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「ただのガラクタだと思っていたが、ピノがこの鏡を見て母上と交信したとなれば、嘘ではないことがわかるな……」
「ローゼフ様……!」
「――でも、なぜ母上は髪飾りを私に渡せとピノに命じたのだろうか……」
「ローゼフ様、それは恐らく貴方様にしかるべきところにそれをおさめて欲しいと言う、マリアンヌ様の願いではないでしょうか?」
パーカスのその言葉に彼は気づかされると、うなずいて返事を返した。
「ああ、そうかもしれない。母上が大事にしていた宝石やアクセサリーは全て、あの箱に納められていた。きっとそうかもしれないな…――」
ローゼフはそう話すとピノのことを不意に思い出した。
「パーカス、ピノを探そう……! きっとあの子は怒っているかも知れないが、あの子は私の大切な人形だ! それにあの子はまだ幼い。私は謝って、あの子をこの腕で抱き締めてやりたいんだ…――!」
「ローゼフ様、そうですとも! ピノは人形ですが人間の幼い子供となんら変わりはありません。ピノには貴方様が必要なのです! ましてや人形なら、なおさら貴方様が必要なはずです…――!」
「ああ、そうだ。ピノを探そう……! あの小さな体では、そう遠くには行ってはいないはずだ…――!」
彼はそう話すと心から過ちを悔やんだ。そしてピノに会いたいと心から強く願った時、目の前で突然フォントボーの鏡が光を放った。2人は目映い光を放つ鏡に目を向けると、鏡の中にピノの姿が映りこんだ。ピノは森の大きな木の下で横たわり、雨に濡れて寒さに凍えていた。ローゼフは取り乱したように鏡に触れた。
「なんてことだ……! 寒さに震えて可哀想に、早くピノを見つけてやらなくては……!」
ローゼフは胸の中が締め付けられると、自分のおかした過ちに酷く後悔した。
「ローゼフ様、きっとこの鏡は貴方様にピノの居場所を教えているのです……! 近くの森を探しましょう!」
「ああ、そうしよう……!」
2人は鏡から離れると、ピノを探しに屋敷から外に出て行った。
ピノは雨の中、小さな体を震えさせながら涙に暮れた――。
ボクは人形なのに、なんで寒さを感じるんだろう。
ボクは人形なのに、なんで悲しいんだろう。
ボクは人形なのに、なんで心があるんだろう。
一層、人形のままいた方が幸せだったかも知れない。
ボクには薇がない。 ボクはローゼフの愛で動いている。
彼の愛がなくなったらボクは壊れて動けなくなるのかな?
ローゼフに会いたい。
ローゼフにもう一度抱き締めて欲しい。
ボクにはローゼフしかいないんだ。
ローゼフがいないとボク死んじゃう……。
ローゼフ……ローゼフ大好き……。
ピノはローゼフから受けた仕打ちに対して、純粋なまでに彼のことを想った。彼に嫌われてなじられてもピノにはローゼフしかいなかった。ピノは寒さに凍えながら、彼に会いたいと強く願った。