ウリナコンベの7号店 序の1
コンビニおもてなし7号店を正式に辺境都市ウリナコンベに開店することを決めた僕は、その旨を商店街組合のエレエに伝えるため、商店街組合へと移動していきました。
今はまだオザリーナ村の商店街組合で仕事をしているエレエですので、僕はスアの転移ドアをくぐってまずコンビニおもてなし6号店へと顔をだしました。
「あ、店長さんご苦労さまです」
僕の来訪に気がついた店長のチュパチャップが、元気な笑顔で出迎えてくれました。
その横には、副店長のアレーナさんの姿もあります。
チュパチャップは元シャルンエッセンス家のメイドの1人だったのですが、そのシャルンエッセンスがコンビニおもてなしをパクったお店「コンビニごんじゃらす」を立ち上げた際にも1人だけ
「こういうのはよくないと思います……」
と、言い続けていた、すごく真面目な単眼族の女の子です。
一方のアレーナさんは、半年ほど前に多めに新人さんを雇用した時から、何もないところですっ転んではチュパチャップのスカートをズリ下ろしてしまうという、ちょっと信じられないハプニングを巻き起こす新人として有名になっていまして、僕も
「ひょっとしたら辞めちゃうかも……」
と、思っていたのですが……あの時の新人の中で今もお店に残っているのは、このアレーナさんだけという、当時ではちょっと考えられない状況になっているわけです。
スカートの件をのぞけば、他は常に一生懸命頑張ってくれていて、ミスも少なく物覚えも早いアレーナさんは、この6号店の開店当初から、チュパチャップとともにこの6号店を支えてくれているわけです、はい。
「アレーナさんは、最近では私のスカートを降ろしてしまうこともなくなったんですよ」
僕にそう報告してくれるチュパチャップなのですが……気のせいでしょうか、どこか寂しそうな気がしないでもないといいますか……
すると
「うわぁ、何もないところでまた転んでしまったぁ」
「ひゃあ!? なんでまたマキモのスカートをズリ下ろすのですかぁ!?」
店の方では、すっ転んでいるアレーナさんが、新人社員のマキモのスカートをズリ下ろしていたのです。
「もう、アレーナさん! あれほどマキモさんのスカートを下ろしては駄目って言っているではありませんか! 卸すのなら私の……あ、いえ、なんでもありません……」
とんでもないことを口走りかけたことに気がついたチュパチャップは、顔を真っ赤にしながら両手で口を押さえていました。
そんなみんなに挨拶をしてから、僕は商店街組合へと移動していきました。
そこでは、エレエが後任の蟻人の女の子に引き継ぎを行っている最中のようでした。
「あ、店長さん。ご苦労様ですです」
そんな僕に気がついたエレエが、笑顔で僕の元に駆け寄ってきました。
「エレエ、今大丈夫だったのかい? 引き継ぎをしてたんじゃ?」
「はい、ほぼ済んでいますので大丈夫ですです。それよりも何か御用事ですですか?」
「あぁ、実はさ、先日打診された辺境都市ウリナコンベへの出店のことなんだけど」
「は、はいですです!?」
僕の言葉を聞くと、エレエが身を固くして僕のことを凝視してきました。
同時に、建物の中で作業を行っていた蟻人達までもが、一斉に僕を見つめています。
そんなみんなの視線を一身に浴びながら、僕は、
「正式に受けさせてもらおうと思って、そのことを伝えに来させてもらったんだ」
そう言いました。
すると、一呼吸後、
「うわぁぁぁぁぁぁ!ありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅl」
エレエはそう言いながら、僕に向かって何度も何度も頭を下げました。
他の蟻人のみんなも、歓声をあげたり万歳したりしながら僕に向かって頭を下げてくれています。
「い、いや、むしろこちらこそ、こんなお話を頂けてすごく感謝してます、はい」
そんな皆さんに向かってそう言いながら、僕もまた何度も頭をさげていった次第でした。
◇◇
その後、軽い打ち合わせをした僕とエレエ。
その結果、近いうちに辺境都市ウリナコンベへ視察に行くことになりました。
「私は、明日には辺境都市ウリナコンベへ向かって出発するですですので、いつでもお越しくださいですです」
そう言って頭を下げたエレエ。
「そんなに早く到着出来るのかい?」
「はいですです。私達蟻人族の中に、羽根蟻人族がいますます。彼女達に空輸してもらうですですので」
そう言って笑うエレエ。
羽根蟻というと、僕が元いた世界で考えるとシロアリとか、やっかいなやつらしか浮かんでこないのですが……その羽根蟻人さんのおかげで、荷馬車で半月以上かかる辺境都市ウリナコンベまで、わずか1日で到着出来るというのですから、僕も思わず感心しきりだった次第です、はい。
細かなことをいくつか話あった後、僕は商店街組合を後にしていきました。
その細かな話し合いの中で、
「コンビニおもてなしさんの建物は商店街組合で準備させていただきますます。よろしくお願いいたしますます」
エレエはそう言ってくれました。
そのおかげで、今回は店舗の心配はしなくていいことになりました。
この初期投資が不要というのもかなりありがたかったです、はい。
「さて……あとは、店員をどうするか考えないとな」
僕は、自宅であるスアの巨木の家に向かいながらそんなことを考えていました。
慣例的にといいますか、新規開店した店舗が起動に乗るまでの間は、僕が店長として新支店に乗り込みまして、あれこれ指示をしながら営業を行っているんです。
その慣例通り、この7号店の店長として、まずは僕が乗り込むことにしました。
「そんなわけで魔王ビナスさん、しばらくの間コンビニおもてなし本店をよろしくお願いしますね」
「はい。お任せくださいな」
僕の言葉に、魔王ビナスさんはにっこり微笑んでくれました。
現在、コンビニおもてなし本店の副店長兼新人研修担当をしてくださっている魔王ビナスさん。
その名前のとおり、ここパルマ世界とは別の世界の魔王さんだったビナスさんは、その小柄な体型とは裏腹に、とんでもない魔力を有しているそうなんですよね。
まぁ、この世界に転移しておきながら魔力の「ま」の字も有していないし、感知も出来ない僕ではそのすごさがさっぱりわからないのですが、そのにこやかな笑顔での接客と手際の良さが群を抜いていることは、そんな僕でも実感している次第です、はい。
そんな魔王ビナスさんがいますので、本店は大丈夫でしょう。
一方の新店舗ですが、僕が店長として勤務することがこれで決定しました。
そして、さしあたって二人目の店員として、僕はパラナミオを一緒につれて行くことにしました。
新人研修を異例の速さでパスしそうな勢いのパラナミオ。
今まで、暇さえあればコンビニおもてなしのお手伝いを行ってくれていたおかげなわけなんですよね。
その日の夕飯の際に、
「パラナミオ、父さんと一緒に辺境都市ウリナコンベの7号店に行ってくれるかい?」
「はいパパ! 行きたいです!」
僕の言葉に、パラナミオはすごい勢いで右手を挙げてくれました。
同時にパラナミオは、
「いつかパパと一緒のお店で働きたいとおもっていたのですが……まさかこんなに早く夢が叶うなんて夢にもおもっていませんでした」
そう言いながら、僕に抱きついてきました。
そんなパラナミオを、
「パラナミオ姉さん。おめでとうございます!」
「おめでとうアル!」
リョータとアルカちゃんが抱きしめてくれました。
さらに、そんな僕達をアルトとムツキが抱きしめてくれまして、そこにスアが加わり……と、いつしか田倉家名物家族の輪が出来上がっていった次第です、はい。
そんなわけで、7号店のオープニングスタッフとして、僕とパラナミオを決定しました。