いい映画を鑑賞すると、テンションが上がる
白金の策略にまんまと引っ掛かり、俺は初のラブコメ作品『気にヤン』の執筆にとりかかった。
まずは主人公が高校に入学し、アンナと衝撃的な出会いからデートをするまではスラスラと書けた。
しかし、それ以上は書けなかった。
なぜならば、実体験を元に小説を書いているために、デートの回数が足りない。
「またアンナの力を借りないとな……」
キーボードのタイピングを止めるとノートPCをたたんだ。
スマホの時刻を見れば『17:45』
もうこんな時間か……。
「ダメだ。なにも浮かばない」
そう……こんなときこそ、映画でも観てリラックスせねば!
ダメだ。映画が観たくなってきた……ポカーン。
よし映画を探そう。
俺は簡単に着替えをすますと、家を出た。
地元の真島駅から博多駅へと向かう。
目的地はカナルシティ。
この前、アンナと世界のタケちゃんの作品『ヤクザレイジ』を観たのだが、あの時はアンナの痴漢騒ぎで内容が頭に入らなかったので、もう一度観たいと思ったからだ。
博多駅にも映画館はあるが、俺は昔からカナルシティが好きだ。
でも一番好きなのが、中洲にある映画館『中洲サンシャイン』だ。
カナルシティにつくと、平日だというのに若者で溢れかえっていた。
たぶん学校帰りの学生たちだろう。
ちらほらと制服を着たままのJKやDKが、キャッキャッとアホみたいにはしゃいでいやがる。
リア充は他にいけ!
軽くイラつきながら映画館へと向かう。
チケット売り場でもやはり学生たちが多い。
こいつら、制服着たままで遊びやがって……。
おめーらが、映画の悦びを知るにはまだ早いんだよ!
と毒づいたところへ、見慣れた制服が。
あれは三ツ橋高校の生徒だな……。
がたいのいい青年と校則無視のミニスカJK。
カップルかよ……。
「なあ、なにを観たい?」
青年は親しげにJKへと肩を寄せる。
JKは何か嫌そうな顔しているな……。
なんじゃろ、倦怠期か?
「私は別になんでもいいです……福間先輩から誘われたんで」
福間? どこかで聞いた名だな~
「じゃあ、こうしようぜ。この映画館は13個のスクリーンがある。だからお前の好きな番号で決めよう」
ファッ!? そんな無茶苦茶な選び方……全ての映画監督に謝れよ!
「おもしろそうですね。じゃあ5番で♪」
女も同調すんな!
「よし、5番か……えっと『ヤクザレイジ』だな」
そう言うと、ルーレット感覚で男は、チケットを購入し、女を連れて劇場へと向かった。
キレてもよかですか?
ったく、こんな映画愛が足りない奴らと、タケちゃんの崇高なる作品を観なければならないとは……。
俺は激おこぷんぷん丸で、チケットを買う。
「ヤクザレイジ、高校生一枚」
機嫌の悪さを察したのか、受付嬢が苦笑い。
「お席の方はどうしますか?」
「一番前の真ん中で」
あのバカップルと、肩を並べて観たくない。
席を一番前にすれば、一緒になることはないだろう。
~2時間後~
「いやぁ、いい映画だったなぁ。公開終了するまで、毎日観に来ようかなぁ」
だって、経費で落とせるからね♪
俺はタケちゃんの作品を存分に楽しむと、余韻に浸りながら映画館をあとにした。
スマホの時刻を見ると、『19:30』
ふむ、腹が減ったな……。
ラーメンでも食って帰るか。
俺は『はかた駅前通り』をてくてくと歩く。
鼻歌交じりで。
歩くこと数分、博多駅の駅舎が見えてくると、俺は右手に曲がり、人気の少ない通りに入った。
主に居酒屋が多く、サラリーマンなどが帰りに一杯やるところで、知られている。
そしてラブホが複数あるのだ。
こんな駅の目の前で『おせっせ』しなくてもよかろうもん。
そして、お目当てのラーメン屋に着く。
「う~ん、いい香りだ」
豚骨ラーメン独特の濃ゆい香りが漂う。
俺はこのラーメン屋が大好きだ。
博多駅に来れば、決まってラーメン屋は、この店と決めている。
その名も『博多亭』
「よし、食うか」
その時だった。
ラーメン屋のすぐ隣りのビルから、叫び声が聞こえた。
「いやっ!」
「いいだろ!」
「やめてって言ってるじゃないですか!」
制服を着たJKとDKがラブホの前で揉めている。
大柄のDKがJKの手を掴み、強引にラブホへと連れ込もうと試みている。
なんじゃ? 痴話げんかか?
トラブルはごめんだ……と願い、俺は叫ぶJKを無視して、再度ラーメン屋に入ろうとする。
が、甲高い声が俺を呼び止めた。
「あ! 新宮センパイ!」
「へ?」
「助けてっ!」
そう言うと、彼女は俺の背中に逃げ込んだ。
「よかったぁ。新宮センパイがいてくれて……」
振り返ると、そこには安心したかのように、胸元で手を握る少女が一人。
ショートカットで三ツ橋高校の制服を着たミニスカJK。
赤坂 ひなたか……。
めんどくせっ!