俺は悲しき猫である。
20220214
西の茶店
俺は猫である。
名前はマリーだ。
なぜ俺が猫で、なぜマリーなのかは、俺もよくわからない。
だが、俺はどうやら、生後四か月の三毛猫のメスらしい。
どうして一人称が「俺」なのかというと、前世の記憶がしっかりと残っているからだ。
俺は城田祥太郎42歳。中堅企業勤務のサラリーマン。妻と娘がいる。
いや、いたはず、だった。
それがどうしてこうして、今はマリーと呼ばれて保護猫シェルターの世話になる毎日だ。
母猫や兄弟猫はどうしているのだろうか。
気が付けば、一人だった。
誰かに抱かれ、連れてこられたことは覚えている。
まだ小さすぎて、意識がもうろうとしていた。
自分がマリーと呼ばれて、いや俺は城田祥太郎だ、と答えようとしたら「にゃー」と声が出てびっくりしたものだ。
そして、自分の手がクリームパンのような愛らしい猫の手であり、ひげがあり、耳があり、しっぽがあり、三毛猫であると認識したのだ。
どうやら前世の記憶を持ったまま、俺は猫に転生したらしい。
異世界に転生ファンタジーなどは巷で流行っているらしいが、現世に猫に転生とはどうなのだろう?
しかも今は一体いつなのだろうか?
シェルターという限られた世界の中では、情報はほとんどなく、知る術はない。
俺は時間が来ると与えられるカリカリを食べながら、毎日を過ごしていた。