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104 常識って?(ギン様の苦悩)

精霊樹の分体だという木は、きらきらと上から差し込む光を受け、水の中だというのに大きく枝を広げ、葉を茂らせていた。その葉の中を住処にしているのか、魚や妖精たちが行き交う姿は実に幻想的だった。

「にぇ~にぇ~ぎんしゃま~」
『なんだ?』
呆然と水の中の巨木を眺めているとサーヤが質問してきた。

「せいれいじゅっちぇ、いっぱいありゅにょ?」
『さぁ、私は聞いたことがないな』
「しょっか~」
そもそも精霊樹が複数あるなど考えたこともなかった。まして水の中にあるなど、思いもよらない。

『ねぇねぇ~お父さん』
『知らん』
『まだ何も聞いてないのにぃ』
『すまん。つい』
あまりに驚きすぎて思考が固まってしまった。許せハク。
『も~精霊樹の精様はこれ知ってるかな~?』
『さあ、わからんな』
あの精霊樹の精様は計り知れないところがあるからな…

「あちょで ききゅ」
『それしかないね~』
『そうだな…』
精霊樹の精様は果たして何とお答えくださるか…

「『『……』』」

『そう言えばあったわねぇ~とか~?』
「わしゅりぇちぇちゃ~ちょか?」
『そう言えばに、忘れてた…どっちもありそうだな』
「『ね~』」
精霊樹の精様だしな。しかし、幼い子供たちにまでそんな風に思われているとは、精霊樹の精様恐るべしだな。

『なんだ?地上に居られる精霊樹の精様の話かのぉ?』
「あい」
『そうだよ~』
なぜこんな所に精霊樹があるのか、想像もできんが、地上にもここにも精霊樹があるのは間違いのない事実。
こうなったら亀じぃに聞くしかないな。
『亀じぃ、精霊樹は一箇所に二本もあるものなのだろうか?』
『んん?そんなこと聞いたこともないのぉ』
『そうか…』
やはり、そうだよな。

『そうなの~?でも今は二本、上と下にあるよね~?』
「ね~」
『そうだな…』
『なんと?それは、精霊樹の精様だけがいらっしゃるのではなく、精霊樹そのものが今、この森にあるということかのぉ?』
ハクの言葉にさすがの亀じぃも驚いているな。目が開いている。おそらく精霊樹の精様が神とサーヤに会いにいらした位に思っていたのだろうな。

「あい。しょうにゃにょ」
『なんかね~?エルフと人間が嫌でね、お空飛んで、すごい前に他の大陸からお引っ越ししてきてたんだって~』
ハクが更に説明すると

『は?なんと?』
『『『『ええええ?』』』』
これには亀じぃだけじゃなく、妖精たちも驚いている。

『そうなるよな。実はな、何百年も前から、この森にいらっしゃっていたらしいんだ。我らが知らぬ間に…』
『はぁ?』
『『『『へ?』』』』
驚く声がどんどんおかしくなるな。さすがに気の毒になってくるぞ…

『それでね~、あれ?昨日?もっと前な気がするね~?まぁ、いっかぁ。サーヤに会いたいからって、はちさんとクモさんと一緒に僕たちのお家に引っ越してきたんだよ~』
「ずし~ん ずし~ん♪ぶ~んぶん♪」
『「ね~♪」』
ハクとサーヤが、当然のように話しているが…

『……』
亀じぃはついに無言に
『ずし~んずし~ん?』
『ぶ~んぶん?』
『なぁに?』
『どういうこと~?』
これには奇声しかあげてなかった妖精たちが聞いてきた。

『…ギンよ。解説してくれんかのぉ』
亀じぃが何とか気力を振り絞って戻って来たな
『気持ちは分かるが、そのままだ。引っ越していらしたんだよ。精霊樹を歩かせて。樹に住まわせているジャイアントビーの女王たちごとな』
『楽しかったよ~』
「たにょちしょうだっちゃ~」
歌いながら精霊樹やハチたちを引き連れてきた息子たちの姿は決して忘れられぬ…

『はぁ?』
『『『『えぇぇぇ~!!』』』』
今日一番の声が返ってきた。

『そうだよな。普通はそういう反応だよな。嬉しいよ。仲間が出来て…』
つい、しみじみしてしまっても悪くないはずだ。ハクは…
『何かおかしいのかな?』って言う顔で首をかしげてるな…

「さーにゃは、みんにゃいっちょ、うりぇちい♪」
『そうだよね~♪みんな一緒で嬉しいよね~♪』
『「ね~♪」』
ハクとサーヤはみんな一緒で嬉しいと喜んでいるが

『ハク、サーヤ、そうなんだけどな、そうじゃないんだ…』
物事には限度というものがあるのだ…

『ギンよ。苦労しているようだのぉ』
『亀じぃ…最近、常識ってなんだっただろうかと思うんだ…』
少なくとも樹が自分で歩くことではないはずだ…

『そうさのぉ~普通、精霊樹が歩くとは思わんのぉ~』
そうだよな…我は間違っていないよな

『亀じぃ…ハクとサーヤ達に普通を理解することは出来るだろうか…』
『ギンよ、(少し)大人になったのぉ(まだ序の口だろうがのぉ)』

『無理じゃないかな?』
『無理だと思う~』
『無理だよね~』
『うん。きっと無理~』
妖精達にまで無理だと言われてしまった。

『はぁ~ぁ』
いかん…つい大きなため息が
『まぁ、頑張るんだのぉ』
まるで他人事のようだな…

「うにゅ?」
『どうしたのかな?』
「へんにゃにょ~」
『変だね~』
『「ね~」』
ハク、サーヤ、お前たちの事だぞ

『はぁ~ぁ』
『まあのぉ、その、なんだなぁ』
『『『『ギン様、頑張って~』』』』 なでなで
亀じぃは言葉を濁し、妖精達には慰められてしまった。

『ありがとう』
ああ、ハクやサーヤたちのこの先が心配だ。

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