コンビニおもてなし 春のフェア その3
春のおもてなしフェアは、コンビニおもてなしの本支店ならびに各出張所で好調な売れ行きを記録しています。
食べ物を中心に販売を強化しているわけですが、中には少し変化球といいますか変わりダネのフェア商品も投入しています。
その最たる品が、農業納品です。
コンビニおもてなしの本店があります辺境都市ガタコンベは農業と狩猟が主産業です。
そのため、コンビニおもてなしではオープンした当初から僕の世界の農業用品を販売していたのですが、金属製の農具がほとんど存在していなかったこともありまして大人気だったんですよね。
これに関しては「金属は武具に使うもの」という固定観念が大きく影響していた部分もあったわけです。
で、その武具がなんで必要かというと、街の周囲の森に数多く存在している魔獣達と戦うためだったわけです。
ですが、今のガタコンベではその必要性はかなり低くなっています。
と、いいますのも、コンビニおもてなしが誇ります狩猟部門の剣士イエロ・元山賊のセーテンを中心にした面々が都市の周囲に多く出没していたタテガミライオンなどの凶暴な魔獣達を狩りまくっているおかげで、都市の近くに魔獣達があまり出没しなくなっているからなんです。
そのこともあって、本来であれば武具に使用されていた金属を農具に転用出来る下地が出来上がったわけです。
それを受けて、本店の向かいで工房を開いている猫人の鍛冶ルアに金属製の農具の増産をしてもらっていたわけですけど、それがいまだに売れ続けているわけです、はい。
で、春になりまして農耕シーズンがやってきたわけです。
それに合わせて、春のフェアといたしまして農具の販売も強化しているのですが、
「そうだな、春だしいっちょ新調してみるか」
「俺もそうすっかな」
「コンビニおもてなしさんで販売している農具は物がいいからなぁ」
といった具合で、皆さんいつも以上に農具を購入してくださっている次第なんですよ。
……しかし、あれですよね
僕が元いた世界で、コンビニで農具を販売していたじいちゃんって……確かに、コンビニおもてなし本店があった地域は農業がさかんな田舎町でしたけど、だからといってコンビニが農具を販売して売れるわけがないじゃないですか……と、コンビニおもてなしを引き継いだ当初の僕は、倉庫に残っていた不良在庫の中から農具類を見つけて頭を抱えた次第だったのですが……ほんと、世の中何が幸いするかなんてわかったもんじゃないですよね。
あの当時の僕に言ってあげたいですよ『後々どうにかなるよ』って……
もっとも、
『異世界に店ごと転移して、異世界で大人気になるから』
と、続けたら……まぁ、確実に信用しないでしょうけどね……何せ、今でも時々信じられなくなることがありますから……
◇◇
春といえば、我が家の子供達、リョータ・アルト・ムツキ・アルカちゃんの4人はもうじき学校に通いはじめます。
僕の実子であるリョータ・アルト・ムツキの3人はエルフのスアの血が混じっている半亜人種族でして、リョータの将来のお嫁さんとして我が家に居候しているアルカちゃんも猿人の亜人種族なもんですからみんな成長が早いんですよね。
この世界では、亜人種族の血が混じっていると総じて成長が早いみたいです。
このガタコンベにある教会の学校は、僕の世界で言うところの小学校の勉強を教えてくれる場所にあたります。
中高の勉強を学ぼうとすると、ガタコンベよりも人口の多い辺境都市ブラコンベやナカンコンベへ出向く必要があります。そういった大都市にしか中高の勉強を教えてもらえる学校がないんですよね。
ただ、パラナミオは
「パラナミオは、1日でも早くパパのお店でパパと一緒に働きたいです!」
と、強く希望したものですから、スアとも相談した上でその意思を尊重して、ガタコンベの教会の学校を卒業次第、コンビニおもてなしで働いてもらうことにした次第です。
リョータ達に関しましては、パラナミオが僕とスアの養女になって学校に通いはじめた頃よりも幼いですので、数年は通うことになりますので、その間にどうするか決めてくれたらいいかな、と、思っている次第です。
何しろこの世界は人種族年齢で15歳になれば成人ですからね。
亜人種族であれば7歳~10歳になれば同等に扱われるようになります。
なので、パラナミオはもう春からは成人扱いでいいわけなんですよ。
そう考えると……なんか感慨深いんですけれども……まだ当分の間は嫁に出す気は毛頭ありませんけど、何か?
さて、それはおいて置いて……
春からリョータ達が入学することになっている教会の学校のシスター兼先生のシングリランが、コンビニおもてなしの僕のところを尋ねてきました。
すぐに本店の応接室にシングリランを通して話を聞くことにしたのですが、
「実は、コンビニおもてなし様にお願いがございまして……」
シングリランはそう言って切り出してきました。
「パラナミオちゃんが通っていましたのでご存じだと思いますが、教会の学校では学校指定の手提げ鞄をみなさんに提供させていただいていたんです」
あぁ、はいはい。これはよく覚えています。
学校で使用する教科書なんかを入れて持って行くための手提げ鞄なんですよね。
確か今までは、街中の雑貨店が提供してくれていたはずです。
「それが……その鞄を安く提供してくださっていたジンボル雑貨店さんが、鞄の代金を大幅に値上げしたいと言ってこられたものですから、私も困惑している次第なのでございます……」
「値上げって……具体的にどれぐらいなんです?」
「そうですね……今の値段の10倍近くに……」
「10倍!?」
その言葉に、僕は思わず目を丸くしたのですが……よくよく事情を聞いてみますと、それも致し方ないかな、という部分があるわけで……
と、いいますのも、この雑貨店さんは自分達の子供さんが通っていたこともあって、ほぼ材料費だけでこの鞄を提供してくれていたそうなんです。
ですが、その子供さん達もすでに数年前に学校を卒業していて、それでも数年はその当時の代金のままで鞄を販売してくれていたそうなのですが、
「さすがに、これ以上は……」
ここでそう言ってこられたそうなんです。
確かに、材料費だけとなりますと人件費部分が実質赤字ってことですしね。
それに、今の教会の学校には30人近くの子供達が通ってもいますので……
これには、イエロ達の狩りの影響があったりするんです。
といいますのも、イエロ達が街の周囲の魔獣達を狩りまくってくれたおかげで、治安がよくなったもんですから辺境都市ガタコンベの人口がかなり上向いているんです。
まぁ、それでも兵京都市ブラコンベなんかと比べればまだまだ少ないんですけど、治安の悪さを理由に他都市へ流出していた人々がUターンしてきたり、近隣の森の中で暮らしていた亜人種族の人達が引っ越してきたりしているわけです。
その結果、子供の人口も増え、学校に通う子供も増えたわけです。
なので、雑貨店さんの気持ちもよくわかります。
それに、シングリランの気持ちもよくわかるといいますか……
「わかりました、なんとかやってみましょう」
僕がそう言うと、シングリランは
「あ、ありがとうございます! 本当に助かります!」
そう言って、何度も何度も頭をさげてくれました。
まぁ、これでも僕はこの辺境都市ガタコンベの領主代行でもあるわけですし、こういったことにも手を差し伸べないと、と思った次第です、はい。
……さてさて、となると早速テトテ集落のみなさんに鞄の作成を依頼しないと……あと、一応ジンボル雑貨店さんにも話を通しておかないとな……
なんてことを早速考え始めていた僕だったりします。