ララコンベ温泉祭り その2
ガウリーナ集落が出来上がってしばらく経ちます。
予定通り、イエロ達が定期的に現地に出向いて魔獣を狩っているのですが、成果は順調です。
現在のローテーションとしては、イエロ・ルア・セーテン・オデン6世さんの4人がそれぞれリーダーになって、狩猟部門の他の面々を率いて現地に向かっていまして、毎日のように漆黒狼や草原狼を大量に狩ってがその肉を届けてくれています。
漆黒狼に関しましては、あの洞窟のことを教えてくれたナカンコンベの商店のおじさんこと、猿族のグジィさんのお店に早速卸売りしてあげたのですが、
「いやぁ、まさか本当に狩猟してきてくれるとは思わなかった、本当に助かるよ」
グジィさんは嬉しそうに笑顔を浮かべておられました。
で
それを聞きつけたナカンコンベの他の商会や商店の皆さんからも、
「ウチにも漆黒狼の肉を卸売りしてくれ」
「ウチにも頼むよ」
といった具合に、購入希望が殺到している状態です。
……なお、その全ての皆さんが、
「……出来たら、ファラさんを通さずに……」
こっそりそう付け加えていたわけでして……ははは。
コンビニおもてなしの商品を他の商店や商会さんに卸売りする際には、おもてなし商会を通じて対応させていただいているんですけど、ナカンコンベにおけるその取引を取り仕切っているのが龍人のファラさんなんです。
で
このファラさん……元々と言うか、今も異世界のどこかにある洞窟の中で財宝を守っているくらいお金にシビアと言いますか、算術に長けていて、金貨の詰まった布袋を手にしただけで総額を言い当てたり出来る人だったりするんです。
で、まぁそんなファラさんですので、他の商店や商会さんに卸売りする際にもいつも強気で負け知らず。
常にファラさんが想定した値段で取引を締結させている次第なんです。
ただ、だからといって暴利を貪っているとかそんなのではありません。ちゃんと取引した相手が商品を販売してもそれなりに利益が出るように配慮した値段で取引をしていますし、常連さんにはそれとなくおまけをつけてあげたりしているもんですから、取引相手の皆さんからも信頼されているんですよね……まぁ、出来れば他の人と取引したいなぁって思う気持ちもわからないでもないんですが。
……あれ、そう言えばそんなファラさんでも勝てない人がいるっていってたっけ……確か辺境都市トツノコンベで酒場の若い女将さんとか言ってたかな?
まぁ、そんな例外はおいて置くとして、大半のみなさんはファラさんに惨敗続きなもんですから先の付け加えの一言が出て来ているわけですけど……
「まぁ、そんな話はないと思ってくれるかしら?」
と、大きなそろばんを手にしたファラさんが、不適な笑みを浮かべながら皆さんの前に立ち塞がっている次第です、はい。
◇◇
そんな漆黒狼と草原狼の肉を使った新商品
『ガウリーナステーキ弁当』
『ガウリーナ肉野菜炒め弁当』
が、正式にコンビニおもてなし全店で販売開始になりました。
まだ最初ですので全店数量限定で販売しているのですが、今のところ連日全店昼前には完売してしまうほど好調な売り上げを記録しているようですので、徐々にその取り扱い量を増やしていっている状況です。
そのガウリーナ弁当シリーズは、当然辺境都市ララコンベにありますコンビニおもてなし4号店でも販売されています。
この4号店があります辺境都市ララコンベでは、現在『ララコンベ温泉祭り』に向けた準備が進められています。
祭りの本番は週末2日。
この2日間は、街のあちこちに屋台が出たり、イベントが開催されたりする予定になっています。
商店街組合に加盟している商店は、このお祭に合わせて値引きセールをやったり、特別商品を販売したりしています。
で、コンビニおもてなし4号店でも、ガウリーナ弁当シリーズを『ララコンベ温泉祭り新商品』ってことにして販売している次第です。
まぁ、ちょうど販売開始と時期が重なっていましたので、一種の便乗商法ってやつですね。
一応、ララコンベ温泉祭り新商品ってことにしていますので、ここで販売している弁当にだけちょっとおまけを入れています。
この辺境都市ララコンベで飼育されているカウドンという、ボクの世界の牛によく似た動物のお乳~いわゆる牛乳ですね、こっちの世界ではカウドン乳って言われているんですけど、それを使用して作成したチーズを入れているんです。
チーズはすでに辺境都市ララコンベの名産の1つになっています。
これも、周辺の森で群生している野生のカウドンを捕らえてはララコンベの中に設営した牧場の中で飼育していった成果と言えますね。
このカウドン捕縛は、最初イエロ達が全面的に行っていたのですが、今はその手ほどきを受けたララコンベ牧場の力自慢の面々がその役目を引き継いでいる次第なんですよ。
で
コンビニおもてなしは、そのカウドン乳をララコンベ商店街組合を通して仕入れていまして、カウドン乳として販売しているのに加えてチーズに加工もしている次第なんです。
この加工作業はスアの使い魔の森で暮らしている使い魔のみんながやってくれているんですけど、とにかく出来がいいんです。
口当たりもいいし、まるでアイスか何かのように口の中でふんわりとろけていくといいますか……
そのおかげで、コンビニおもてなし全店で販売しているカウドンチーズは人気商品の1つになっている次第なんですよ。
そんなカウドンチーズがおまけに入っていて、それでいてお値段は他の店で販売しているのと同じなもんですから、4号店でのガウリーナ弁当シリーズの売り上げがすごいことになっているのも、まぁ、納得なわけです、はい。
……そんな中
4号店店長のクローコさんがですね、今日はなんだか落ち込んでいます。
店の状況を見にやって来た僕の前で接客しているクローコさんは、ララコンベ温泉祭りバージョンで、すっぴんに近いナチュラルメイクなもんですから、その前にはその美貌に引き寄せられるかのように、ずらっと行列が出来ていまして、隣のレジのツメバが「こっち空いてます」って言っても、ほとんど誰も動かない状況らしいんですよね……まぁ、確かに……今のクローコさんは間違いなく美少女ですからねぇ。
しかし……なんでまたそんなに落ち込んでいるんだろう?
僕が首をひねっていると、そこにララデンテさんが歩みよって来ました。
「クローコってばさ、ファンレターくれた相手とデートに行ったらしいんだけどさ……例によってヤマンバメイク全開の、アクセサリーつけまくりの姿で行ったもんだから、即座に回れ右されたらしくてねぇ」
「あ~……」
その話を聞いた僕は、苦笑することしか出来ませんでした。
絶賛婚活中のクローコさんですので、仕事後にデートに行くのは別にあれなんですけど……クローコさんにとっての勝負スタイルがヤマンバメイクに、ジュリアナスタイルですからねぇ……ポスターの清楚なことこの上ない美少女なクローコさんに憧れてファンレターを送った男性陣にしてみれば
『どちら様ですか?』
状態になってしまうわけです、はい。
「はい、いらっしゃいませ、みたいな!」
と、表面上は元気を装っているクローコさんですけど……いつものクローコさんをよく知っている僕やララデンテさんからみれば、その落ち込み具合は一目瞭然です。
「……とりあえず、ファンレターは祭りが終わってから届けてもらうようにした方がいいかもね」
「うむ、それが最善かもなぁ」
僕の言葉に、ララデンテさんも大きく頷いていました。
そんな感じで……ララコンベ温泉祭り本場が徐々に近づいている次第です、はい。