コンビニおもてなしと、ナカンコンベ大運動会 その4
お昼時間になりました。
会場を取り囲むようにして設置されている観覧席で参加者のみなさんが昼食をとっておられます。
ちなみにコンビニおもてなしは、運営委員会の皆さんのお弁当の注文も受けております。
で、その弁当は、今日は僕と魔王ビナスさんが運動会に参加している関係で、食堂ピアーグのみんなに作成してもらいました。
で
「まったく……たまの休みにまで仕事をさせるなんて、ほんとハニワ馬使いが荒いったらありゃしないわね」
その弁当を運んで着てくれたのはヴィヴィランテスでした。
「あれ? 今日は休みだし、ヴィヴィランテスに仕事をしてもらうのは悪いと思って、ピアーグのみんなに電動バイクおもてなし君1号で弁当を運んで来てもらうようにお願いしてたはずだけど……」
僕が、そんなことを思い出しながら首をひねっていると。
「何を言ってるのよ! お弁当運びじゃないの。そんな大事な仕事を食堂仕事の片手間にさせて万が一ってことがあったら大変じゃないの。だからこうしてアタシがきてあげたんじゃないの、しっかり感謝してよね!」
そう言いながら観客席に座っていた僕の横を小走りに駆け抜けていったヴィヴィランテスは、大会本部席へと移動していくと
「お待たせいたしましたぁ、コンビニおもてなしのお弁当をお持ちいたしましたわぁ」
と、この上ないよそ行きな声をあげていました。
……しかしあれですね、会場の配置とか、弁当を持って行く先とか全然教えていなかったにもかかわらず、ヴィヴィランテスってば、躊躇することなく本部に弁当を持っていってくれたわけで……きっと事前にこっそり調べてくれていたんでしょうね。
文句ばっかり言っているようで、いつもあれこれ気をつかってくれるヴィヴィランテス。
彼のおかげで、ホントに助かっている次第です。
……ん? オネェだから「彼」でいいんだよね?
と、僕はどうでもいいことを気にしながら、弁当を配布してくれているヴィヴィランテスの姿を見つめていました。
◇◇
「……旦那様、頑張って」
スアにお弁当を食べさせてもらった僕は、
「あぁ、目一杯頑張ってくるよ」
そんなスアに笑顔を返していきました。
みんなの前で「あーん」をしてもらった僕ですけど……なんか、慣れって怖いですね。
以前は多少なりとも羞恥心が無きにしも非ずだったのですが、今日はごくごく普通にその行為をしていた次第です。
そんな僕達の様子を見て……
「ファラさん……あーん、しますコン?」
「は? 何言ってるのよ、そんなこと、この誇り高き龍人のアタシがするわけ……さ、さぁ、はやく口に入れなさい!」
そんなピラミとファラさんや、
「旦那様、午後の競技は活躍しなかったら晩ご飯抜きよ!」
「は、はい……」
奥さんのチュンチュに文字通り尻を叩かれていたツメバ。
「リョータ様……こ、ここは人が多いアル。あーんは、帰ってからアル」
「う、うん、そうだね」
互いに顔を真っ赤にしているアルカちゃんとリョータ。
と、まぁ、様々な光景が、コンビニおもてなしブースでは繰り広げられていた次第です。
とにもかくにも、こうして気合いを入れなおした選手一同は午後の競技へと参加していきました。
◇◇
ちなみに、このお昼時間のコンビニおもてなしの屋台は、大繁盛していた次第です。
屋台の弁当は、事前に僕と魔王ビナスさんがかなり多めに準備していたのですが、あまりにもお客様が殺到し過ぎたせいで、あっという間に売り切れてしまいました。
「うわ、こりゃすぐに食堂ピアーグに追加をお願いに行かないと……」
僕が慌てて立ち上がろうとすると、そこに再びヴィヴィランテスが颯爽と駆けつけました。
「まったく世話が焼けるわね、ここはアタシにまかせなさぁい。アンタは競技に集中してなさいな」
ヴィヴィランテスはそう言うと、一目散に食堂ピアーグへと駆けていってくれました。
そんなヴィヴィランテスの活躍のおかげで、屋台もどうにか品切れ時間を短時間で済ませる事が出来た次第です、はい。
ヴィヴィランテスは、ある意味今日の裏MVPといっても過言ではないと思います。
◇◇
そんなヴィヴィランテスのおかげで競技に集中することが出来た僕ですが……
ペリクドさんと組んで出場した二人三脚では見事に1位になれました。
身長が190を越えている僕ですが、幸いペリクドさんも同じくらいの長身だったおかげで、互いの長い足を活かした結果の勝利と言えました。
この後
借り物競走でリョータが2位
玉入れに参加した魔王ビナスさんとクマンコさんとその子供達が優勝
……まぁ、これは魔王ビナスさんがほとんど一人で玉を入れまくってくれたおかげなんですけどね。
