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湿った空気がタルタロスの牢獄の中に重く漂う。
暗闇の天井からは、時おり冷たい雫が落ちてくる。
ピシャン……ピシャン……
どこかで雨漏りした水が、壁の隙間からも僅かに流れ出ていた。壁から流れ出る水を自分の舌ですくって舐めると、少年は喉の渇きをそれで潤した。
――ここは罪人を幽閉して閉じこめて裁く、 巨大な要塞のような牢獄であった。外の周りは凍てつく寒さと吹雪に覆われていて、例え脱走したとしても、人が助かることはまずなかった。外壁は分厚い壁で無数に覆われていて、高い塀は人の手が届かないほどに、高く高く積み上げられていた。 巨大な要塞には、門は1つしかなく。脱獄することは困難だった。閉ざされた極寒の大地には、人の気配もなく。ましてや、鳥や動物の気配すらもないほど不気味な空気が辺りに漂っていた。そして、あるのは人の道徳から外れた行いが、密やかにおこなわれていた事実だった。
各地から集められた罪深き罪人達が極寒の大地グラス・ガヴナンに収容される。収容されたら最後、二度と外の世界に抜け出すことは出来ない。 そのまま幽閉されて監禁されて、鎖で繋ぎとめられる。そして、自分の死が訪れるのを寒さの中でそれをひたすら待ち続けるのだ。途中で病に倒れて死ねたのならここではまだ運がいい方である。罪人の女が幽閉されればここでは女は、彼らの性の奴隷として生きなくてはならない。タルタロスの看守はどれもが精神が腐りきった者達から、外れた道徳を好む者達だった。彼らは日頃から罪人達をいたぶるのが好きだった。
極寒の大地では法すらも彼らの前では無意味であった。法の番人である裁判官の目を盗んでは、彼らは目が届かない所で、罪人に酷い仕打ちを幾度なくと繰り返した。冷酷な彼らはこのタルタロスの牢獄では、罪人達に恐れられていた存在だった。
――冷酷な看守の1人、ジャントゥーユは人の爪を剥がすのが好きだった。泣き叫んで絶叫する罪人を見ながらジャントゥーユは両手、両足の爪を剥がしながらその様子を不気味に笑って楽しんだ。暴力的な看守のケイバーは、女性をいたぶるのが好きだった。 時に口答えをするような女性がいたら、ケイバーその者の髪を掴んで燃やすような非道な男であった。
大柄の看守、ギュータスは罪人を裁く役目の男だった。死刑が執行される時。大きな斧で、罪人の首を弾くような豪腕の力を持っていた。 無口で美しい顔立ちの男。リオファーレは、何も話さない無口な看守だった。リオファーレはこの4人の中では、唯一まともな看守だった。罪人達を"人"として扱っていたのは彼だけで。それ以外の看守はみな、腐った連中ばかりだった。そして、その中でもっとも恐れられていた看守は残忍で冷酷な看守のクロビスだった。
クロビスは鎖に繋がれた少年をいたぶるのが好きだった。この前も少年を牢屋でいたぶってネズミの死骸を少年に食べさた。クロビスはその光景を思い出しては1人でクスッと冷たく笑う様な、そんな冷酷な男だった。
朝日が昇る頃、タルタロスの牢獄に罪人の悲鳴が少年がいる牢屋まで聞こえた。切り裂くような叫び声が断末魔の如く響き渡った。少年はその声に目を覚ますが、またすぐに眠りについた。
少年は呟く――。
"またか"
ジャントゥーユとクロビスとギュータスが、罪人をイビっていることに直ぐに気がついた。少年にとって気づくのは簡単なことだった。何年も鎖に繋がれていると、少年にはその行動がわかる。何より少年は耳が異常に良かった。薄暗闇の牢屋の中で何年も閉じこめられていると聴力が異常に発達した。少年にとっては情報は大事なことであった。
この牢獄で生きるには情報が全てだった。何年も外の世界を見ていない少年には、外の世界が今どうなっているかを、たまに看守同士が話している会話を盗み聞きしていた。少年は自分の耳を手で塞ぐと薄汚れた毛布に身をくるんで、再び眠りについたのだった。