第20話 BET※優Side※
「7コートの第一試合、只今ゲームカウント3-2で、セットカウントはデュースアゲインを繰り返してる…!もしかしたらファイナルゲームになるかもしれないわ。」
試合の順番が控えている選手たちが壁打ちを出来るエリアにマネージャーが試合進行報告をしに来る。
自分たちが入るコートの2つ前の試合の進行状況を度々伝えてもらい、その試合が終わったらそのコートの待機ベンチに入るのだ。
「了解。そのセットが決まったらまた報告に来てくれ。」
本当はこの時点で俺達もコートへ向かうべきなのだろうが、ギリギリまで作戦を練っていたいから敢えてコートへは行かない。
「わかった!」
短い返事をして、マネージャーは再びコートへと駆けた。
「ここからコート近くてよかったね。こんなにギリギリまでコートに行かないペア俺らくらいじゃない?」
隼が笑いながら俺に声掛ける。
「確かにそうだな。でもまあ、今回は相手が厄介だからなぁ。仕方ないだろう。」
「見たことないペアだもんね。データが少ないから1回戦を見て情報を掴むしかなかったもんなー」
「まあ、とにかく向こうはかなりの攻撃型だ。後衛のストロークが速くて、相手後衛が獲り損ねた球を前衛がスマッシュなりポーチボーレーするなりという形で攻めている。相手側がストロークを打っても、基本前衛が取りに行っているな。ロブで凌ぐことは殆ど無い。」
「典型的なレシーブゲームを得意としてるペアだね。」
「ああ。サービスゲームで稼ぐ俺らと相性がいいと言えばいいが........」
「サーブコースをかなり限定する必要があるね。後衛にはバック側、センターラインギリギリ、もしくはネットスレスレのサーブ.....」
「前衛はストロークをそこまで得意としていないから、とにかく速いサーブを打てれば、返ってくる球もそこまで脅威じゃない。」
「むしろ、前衛からのレシーブコースを限定させることができればなぁ」
「それはやってみてだな。様子を見てからじっくり決めよう。警戒すべきは後衛だからな。」
「そうだね。とにかくファーストサーブを確実に入れることを考えよう。」
試合直前にしてはかなり余裕のある会議のように思えるかもしれんが、これは正直言って次の相手にはさほど大きな手を打たなくとも勝てるだろうという見込みがあるからだ。
とは言え、それを口に出したり態度に出すのはこの学園では最もやってはいけない事となっているから、こうして慎んでいる。
「それにしても瑠千亜たちよく勝ったな。」
壁打ちを再開しつつ話題を変えてみた。
「本当にね!途中までしか見られなかったけど、ちゃんと相手のパターン見つけて瑠千亜がリードして五郎に決めさせてたしね!」
「ああ。五郎は俺の猛特訓がなければあそこまでいかなかっただろう。」
「それは大きいと思うよ。五郎自身の能力の高さもあるけど、それに優の教え方が上手だったからあんなに短期間でいろんなことが出来るようになったんだもんね」
「最初は驚くほど何も無い前衛だったからな。」
「パワーとすばしっこさは優並だったけどね」
「まあな。」
「優の特訓のお陰だ、ってさっき梨々さんと小春さんにも言われてたね!よかったね!」
自分で言って悲しそうな表情をする隼。
こいつはなんでいつもこう墓穴を掘るようなことをしているんだろう。
こいつはきっと、俺が雨宮の気持ちに気づいてないと思って、必死に雨宮を俺にアピールしているんだろう。
その度に自分を傷つけることになっているのに。
それをわかっていても、どうにかして雨宮の気持ちを何とかしようとしている。
悪いが、そんなことしても俺の気持ちは雨宮へ向くどころか、むしろそんな健気なお前の方へ向いてしまう一方なんだが........。
雨宮は、素晴らしい女性だと思う。
明るく気遣いができて、前向きで努力家である。
きっと雨宮に好きだと言われて断る男など俺のような例外を除いては、いないだろう。
だから、俺も決して雨宮に不満があるとかではない。
そうではなく、俺が想う相手が、かなり特殊であるが故にやめられないのだ。
長年誰よりも近くにいるからこそ、想いは深くなる一方で。
普通の恋愛のように、告白をしてどうのこうのと簡単に終わるものではない。
だからこそ、こじらせているのだ。
「.........隼。もし、この大会で優勝することができたら.........俺の話を聞いてくれないか?」
大会一週間前に五郎に言われた言葉。
実は俺なりに重く受け止めていた。
いつまでも動かないのでは、なにも変わらない。
俺が動き出すことで、周りもどんどん動いていくのだろう。
だから..........
「お前にとっては驚くだろうし、必ずしも良くない話かもしれない。それでも、聞いて欲しいんだ。俺のことを、嫌ってもいいから..........最後まで、聞いて欲しいんだ。...............約束してくれるか?」
例え嫌われても、蔑まれても、気味悪がられても、それでもいい。
これ以上この想いを心にとどめて置けそうにないのだ。
俺ももう、限界だ。
だから、賭けに出よう。
「.........分った。聞くよ、優の話。」
只事ではないとさすがに察したのだろう。
隼は真剣な目をして頷いてくれた。