魔法もスキルも使用していない魔王ビナスさんですが、内縁の旦那さんが子供さんと一緒に応援にきてましたので張り切っていたんでしょう。
そんなこんなで、競技はあっという間に最後のリレーを残すのみとなりました。
現在、コンビニおもてなしチームは2位。
1位は、僅差でドンタコスゥコ商会チームです。
「ふっふっふ、なかなか粘りますね店長さん」
「そりゃこっちの台詞だよドンタコスゥコ」
互いにアンカーを担っている僕とドンタコスゥコは、控え選手のブースで互いに視線をぶつけ合っていました。
女性のドンタコスゥコですが、その足の速さは半端ないんです。
何しろここまで行われたかけっこ系の競技に全部参加していて、そのほとんどで優勝していますからね。
中には男性参加のかけっこ系競技があったにもかかわらず、です。
ドンタコスゥコ商会チームの他のメンバーも、いつも荷物を超特急でお届けするための特急便部隊の面々が顔を揃えています。
黒猫人だったり
飛脚っぽい人だったり
青と白の縞々のシャツを着ている人だったり
カンガルー人だったり
ペリカン人だったり
すごくくそ真面目そうな人だったり
なんか、僕の世界の宅配業界の縮図のようなメンバーがそこに集っていたわけです。
とはいえ、こっちだってここまで来て負けるわけにはいきません。
7名の選手のうち、アンカーは僕。
他は、
ファラさん
ペリクドさん
魔王ビナスさん
パラナミオ
シルメール
ルービアス
以上のメンバーが……
「ちょっと待ったルービアス……お前走るの速かったっけ?」
「お任せください店長、このルービアス、韋駄天の名をほしいままにしておりますよ!
ここまでまったく競技に参加していなかったというか、ほとんど応援しかしていなかったルービアスだけに、ちょっと不安になって聞いた僕に、ルービアスは自信満々に答えました。
このとき、僕はもう少し冷静になるべきでした……
「よーいスタート!」
合図とともに、第一走者が一斉にスタートしました。
コンビニおもてなしチームは、そのルービアスが第一走者だったのですが、
……これが、すさまじく遅かったのです。
「あ、あれ? 水の中では韋駄天のこのルービアスが……」
「「「って、水の中の話かよ!」」」
走りながら困惑した声をあげているルービアスに、僕だけでなくコンビニおもてなしチームの全員が突っ込みの声をあげていました。
その間に、ドンタコスゥコ商会チームの第一走者の黒猫人の女の子はすさまじい速さで首位を独走していきました。
それでも、です。
シャルンエッセンスの声援で奮闘したシルメール
僕や、スア、リョータや急遽かけつけてきたシオンガンタ達の声援を受けて快走したパラナミオ
内縁の旦那さんの声援で、着物姿の裾をたくし上げて疾走した魔王ビナスさん
イタチ人の本領をいかんなく発揮したペリクドさん
そして、ピラミを筆頭にフク集落の子供達の声援を背に土煙をあげながら爆走したファラさん
5人の奮闘のおかげで、ダントツの最下位だったコンビニおもてなしチームは、ファラさんの時点で1位のドンタコスゥコ商会チームのペリカン人にあと一息というところまで肉薄していました。
そして、最後は僕とドンタコスゥコの勝負です。
「店長さん、いつもお世話になっておりますけど、手加減はしないですからねぇ」
「こっちこそ!」
ドンタコスゥコと僕は、ほぼ同時にバトンを受け取りました。
◇◇
「優勝、ドンタコスゥコ商会チーム」
閉会式の会場に、魔法拡声器の声が響いていました。
……はい、最後のリレーですが、僕は全力で走ったのですが、ドンタコスゥコには歯が立ちませんでした。
えぇ、ただのおじさんですからね、僕ってば……気合いだけでは越えられない壁がそこにありました。
精も根も尽き果てた僕は、観客席で横になっていました。
準優勝の盾は、僕のかわりにパラナミオが受け取りに行ってくれています。
「いやはや……面目ない」
膝枕をしてくれているスアに、僕はそう言いました。
まだ息があがっていて、かなり苦しい感じです。
そんな僕に、スアは回復魔法をかけながら顔を左右に振っていました。
「……旦那様、最後まで諦めなかった。かっこよかった」
スアはそう言ってにっこり笑ってくれました。
その笑顔で、僕はなんだか救われたような気がしました。
パラナミオが
「パパ、準優勝です! すごいです!」
盾を持って駆け寄ってくる声が聞こえてきました。
さて、どうにか体を起こして、みんなを出迎えないといけませんね。
グキ
「……だ、旦那様?」
「す、スア……ちょっと、腰を重点的に……ぎ、ぎっくり腰かも……」
み、みなさんも、運動される前にはしっかり準備運動をなさるとともに、日頃から適度な運動を心がけてくださいね。
田倉良一、身をもっての助言でございます。