伝説の3人
「あたいは『それいけ! ダイコン号』の総長なんだよ!」
「……」
だから、なんだって話。
それより、早く服を着てあげて。隣りにいるミハイルが可哀そうだぜ。
「ねーちゃん! おっぱい丸見えだって!」
「ミーシャ! 勝負は絶対に勝たないとダメなんだ!」
ただの野球拳じゃん。
~1時間後~
「ヒック……ミーシャはもう寝ちゃったか?」
壁にもたれかかって、片足を伸ばすヴィクトリア。
ミハイルより肉付きはいいが、色白で美脚だ。
俺がおそだしジャンケンで負けてやって、どうにか納得したねーちゃん。
ミハイルは、ヴィクトリアの相手に疲れてしまったのか、俺の隣りでスヤスヤ寝ている。
やはり昨日の『アンナ』や『デート』、それに『徹夜L●NE』がこたえているのかもしらん。
身体を丸くして寝ている。
寒そうだな……。
「ほれ、これをミーシャにかけてやれ」
ヴィクトリアがタオルケットを俺に投げた。
手に取ると、これまた例の可愛らしいクマさん柄。
このクマさんは、お姉さまの推しか?
「あ、わかりました……」
起さないように、そっと、タオルケットをかけてあげる。
「ううん……タクト…」
寝言なんだろうが、なんだか恥ずかしくなる。
「よっぽど、坊主を気に入っているみたいだな?」
お姉さん、ウイスキー瓶二本目ですよ?
ラッパ飲みは良くないと思うんです。
「そうですか? 千鳥や花鶴もこんな感じでしょ?」
俺がそう言うと、ヴィクトリアは眉間にしわを寄せる。
「全然違う!」
激おこぷんぷん丸だよ。
「具体的には?」
「まずミーシャは、あたいが可愛く可愛く育てていたんだぞ! おっ死んだ両親に代わってな!」
これ説教だろ。しかも酔っぱらってから更にめんどくさい。
「は、はぁ……」
「だが、坊主に出会ってから、なにやらコソコソとしやがって! つまんねーんだよ!」
寂しいだけだろ! 思春期なんだから、しゃーないよ。
「それはミハイルの年なら、普通のことでは?」
自家発電とかね!
「んにゃ! 全然違う! 坊主は劇薬だ!」
そのお言葉、そのままお返しします。
「そういえば、『それいけ! ダイコン号』の初代総長とか言ってましたよね? ミハイルは2代目なんですか?」
「はぁ? なんでミーシャが関わってくるんだ?」
「なんか、一ツ橋高校で噂になってまして……」
「それはない。ミーシャはあたいが可愛く可愛く育てたんだ。確かにケンカは教えたが、人様の迷惑になるような弟じゃないよ」
このブラコン姉貴!
「じゃあ、なんで……」
「知るか! あたいも蘭も日葵も『売られたケンカは買う』だけだったからな……」
「え?」
「は?」
なんか今、聞きなれた名前が……。
「その……蘭って」
「ああ、蘭は副長だったよ。今は一ツ橋の教師だったよな」
ファッ!?
元ヤンが教師かよ……そりゃ、あんなバカ教師になるわな。
「じゃあ、白金は?」
「なんだ? 日葵と知り合いか? ヤツはああ見えて特攻隊長だったんだ。ちょっと待ってろ」
ウイスキー瓶片手に、自室へと入るヴィクトリア。
戻ってくると、一枚の写真を俺に差し出した。
「こ、これは……」
俺の目に入ったのは、若かりし頃のヴィクトリア。
紫色の特攻服を羽織っている。
もちろん『それいけ! ダイコン号』の刺繍入り。
私たちバカですって、言っているようなもんだろ。
芸人にでもなればよかったのに。
ウンコ座りして大根を担いでいる。
この時から巨乳なんだな。チューブトップからはみ出る胸の谷間。
キモッ!
「ん? こっちは誰ですか?」
ショートカットの黒髪の少女。
目つきがかなり鋭い。
そして巨乳。
大根を同じく担いでいる。
食べ物は粗末にするなよ。
「ああ、それは蘭だ」
やっぱね……。
「うげっ! なんすかこの『オ●Q』は?」
「それは日葵だ」
ええ……。
大根にかじりつく少女。
顔面白塗りお化け……といったところで、誰かさっぱりわからん。
しかも目の周りに真っ黒のアイシャドウ。
パンダかよ。
「こ、これで特攻隊長だったんすか……白金の奴」
「ああ。『頭突きのお化け』で席内じゃ有名だったぞ?」
これはいわゆる黒歴史というやつでは。
「白金もヤンキーだったんすか?」
「まあ、あたいたちがやってきたことが『ヤンキー』というのかは知らんが、さっきも言ったけど『売られたケンカは買う』てことだけをしていたからなぁ……」
ウイスキーをガブ飲みは良くないと思われます。
「じゃあ自らケンカすることはなかったと?」
「まあそうだな、あとは弱いものいじめしているヤツらは、ボコボコにしてやったけど」
それ、立派といえば立派だけど、ちゃんとしたヤンキー!
「なるほど……ところで、ヴィッキーちゃん」
「あん?」
「この写真をお借りしてもよろしいですか?」
「なんだ? あたいの写真でおかずにする気か? ヒック……」
ニヤつくヴィクトリア。
誰がこんなクソきもい写真で自家発電すっかよ。
「いや、ちょっと取材として……」
これはいい素材だからなぁ~
「取材? 坊主、記者でも目指してんのか?」
それよく言われるな。
「いえ、俺はこう見えて、作家ですんで」
「作家? なるほど、繋がったな。だから、日葵と知り合いなんだな?」
全部つながったよ、バカヤロー!
こうなることも見通しての策略か、クソ担当編集、白金 日葵。
「ま、まあそうですね……」
「なぁ、坊主」
「はい?」
ヴィクトリアは俺に近寄り、頭を撫でる。
俺が彼女を見上げると、優しく微笑んだ。
「ミーシャと仲良くしてくれて、ありがとな。最近、よく笑うんだあいつ……」
「え……」
当の本人と言えば……。
「ムニャ……タクトぉ……」
とさっきから連呼しているんだが。
気づかれてない? ヴィクトリアに。