローン払いおわってんのか!?
それとも一括払いですか?
「そう言えば、有名人もたくさん住んでいるんですよ」
「は?」
「ミュージシャンとかお笑い芸人とか……」
「どうせローカルだろ」
これ博多あるある。
「違いますってば! 東京の方々ですよ♪」
めっさ笑ってはる。
どうせ真島に芸能人は来ませんよ!
「じゃあな」
バリムカついたので背を向ける。
「あっ、待ってください!」
呼び止められて、振り返るとひなたは手にスマホを握っていた。
「あ、あの……L●NE交換しませんか?」
「ダメだ」
「……なんでですか!? アンナちゃんとは交換してたじゃないですか!?」
「L●NEは既読スルーという、いじめが横行しているのを知らんのか?」
ダメ、ゼッタイ!
「しませんよ! そんなこと……」
「まあどちらにしろ、アンナとしか連絡できないように設定している……らしい」
「はぁ!?」
ブチギレですやん。
「仕方ないだろ。特殊な取材対象でな。電話番号とメルアドなら構わんぞ?」
「今時、電話とかメルアドとか古くないですか!?」
悪かったな! 古くて!
俺は口頭で、自身の連絡先をひなたに教えた。
ひなたは不満げにブツブツとぼやきながら、マンションの中に入っていった。
彼女が帰ったことを確認すると、やっとのことでスマホの電源を入れる。
起動した瞬間だった。
YUIKAちゃんの可愛らしい歌声が……あ~癒されるぅ~
のも束の間。
着信名、アンナ。
忘れてた……てへぺろ♪