ほっとけないイケメン その1
パルマ生誕祭フェアが続いているコンビニおもてなしです。
パルマ生誕祭ケーキと、オードブルの予約が絶好調でして、毎日のように支店、ならびに出張所から閉店と同時に
「店長、今日の新しい予約、もってきたよ」
と、2号店店長のシルメール、
「店長様、とりあえず他店の閉店時間までに集まりました予約票でございます」
と、3号店店長のエレ、
「店長ちゃん! 今日の予約!みたいな!」
と、4号店店長のクローコさん、
「リョウイチお兄様、本日の予約票でございますわ」
と、5号店東店店長のシャルンエッセンス、
「店長様、本日の予約票になります。とりあえず他店閉店時間までの分でございます」
と、5号店西店店長のスシス、
「店長さん、本日の予約分をお持ちしました……って、ひゃあスカートがぁぁ」
「あぁ、ご、ごめんなさい店長!? お、お忘れ物をお届けしようとしたのですが……」
と、6号店店長のチュパチャップ……と、アレーナさん……
「店長さん、これが本日の予約分でございますめぇ」
と、テトテ集落出張所のリンボアさん、
「……ふぅ、これ、今日の分ね……」
と、ティーケー海岸出張所のファニーさん、
と、みんなが一斉に集計表を持って来てくれています。
毎日凄い数なのですが、特にすごいのが、やはり5号店東西店ですね。
5号店はどちらもナカンコンベの中にあります。
特に、このナカンコンベは、今現在コンビニおもてなしの本支店ならびに出張所がある都市のなかで最大ですからね。
その分、来客も多いというわけです。
で、ここに次いで数が伸びているのが、ファニーさんのティーケー海岸出張所なんです。
この店は、海沿いにありますティーケー海岸の商店街の中にお店があります。
ティーケー海岸の人口は、ナカンコンベには及びませんが、それでも2号店がありますブラコンベよりは多いんです。
そう考えれば、この結果も納得いくというものなのですが……
その予約票を持って来てくれたファニーさんなのですが……
「……ふぅ……だる」
そういいながら、気持ち猫背で歩いておられます。
彼女を紹介してくれたファラさんは、いつも背筋ピーン状態で、ちゃっちゃと行動なさっておられるのですが、それとは好対照なんですよね、ファニーさんってば。
それでも、アルリズドグ商会から魚介類を仕入れる際にはしっかり値切ってくれていますし、お金の管理もしっかりしてくれているのですが……どこかだるそうというか、いつも元気がないというか……
そんな事を思っておりますと、
「ちょっとちょっとぉ! ファニー、あんたってばまぁたそんなけだるそうな格好をしてぇ。客商売でしょ? シャキッとなさいシャキッと!」
そう言いながら、ファニーさんに詰め寄っていったのは、おもてなし商会ナカンコンベ店のファラさん
……ではなく
誰あろう、ハニワ馬のヴィヴィランテスだったのです。
いえね、ヴィヴィランテスによりますと、
「このファニーってばさ、朝、荷物を届けにいってもいっつも机に突っ伏して寝ててねぇ」
「……朝は弱いのよ……低血圧?」
「シャーラップ! 低血圧の龍人なんて聞いた事ないわよあーた!」
「……ふぅ……ファラおばさんよりうるさい、この馬……」
「何よ! 文句あるっての? アタシはね、このコンビニおもてなしの荷物運搬馬としてね、毎朝コンビニおもてなし全店を回っているのよ。そんな私だからこそ、あんたのような勤務態度の店員はね、ほっとけないのよ!」
ヴィヴィランテスってば、本店まで予約票を届けに来ていたファニーさんに向かって一気にまくしたて続けています。
っていうか……
ヴィヴィランテスが何を言っても、糠に釘状態のファニーさん。
これじゃあ、らちがあかない思った僕は、
「ヴィヴィランテス。気持ちはありがたいけど、もうその辺で……」
苦笑しながらヴィヴィランテスにそう言いました。
すると、僕の意図を察してくれたらしいヴィヴィランテスは、
