12 クラウのことが好き…
特訓5日目の最終日にはどういうことなのだろうかクラウと一緒にレイも来た。
ああ、ナゼにそうなるかなぁ ??
「一緒に鍛錬しないか」とクラウが兄を誘ったようだけど、レイまで来ちゃったら私の少年パワハラ丸め込み大作戦の遂行が危ぶまれるじゃないの ?
一昨日はほっぺにキスをして昨日はギュッと抱擁した。だから今日こそはお風呂で背中を流して、それからマッサージでもして二歩も三歩も進んだ関係になろうと思ってたのにな~、とんだ邪魔が入っちゃったよ。
えっ ? こんなんじゃ恋に落ちないって ? ええい、落ちぬなら、落として見せよう ? そんなこんなでゴリゴリいくわよって張りきってたのになぁ。
そして最後の特訓は3人でこなし、3人で私の家にやって来た。
わが家にやって来た記念すべき二人目のオトコはレイだった。
レイはクラウのお兄さんだけど、のっぺりした顔で私のココロは何も響かないのよ。ってか全然カッコ良くない。兄弟なのにふしぎね。
クラウが来たときにはすごくドキドキしたのに、レイが来ても何の動揺もしなかったわ。むしろ「何であなたまで来ちゃったのよ」って、文句のひとつも言いたくなるほどよ !
クラウはこの日もウナ丼を所望した。
「この世のモノとは思えないくらい、とんでもなく美味しいんだよ !」
「おおーー。あの世のものかよ ? そりゃあスゲーな」
レイにも思いっきりすすめていた。
相当気に入ってくれたみたいね。うれしいな !
私は手早くサックリ調理して、3人でおいしくいただいた。レイもけっこう気に入ってくれたみたいよ。そしていつものようにお風呂を用意した。
「今日は疲れたでしょ ! お風呂の用意ができたから入っていってね !」
「おうっ、悪いな ! もう、身体じゅうバッキバキだよ !」
「うん。 …ど、どうぞ。こっちよ」
すると、何故か望まれていないレイがお風呂へ入りにいった。仕方なく案内して、レディの前ですぐに衣服をポンポン脱いじゃう子供みたいな神経の太い奴に、渋々お風呂の使い方を説明した。
ナンでかな ?
うまくいかないなぁ。
コイツの胸筋とか、ぜんぜん興味無いのに。何なら視界に入ると気分が悪いわっ !
何で女子の前でスッポンポンなんやねん !
だけどレイがお風呂に入っているので、リビングに戻ると可愛いクラウが待っていた。いつもと違う彼との食事のあとの時間を持つことができた。
テーブルの上の食器はシンクに移動させ向かい合って座って私達は食後のダージリンティーを楽しんでいた。
私…… クラウに好きになってもらって、ウナギやスッポンでムラムラさせて襲って欲しいなと思って頑張ったんだけど〜、ちょっとムリなのかな ⤵⤵
クラウとの他愛もない会話。これはこれで幸せ…
このまま時間が止まってしまえば良いのに…
「私、クラウのことが好き… 」
あっ ! しまった。心の声がもれて、告白したみたいになっちゃった。訂正しなきゃ。
「あっ。えっと〜… 」
「僕も聖女様のことが大好きです。いえ、むしろ好きを通り越して崇拝しています」
(ええ~〜〜〜〜〜〜〜 !!! 相思相愛だったの〜~~~ !?)
私は慌てて向かい合った席を立ち、クラウの隣の席に移動しグイッと近寄り、彼の左手を私の両手で包み込んでいた。
するとクラウは一瞬少し身を引いて困った顔をした。だけどそれに私は気が付かず話を進めてしまった。
「嬉しい〜~ ! じゃあさ、じゃあさ、キスとかエロいこととかいっぱいできるね」
「えっ ?」
理性が吹き飛んでしまい、握りしめたクラウの左手を… 私のそんなに大きくはないけど、それなりに自信のある胸にギュッと押し付けて、ムニュムニュっとモミモミするようにしてみた。
「あんっ !」
「ええっ ?」
自分からモミモミさせておいて声をもらすのもどうかとは思うけど、どうしたって好きな人の念願の愛撫なのだからたまらなかったの。
「んっ !」
そしてそのままキスをしようとしたのだけど…
「あわわわわっ !!」
クラウは私の手をぐわっと押し戻して振り払うとスゴい勢いで席を立ち、テーブルの横で土下座をしたのよ。
「あれっ ? ナニナニナニ ?」
土下座なんてしなくたって、させてあげるわよ ?
ううん。わたしの身体はあなたの自由にして良いのよ。そして、愛をはぐくむのよね ?
