説明会
入学式が無事に終わったかと思うと、どS先生の宗像教師に呼び止められた。
今から説明会があるそうだ。
宗像先生の案内のもと、会場から校舎に移動させられた。
入る前に「本校の玄関だ」と宗像先生は言う。
「これが?」
学校の玄関と言うにはあまりにも狭く、ただの引き戸式の扉で我が家のベランダのそれと同じやつ、いやそれよりもボロい。
これって裏口でしょ?
続いて「これがお前らの使う靴箱だ」と歩きながら指差す。
超ちっせーし、ボロボロ。恐らく金属製なのだろうが、ところどころ錆びている。
靴箱を抜けると、小さな部屋の前で足を止めた。
入口のプレートには『自習室』とある。
宗像先生が「この教室は全日制コースの生徒が普段使っているのだが、
貧しいのね、お宅の学校。
「通信制コースだけが校舎を使っているわけではない。全日制コースの生徒も利用している。迷惑をかけないようにしろ」
全日制ってそんなに偉いの? いじめに近いぜ……。
「それからすぐ上の事務所だけが我が一ツ橋高校が所有するものだ」
「貧乏すぎ……」
俺が微かな声で呟くと宗像先生がそれを聞き逃さない。
「新宮! 何か文句があるなら大きな声で話せ!」
「いえ、滅相もございません」
宗像先生が怒鳴り声をしかける。こうかはばつぐんだ!
どこからか失笑が聞こえる。笑いたいやつは笑え。
『借り物』の自習室に各々が入っていく。
俺はそこで1つ気が付いたことがある。
遅れてきたから他の生徒を見ていなかったのだが、全員、私服だ……。
いや俺だけスーツとかバカみたいに浮いてるじゃん……。
イスに座って、辺りを見渡すと、明らかに二極化されている。
教室の真ん中から分断され、非リア充(オタク、根暗)とリア充(ギャル、ヤンキー)
陰と陽のように対となしている。
俺はその丁度、境界線。分断される席についた。(そこしか空いてなかった)
つまり非リア充派とリア充派の境目に座っているのだ。
居心地が悪いったらありゃしない。
宗像先生が教壇につき書類を配り終えると、説明を始めた。
「えー、これでお前たちは晴れて本校に入学できたのだが……皆には伝えておかねばならないことがある」
ドSな宗像先生が、更に鋭い目で俺たち生徒を睨みつける。
「お前らはバカだ! だからシンプルに2つしか言わん!」
え? この人、今バカって言った?
俺たちついさっき入学したばっかだよ?
成績も出てないのに、バカにされちゃったよ……ウケる~!
「1つ、喫煙を認める! 2つ、レポートは絶対に貸し借りするな! 以上!」
俺は一瞬、この教室。いや生まれ故郷である福岡から飛びぬけ、大気圏さえも突破するほど、頭が真っ白になった。
レポートの件は良いとして、喫煙って……俺たち未成年やん。法律で禁止されてますがな。
「お前ら半グレのようなやつらは約束を守らん! なので、最初から約束を破ってやる! こっちからな!」
人間不信にも程がありますよ、先生……。
それにちょい待て! 半グレって俺たち非リア充ってコミュ力は低いけど、基本真面目でしょ?
一括りにしないでくれる?
「お前らバカどもは何回言っても、隠れてタバコを吸う! 特にトイレだ!」
あー、確かに駅とかで大きな方してる時、隣の個室から臭うよね……。
ウンコしながら吸っては吐いての繰り返し。正直、タバコよりもウンコ吸ってない? って思うけど。
「いいか! 本校、一ツ橋高校に校舎はない。あくまで全日制コースの三ツ橋高校の校舎を借りているに過ぎない」
やっぱ、金がないんじゃん。俺が卒業する前に潰れるんじゃないのか?
入学金を自分で払っているんですけど。返金制度とかありますかね……。
「よって、お前らが隠れて吸うたびに、吸い殻が校舎に捨てられている。スクーリングの度に私が三ツ橋高校の校長に叱られるのだ! それだけは絶対にイヤだ!」
なんか私情がめっちゃ入り込んでない?
「だから喫煙所を設けている。この自習室の窓から見えるだろう」
と、先生が窓を指差す。確かに外には手書きで『喫煙所 絶対にここで吸え! by宗像』とダサい看板がある。
その下には恐らく灰皿代わりなのだろう。ペンキ缶らしきものがあり、隣にはベンチがある。
「レポートも写してはいかんが、タバコだけはちゃんと決められた場所で吸え!」
なにここ? 俺、来ちゃいけない所にきたの?
「あと、スクーリングには絶対に来い。ちゃんと来ないと単位をやらんぞ」
あれ? 今の3つ目じゃない? 先生もバカなの?
「では、ここまでで質問があるものはいるか?」
宗像先生がそう言うと、辺りは静まり返った。
俺は周りを見渡すと非リア充派は『タバコ』というワードで縮こまっている。
対して、リア充派は宗像先生の話自体聞いておらず、各々がスマホを触ったり私語をしたり、居眠りまでしている。
ここは動物園だ。
ヤバい、ヤバい、間違いなくヤバい!
入学先を間違えた。クソ編集の『ロリババア』がここを薦めたから入ったのに、まるで人間として扱われてない。
やはり俺のような非凡な人間は『あの場所』に還るべきだ。
「質問、いいっすか?」
俺の隣りにいた席から手が挙がった。入学式で隣りにいたヤンキー少女だ。
少女は宗像先生を真っすぐな目で見つめている。
入学式ではやる気ゼロだったのに、初日から質問とは勇気あるな。やっぱツンデレ娘じゃないか!
「なんだ?」
宗像先生が問うと、少女は黙って席を立ち、教壇にいる宗像先生の前まで歩み寄った。
その姿はとても堂々としており、ヤンキーでなければ、天使の行進といったところか。
「あの……」
先ほどの威勢はどこに行ったのか。か細い声で先生に耳打ちする。
なるほど……天使さまの聖水かな。
「はあ!?」
驚きと共に宗像先生が顔をしかめる。
「ったく、これだからお前らは全日制コースに通えないんだ……」
ん? どういうことだ? おしっこしたらあかんのか? それともウンコなのか?
「コイツが言うには今タバコを吸いたいんだと」
ファッ!
「いいぞ、吸ってこい……」
先生は呆れた顔で少女を手で追い払うように、喫煙を促す。
少女は宗像先生のことなど気にせず、タバコを片手に自習室から出て行った。
続けて、先生は「他にもタバコ吸いたいヤツいるか?」と生徒に尋ねると、「俺も私も」と生徒の大半が教室から出て行った。
ま、リア充グループだけだがな!
俺はバカバカしくなっていた。
なんのために、行きたくもない高校に願書を出し、親父からスーツまで借りて入学式に挑んだのか。
つくづくこの学校に嫌気がさす。
本当にこんな高校で三年間もやっていけるのだろうか?
そう思うと俺は席を立っていた。
「なんだ? 新宮、お前もタバコか?」
疑いを俺にまで向けられたことに腹が立つ。
「違いますよ……お手洗いです!」
「ハハハ、そりゃそうだろな! お前にタバコは似合わんからな!」
嫌味のつもりですか?
ワロスワロス。