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 その日の朝、ローゼフは朝食をとっていた。彼はクロワッサンを手にとると、それを膝掛けようのナプキンに包んでくるんだ。パーカスはそれを見逃さなかった。

「ゴホン、ローゼフ様。貴方様のような高貴なお方が、そのようなまずしい庶民がするような真似ごとはよろしくないかと存じ上げます。亡き父上様がそのような光景をみたら嘆くに違いありません」

 その言葉にローゼフは突如カッとなった。

「黙れパーカス! お前ごときが父上の事を軽々しく口に出して言うな!」

 そう言って怒鳴ると、テーブルの上に置いてある食器を片手で払い除けて床に落として割った。

「気分を害したなら謝ります。しかし使用人達が妙な噂をしていたのを小耳に挟み、私も気になった次第でございます」

「妙な噂だと……?」

「はい。貴方様の部屋を偶然とおりかかった者が、部屋の中から貴方様以外の声を聞いたと言っておりました。噂によればその声は幼い少年だったとのことです。私は貴方様のことを悪く言う気はないですが、あまりそう言った趣向はよろしくないかと思います」

「何……?」

「貴方様は偉大なシュタイン家の伯爵様でおられます。スキャンダルな噂は社交界では、相応しくないと申し上げる次第でございます」

 そう言ってパーカスが話すと、ローゼフは激昂した様子で言い返した。

「黙れパーカス! 私が色情に狂ったとでも言いたいのか!? 私が自分の部屋に少年を誘い込んだと言いたいのか貴様! 今度そんな生意気な口をきいたら解雇してやるからな!」

 ローゼフは怒りがおさまらなくなると、急に椅子から立ち上がって自分の部屋に戻って行ったのだった。部屋に戻ると少年は大人しくベッドの下に隠れていた。そして、ベッドの近くで声をかけるとピノはすぐに下から飛び出してきて、彼の脚に無邪気に抱きついてきた。

「ローゼフお帰りなさい! ボクベッドの下で大人しく良い子にしてたよ、偉い?」

 ピノはそう言って無邪気に笑った。

「あれ、ローゼフどうしたの? なんか元気がないね?」
ピノが心配そうな顔で話しかけると、彼は疲れた顔でベッドに腰を下ろして座った。彼が座るとピノは無邪気に膝の上に座った。

「ボク、ローゼフの膝の上だぁい好き!」

 ピノはそう言って甘えると、にこりと愛らしく微笑んでふり返った。

「そうだピノ。お前にお土産があるぞ?」

「わぁい、ありがとう! そのパン美味しそうだね! それになんかいい匂い!」

「フフッ、人形なのに匂いがわかるのか? 面白いなピノは――」

「うん、なんかそんな感じがするんだ!」

 ローゼフはピノのその言葉にくすりっと笑うと、ナプキンに包んだクロワッサンを手渡した。

「これなぁに?」

「ああ、これはクロワッサンと言う名前のパンだ」

「食べてもいい?」

「ああ、どうぞお食べ」

 ピノは初めて食べるパンを美味しそうにガブリとほうばった。

「ローゼフ、このパン美味しいね!」

「そうなのか? 私はあまり好きじゃないな……」

 ピノは口一杯にムシャムシャさせながら、幸せそうに食べていた。その愛らしい様子を見た彼は、傍でクスっと微笑んだ。

「クロワッサンもっと一杯食べたい!」

「ダメだ! 次はもっと持ってくるからそれで我慢しなさい!」

 彼がそう言って駄目だと話すと、ピノはションボリしてガッカリした表情を見せた。


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