「……ったく、まだまだ言い足りないけど、今日のところは店長の顔を立ててあげるわ」
そう言うと、プイッとそっぽを向きました。
そんなヴィヴィランテスを横目で見ていたファニーさん、
「……ふぅ、なんだもう終わり?」
そう言うと、「ちぇっ」と、小さく口にしたような……
……なんでしょう? もっと叱って欲しそう?……いや、ヴィヴィランテスとお話がしたそう、でしょうか……
少しファニーさんの態度が気になったものの、とりあえず今日のうち、オトの街のラテスさんとヨーコさんがおられる間に1個でも多くケーキを作っておかないといけません。
そこで、僕は
「ファニーさんも、ヴィヴィランテスもありがとう」
そう言って、その場をお開きにして、厨房へ向かって移動していきました。
◇◇
翌日のことです。
この日も、本店が閉店したタイミングで、各地のコンビニおもてなし店舗の店長達が予約票を持って来てくれました。
そんな中……当然ファニーさんも、予約票を持って来てくれています。
「……ふぅ、これ……今日の分ね」
昨日同様に、猫背でだるそうな表情のファニーさんは、だるそうな姿勢で僕に予約票を手渡しました。
「ほらそこ! 昨日あれだけ言ったのに!まぁだそんな態度なの!?」
そこに姿を現したのは、昨日同様にヴィヴィランテスでした。
ヴィヴィランテスは、ハニワ馬の状態のままファニーさんに駆け寄ると
「ここじゃ、お店の迷惑になるからね……さぁ、今日はあなたの家でみっちり説教してあげるから、覚悟なさい!」
そう言いながら、ファニーさんの服のすそを噛んで、引っ張っています。
それを受けてファニーさんは
「……ふぅ……家まで来ちゃうんだ」
なんか、そんな言葉を呟きながら、ヴィヴィランテスに引っ張られていきました。
それを苦笑しながら見送った僕なんですけど……
「……あれ? ヴィヴィランテスが先に立って引っ張っていったけど……ヴィヴィランテスってば、ファニーさんの家を知ってるのかな?」
なんか、そんなことがちょっとひっかかった僕だったわけです、はい……
◇◇
翌日も……
その翌日も……
ファニーさんが背を丸めながらやってくると同時にヴィヴィランテスが現れては
「あんたまた!」
「今日も説教よ!」
「覚悟なさい!」
そんな言葉を繰り返しながら、ファニーさんを引っ張って連れて行きました。
……その成果はほとんどないんですけどね……
ただ、最近のファニーさんが、気のせいか少し楽しそうに見えなくもないというか……
◇◇
その翌朝のことでした。
魔王ビナスさんと一緒に、各支店並びに主張書へのの荷物を魔法袋へ詰め終えた僕。
そのタイミングで、いつものようにヴィヴィランテスがやってきました。
いつものように、スアの使い魔の森と通じている転移ドア……
「……あれ?」
違いました。
今日、ヴィヴィランテスが出て来た転移ドアは、ティーケー海岸出張所と通じている転移ドアだったんです。
「ヴィヴィランテス……なんでティーケー海岸出張所の転移ドアから出て来たんだい?」
僕が首をひねりながらそう言うと、ヴィヴィランテスは首をひねりながら
「ちょっと聞いてよ店長ぉ、ファニーってばね、女の子のくせに部屋の中もぐちゃぐちゃでさぁ、いわゆる汚部屋に住んでたわけ。食事もまともにとってないしね、もうほっとけなくてさ、今一緒に暮らしてんのよ」
そう言いました。
「へ? 一緒に? ファニーさんと?」
その言葉に、僕は思わず目を丸くしました。
「そ、一緒よ。あぁ、でも、変な勘違いはしないでよね。あの子の生活態度を改めるためにビッシビシしごいてるだけなんだから、そう、マジでビッシビシとね」
そう言いながら、ヴィヴィランテスは、準備してあった魔法袋を加えて、背中にのせています。
……この分だと、僕が思っているような展開にはなりそうにありませんが……
最近、ファニーさんが機嫌がよさそうなのって、この影響なのかも……ですね。