第27話 進む※五郎Side※
突如テントから飛び出した瑠千亜を追いかけ姿を見つけた。
途中まで近づいて、ふと踵を返す。
あの雰囲気は、、、
それにしても、テニスの試合会場にて思いの丈をぶつけるやつなど初めて見るぞ。
珍しい奴もいるものだ。
仕方なしに遠回りをして隼たちのコートへと向かう。
先程チラッと様子を見る限り、まだ試合自体は始まっていないようだった。
なので遠回りしても間に合わぬという事はなかろう。
そう思いながら歩いていると、「あれっ!五郎くん!」と、思わぬ人物から声がかかった。
「梨々さん。これはこれは、お疲れ様だった。」
「ありがとーっ!!!五郎くんたちも、お疲れ様!凄く良い試合だったよ!」
「ふむ。そう言って頂けると自信になりまする。」
「だってほんとに凄いよ!五郎くんずーっと昔からテニスやってた人みたい!」
夕日に反射して眩しい笑顔で元気いっぱいに言われると、俺の普段動いているかも分からぬ心臓があからさまに動いた。
これで心が動かぬ者は男ではなかろう。
こんなに愛らしい子を前にして、、、
「ふふ。いずれはずーっとテニスをやってた人である隼と優を倒すつもりでいるからな。早急に彼らに追いつかねばならん。」
しまった。
何故ここで優の名を出したのだろう。
ほれみろ…誠に悔しいことだが、その名を聞いて梨々さんの目が一瞬キラリと光ったではないか。
「その対決楽しみだな!一年生大会の決勝戦で是非見たいな~!」
さすがは梨々さん。
予想外の想い人の名をサラリと交わし上手く会話を繋げている。
このコミュニケーション力の高さには何かの賞を与えたいところだ。
「勿論決勝以外では当たるつもりはないさ。、、、ところで梨々さん、、、」
瑠千亜の方は決着がついていそうだ。
あの様子だと、きっと優も今日中には動くだろう。
そうとなれば、俺も動き出す必要がある。
そのためには梨々さん。
貴女には申し訳ないが、一度貴女を傷つける必要がある。
「俺は優に毎日特訓をしてもらっていたことはご存知であるな?そこで知り得た、優の意外な一面を是非お伝えしたいのだが、、、」
やはり梨々さんは素直な女性であるようだ。
明らかに目が動いたのを、俺は見逃さなかった。