人の黒歴史ほど面白いものはない
俺は警察に減点とられて、めっさ怒られた。
「未成年がこんな時間になにをしているんだ!」
と激しく迫られ、「仕事です」と答えたが、
正義感の強い警察官は
「若いうちからちゃんとしてないとダメな大人になるぞ!」
と、1時間も説教を食らう始末。
おかげで朝刊配達に30分も遅刻してしまった。
仕事を終えて帰宅すると朝食もとらず、ベッドに直行。泥のように眠った。
ピコン!
通知音で目覚めた。
スマホを見れば、見覚えのある名が……。
白金 日葵。
『センセイ、昨日の今日で悪いですけど、打ち合わせしましょ♪』
クソが!
勤労学生をこれ以上苦しめるな!
当然、ムカついた俺は、お断りの返事を送ることにした。
『無理』
そしてまた眠りにつこうとした瞬間だった。
アイドル声優『YUIKA』ちゃんの着信音が流れる。
曲名は『幸せセンセー』。
これが流れる度に癒されるのだが、着信名を見れば、うつになる。
名前はロリババア。
「はぁ……もしもし?」
『センセイ! 今日は絶対に来てください!』
「うるせさいな……こちとら徹夜だったんだ」
『それは私もですよ! それより、昨日のプロット、早く完成させてください!』
「なにをそんなに急ぐ?」
『編集長に話したら、プロットでもいいから早く読ませろって、やる気マンマンなんですよ♪』
人の苦労を知らずして、ムカつくやっちゃ。
だが、出版される可能性があるならば、朗報だな。
「だいたい、状況は把握した。5分で書いてやる」
そう。俺はこう見えて、速筆なのが売りなのだ。
『さすがですね、センセイ! じゃあお昼に博多社で♪』
ブチッ! と雑な切り方が耳障りだった。
俺はベッドから降りると、学習デスクにノートPCを置いて開く。
起動後、改めてミハイ=アンナをモデルにヒロインを構成し、主人公は自身とした。
~数時間後~
博多社のビルに入ると、受付嬢の
「こんにちは、琢人くん」
「おつかれさまです。倉石さん……」
「どうしたの? なんか目の下にくまが…」
「昨晩、徹夜で取材してたので」
「た、大変ね……」
「そういえば、倉石さん。あのアホの過去に興味ありませんか?」
「白金さんの?」
アホで通じるのが、倉石さんの大好きなところだ。
「はい……これを見てください」
俺は昨晩、ヴィクトリアから頂いた例の写真を取り出す。
倉石さんは身を乗り出して、写真を確認する。
「な、なにこれ!? オバケがいる!」
さすが倉石さん、いい反応だ。
「これ、白金ですよ?」
「え!? 白金さん、ヤンキーだったの!?」
顔面真っ青になり、両手で口を塞ぐ。
「その通りです。
「マジ?」
「大マジです。しかも特攻隊長だったとか」
倉石さんは何を思ったのか、スマホを取り出す。
俺に「これ撮ってもいいかな?」とつぶやく。
その顔はなにやら、悪だくみを考えていそうな形相だ。
「どうぞどうぞ」
この写真はやはりいい素材だな、徹夜した甲斐があったというものだ。
俺と倉石さんが白金の黒歴史写真でキャピキャピ話していると、背後から声をかけられる。
「センセイ? なにをやっているんですか?」
振り返ると、青色のワンピースを着た白金が立っていた。
イルカがたくさん泳いでいるデザイン。しかもツインテールを纏めているゴム紐もイルカ。
水族館のお土産か?
「これはこれは、噂をすれば特攻隊長の白金さんじゃないですか」
俺はニヤニヤが止まらない。
倉石さんもつられて「ブボッ!」と吹き出す。
「な! なぜ、それをセンセイが知っているんですか!?」
急に慌てだす白金。
「え? なんだっけな……ヴィッキーちゃんから、写真を提供してもらってな。ほれ」
俺は例の写真を白金に見せつける。
「そ、そんな! この写真は『それいけ! ダイコン号』解散と共に捨てたはずなのに!」
やるじゃん、ヴィッキーちゃん。
「か、返してください!」
俺から写真を奪おうとする。
だが、俺は余裕で白金の攻撃をかわす。
ぴょんぴょんと、ウサギのようにジャンプするが、低身長が邪魔して届かない。
「返すもなにも。これは俺がヴィッキーちゃんから、もらったものだ。なので、俺の所有物だ」
「は!? 私の写真で何をする気です!?」
「なにも? ただ今後の作家活動を円滑に進めるために……な」
これから、なにかと脅しに使えそうだし。
経費が落としやすくなりそうだし。
白金は唇を噛みしめて悔しそうにこちらを見ている。
涙目で。
「このクソウンコ作家!」
うんこ大好きだよな、こいつ。