終わり、始まる
ギリーが倒れたという情報は瞬く間に屋敷、町へと広まっていった。
その晩は宴から一変、犯人探しとなったが、犯人はあっけなく見つかった。
厨房にあった砂糖、そこから毒が見つかった。仕込んだのは、捕縛されていたもう一人の兵士長、ロチアートだった。彼は「リッジが邪魔だったため」に彼の好きだった甘味の調味料に仕込んだとあっさりと白状した。ギリーが倒れたのは運が悪かったのだと言い、人々は激怒した。彼に対してのみ別個で処遇を行うことが決定し、詳しい内容については後日決められることとなった。
ルーチャは一人、静かな夜の大通りを歩いていた。
屋敷のドアをそっと開け、中を見る。一連の騒ぎが終わり、皆、疲れて寝静まっていた。夜の光を受けて鈍い光を放つ広間を抜けて、階段をコツ、コツと踏んでいく。2階は少し小さめの広間の両脇にドアがついている。その一方のドアへ歩いていき、ゆっくりと開いた。
小さな部屋に所狭しと置かれた大きなベッドにはギリーの遺体が眠っている。せめて今日だけは一緒に、と安置されている。脇に置かれた小さな棚の上のろうそくは既に消えており、真っ暗だ。奥へ歩き、窓を開ける。月は大きくかじられたように細長い。そんなひ弱そうな月でも、部屋の中は明るく照らされる。部屋の奥にはソファと鳥かごが置かれている。鳥かご?この島に鳥なんていただろうか。そんな他愛もないことを考える。
桜色の髪をした少女はベッドの脇に座り、口を開く。
「ギリー、島を取り返したよ」
返事はない。
「みんな、みんな無事だ」
返事はない。
「ほら、今がチャンスだよ。誰にも邪魔されずに言える絶好の、さ」
返事はない。
「ありがとう…って…いっ…」
返事はない。
「…っ……ううっ…」
涙が、言葉を紡がせてくれない。
「どうして…どうっ…じでっ」
会話は一つも成り立たない。そこには、いないから。
「うわあああぁあぁあぁ」
少女はただ、泣いていた。
涙はとうにでなくなり、少女の瞼は重みを増す。ふらふらとソファへ歩いていく。小さな体をゆだねると、沈み込めながらも受け止める。衝撃を受けて、ガタリと隣に置いていた鳥かごもソファに身を寄せる。少女の目の前には小さなかご。
「キミは、どう答えてくれるのかな」
ぽつりとつぶやいて、彼女はゆっくり目を閉じた。
ルーチャが目を覚ます。ここは、芝生の上?ゆっくりと体を起こす。空気がまとわりつくようで気持ちが悪い。頭痛もする。目の前に倒れてるの赤髪の人は?歩み寄って顔を見る。
「ギリー!?」
少女は倒れている男を揺すってみる。
「んん…」
「ギリー、だよね?」
「ああ。どうしたんだ?ルーチ、おわっ」
少女は思いっきり抱き着いた。
「全く、あれだけ心配させといてさ!」
「心配?確かオレはケーキを食って…」
ルーチャから目を離したギリーは、怪訝な表情を浮かべる。
「ここは…どこだ」
「ん?」
二人が辺りを見渡すと、鳥かご状の世界がそこにあった。