第1話 死は終わり
どうやら、死んでしまうらしい。
死というのを未だに実感出来ていない。
俺は生まれた時から、病弱で心臓病だった。そんな心臓病が家にいるときに、発症してしまい、しかも自室にいる。
リビングにいる両親に、助けを求めようとしても、声が上がらない。
動悸がおかしい。
頼む、誰か助けてくれ…。
そんな事を思いつつ、自分の部屋で虚しく手を伸ばす。
そうだ。床を叩けば誰かが気づいてくれるかもしれない。
気づいて…気づいて…気づいてくれ!!
そういう思いで。階段の方から慌てた足音がふたつ聞こえてくる。
どうやら、気づいてくれたようだった。
「おい!おい!!里音!!」
「ここを開けて!里音!」
だが、一歩遅かったらしい。俺は必死に胸を押さえ込んでいたが、そんな力も徐々に失っていく。
未だに聞こえる、両親の気迫のある声。
あぁ、最悪だ。
俺はこの病気のせいで、まともに学校に行けていない。
一時期は入院生活もしていた。
小学校、中学校、高校。周りの子達が羨ましかった。
それなのに、俺は行けない。両親のせいじゃないことも知っている。だから、余計憎い。
この病気が。
「もう少し………生きたかった………よ………」
瞼が重たくなるのが分かる。
少しずつ、少しずつ、と瞼が落ちる。
寝ちゃいけない。寝ちゃいけない…!
そう思っても、体が言う事を聞かない。
何故、今になってこうなるんだろう。
薬を飲めば、何とかなった。だけど、今日のはそれ以上に痛い。容態悪化。と言うのは、この事なんだろう。
何だろうか、ものすごく、悔しい。
悔しくて、悔しくて、堪らない。
そんな時、色んなことがフラッシュバックした。これが、走馬灯……と言う奴なんだろうか。
それはまるで、一つのDVDがそれぞれのアルバムで纏められたかのようだった。
それを見ると、不思議と涙が出た。死ぬのが怖い。だけど、いつか来る未来だ。
なら、何故だ。
答えは知っていた。
死ぬのが、本当は怖い。だからなのだ。
俺はとうとう、瞼を閉じてしまった。力がもう抜けてしまい、立ち上がることすらできない。
だから俺は、暗い中に立っているのだろう。ここは死後の世界は何かだろうか。そうだとしたら、素直に受け入れた方が、苦しみが軽減すると思う。
だから俺は、素直に受け入れた。もう死が訪れることを、知っているから。
この日、俺は死亡した。
心臓は確実に止まり、脈もなし。生きている感覚が全くしない。
本当に、死んでしまったんだ。
まだ信じられない。だが、潔く受け入れるしか方法がないのだろうか。
来世に期待するしか、方法がないのだろうか。
♢♢♢
紫藤里音。死去