「たっ、たっ、大変申し訳ありませんでした !! 聖女様の崇高な胸に… このような無礼をはたらいて本当にすみません。死んでお詫びをさせていただきます」
クラウはいつも使っている剣を取り出して切腹しようとしていた。って、武士かよっ ????
「ええ~、待って待って ! 好き同士なら良いんじゃない ?」
「いえいえ ! 僕の好きは恋人へのそれとはちがいます。神のように崇拝する聖女様に対して僕の中では許されない行為です」
「良いのよ ! 私が許すから〜 ! 」
「そう言われましても…」
「逆にそんなふうに死んだりしたら絶対に許さないわよ。私の言うことは絶対なんでしょ ! 良いこと、クラウ。その刀をそこに置いてこのイスに座りなさい」
「はい……… 分かりました聖女様」
やっとのことでクラウは切腹を想いとどまった。
ふえ〜、ヤバかったよ〜 !
冷静になって話を聞いてみたら、どうも好きというのは恋愛感情じゃあなかったみたいで…
神さまみたいに崇めているんだって。
レイもお風呂から出てきて話に加わった。
そうよ、私ったら浮かれて興奮してエロいことしようとしていたけど、そもそもレイがいたんだったわ。
っていうかそもそもクラウにはそんな気が無かったっていうのも分かったんだけどね ⤵⤵
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
実はクラウは段々と迫ってくるアイリの誘惑に困惑していた上での予防線としてレイを誘っていたのだ。
しかしながらクラウディーは大聖女アイリが嫌いではない、むしろかなり好きだった。尊敬を通り越して心から崇拝するほどである。
アイリに言われればどんなことでもしたいと思った。どんな嫌なことでも、それこそ火のなかでも水の中でも、下の世話でも足の裏を舐めろと言われても平気だった。もしクラウが大人で全財産を投げ出せと言われればその通りにしただろう。
クラウディーは礼儀正しく頭も良い。それだけにアイリが自分に好意を持って誘っているのも感じ取っていた。
しかし、彼女を聖女として崇拝し過ぎていたが為に、付き合うとか性的な行為をするなどというのは、神にあだなすようで恐れ多くて絶対にできなかったのだ。
聖女様の胸をもむなんてもってのほかだった。
全てを彼女に捧げてもそれだけはできなかった。アイリにとっては非常に残念なことなのだけど彼女の夢はこれ以上どこまでいっても叶うことはないのだ。
ああ無情……
落ち着くとクラウとレイは謝りながら身を低くして帰っていった。
よってクラウディーの貞操は守られた。そして、今後クラウとはこれ以上距離を縮めることができないことが確定してしまったといえる。
(あ~あ、全然上手くいかないわ、びええ~~ん !)
その翌日、悲しいけど落ち込んでもいられない。
ギルドで売らなかった魔物の素材と多少なりとも村の産物を集めて私と村長とレイとクラウでコンテの町のジョエルさんの店に行く日が来たのだ。
少し気まずいけど… 日はまたいだし、昨日よりはまだマシかな ?
一応、転移魔法で楽々行くことができるから余裕。ふう〜、さあ頑張ろう。
前に売り込みに行ってから一週間しか経ってないから村の人達はそんなにたくさんの産物を集められなかったけど、その分できるだけ色々な品を集めた。
それでも魔物の素材は物凄くたくさんあるので見映えは悪くないわよ。
「さあアイリ、コンテの町のジョエルさんの店まで頼むよ。もうこれからはトミーズ商店とギルドには卸さないんだろう ?」
「そうよ。トミーのおっさんには一昨日もたまたま会ってね、また奴隷になれとかってエッチな話をされたからね、も~さ~あの人ヤバイよね ! トミーアンドゴブリンは恐いよ~~ !」
「そうかそうか。あの人も好きだからなぁ」
「ブハハ、アイリにも苦手なモノがあるんだなー 」
「うぬぬぬ~ ! 私はただ、業火で燃やしてやろうかと思っただけよ !」
「聖女様、ゴブリンは結構ですが人を燃やしてはなりませんよ」
「クラウ~、魔法は空に放ったでしょ。本気じゃなかったのよ。ふと一瞬黒焦げにしてやろうかなんて考えが、頭をよぎっただけなのよ。なんて言ったら良いのかな ? あっ、ジョークよジョーク 」
「もし僕が間違いを犯したら、黒焦げにしていただいてかまいませんよ」
「ハッ、ハハハハハ……」
(昨日のことが彼のトラウマにならなければ良いのだけれど…… それでも、これくらいならまだ良かったわ。上手く返せなかったけど、クラウとなんとか普通に話すことがができたよ)