撃祷師《バスター》のセシル
あなたが灰になる前に言うべきだった。
だけど、言えなかった。
今さらどうにかなるわけじゃないけど、言っておけばよかった。
言葉よりも先に涙があふれ、別離の瞬間が飛び去っていく。
少女が嗚咽するなか、棺が炉の中へ吸い込まれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「銃乱射、立てこもり、人質、殺人、爆破、盛りだくさんだな」
男は所狭しと並んだ資料を眺め、口笛を吹いた。
右手の指を四本、いや、ゆっくりと親指を立てて微笑した。
「お安い御用だと言えないの?」
紺色ブレザーの眼鏡っ娘が目じりをつり上げている。
「イベントが立て込んでて何かと物入りなんでね」
彼は意に介さず左手の指を二本立てた。
「ちょっと! それって今年度予算よ!」
「足りない分は|理事長《おやじ》殿に補填して貰えよ。
生徒会長さん」
彼は学ランを翻すと、内懐から紙を取り出した。
見たこともない商品名と値段が並んでいる。
単価は最低でも一か月分の生活費を越える。
「ちょ、なにこれ?」
生徒会長は仰々しい品目に眉をひそめる。
「相手が相手だ。
相応の|装備《ヤッパ》が要る」
「みんなから集めた生徒会費よ。
行事の準備金よ」
委員長の頑なな態度に学ラン男は愛想をつかした。
「わかった。
やりたきゃやれよ。
合同慰霊祭をよ」
彼は吐き捨てると部屋から出ていった。
「いいの?」
窓辺に耳の尖った女が腰かけている。
紫色の髪を肩になびかせて、黒いセーラー服を着ている。
あり得ない制服だ。
「貴女! どっから入ったの?」
生徒会長が駆け寄るとエメラルドグリーンの壁に跳ね返された。
派手にめくれ、かわいい水玉模様が覗くカーテンの前に四本指が突き出された。
「|撃祷師《バスター》のセシル。
半分でどう?」
「貴女ねぇ!」
慌てて起き上がる会長。
セシルは顔を突きつけ、そっと囁く。
「|あの男《ガゼル》より上手くやってあげる。
表沙汰になっちゃ名門の名折れだものねぇ」
会長はしばし目線を泳がせていたが、「わかったわよ」と承諾した。
するとセシルはキュッと彼女を抱き寄せた。
「えっ、えっ?」
戸惑う会長のおでこにキスをした。
「あんたも手伝いな。
それが条件」
◇ ◇ ◇ ◇
事件の現場となった亜門科学技術院は数ある科学科高校のなかでも異色の存在だ。
例えば錬金術に傾きがちな化学を分子結合学として分離確立し、魔道の入り込む余地を一切排除している。
そこで乱射事件が起きた。
主犯格の男は生徒を盾に取り、学校側の交渉を拒んでいる。
厄介な事に彼は魔法の杖を揮っていた。
薬学部の有志が通気口から潜入、催涙ガスの散布を試みた。
しかし解毒のスペルで無効化されたあげく、とらわれた。
科学科高校の面目丸つぶれだ。
もちろんまだ通報してない。
「帰宅部の三宅史郎。
二年生で非モテ。
成績はどん底。
もちろん童貞。
そら先鋭化するわ」
セシルは水晶玉に犯人の半生をダイジェストして見せた。
「珍しいわね。
カーストの底辺は虐めで|自主退学《つぶ》されるか病んで辞めるのに」
生徒会長は憐れみより興味を優先させた。
「亜門|宮藻《みやも》、|撃祷師《あのこ》の素性を舐めないで」
セシルに言われてぎょっとする。
「バスター? 何で科学科に?」
亜門は眼鏡のレンズに生徒会名簿を投影する。
生い立ちや学習態度など詳細に風紀委員の目線で記されている。
比較的裕福な家庭に生まれ、良くも悪くも平々凡々に育った。
兄弟はいない。
両親はどちらも科学職だ。
魔法と接点はない。
「蛙の子が蛙とは限らない。
彼が撃祷師であることは確か」
百聞は一見に如かず。
二人は現場に急行した。
古びた校舎のガラスが割れている。
全ての窓と出入口は電磁レフ板で塞がれ実弾狙撃ができない。
ちょうど弾道学部の生徒が手製の銃器を構えて包囲している。
「
突入します!」
銃声が響くなか、会長が先頭に立って駆けた。
セシルが横に並ぶ。
「射撃中止! 射撃中止!」
彼女が一喝すると皆一斉に構えを解く。
「なんだお前らは?」
学生の一人が詰問した。
「生徒です」
彼女は短く答え、生徒手帳を見せた。
「あぁ、生徒会長さん。
こんな時に」
部長らしき男がため息をつく。
「犯人との交渉中だって聞いてますけど」
「そうですよ」
会長が答えると部長は黙り込んだ。
「わたしたちはその交渉に来たんです」
「もう終わりましたよ」
「え?」
見ると犯人であるはずの亜門は床に転がって震えていた。
「……どういうことですか?」
セシルは銃口を向けながら尋ねた。
「いや、なにも」亜門はただ首を横に振るばかりだ。
「まあいいわ。
終わったなら帰らせて貰うわね」
セシルは亜門の襟首を掴むとずるずる引きずっていった。
「待ってくれ、助けてくれぇ」
泣き叫ぶ彼女を尻目に扉の外に出た。
「で、どうするの?」
セシルが尋ねると会長は「決まっているじゃない」と答えた。
「校長先生の所へ行きましょう」
「了解」
二人は校内を練り歩き、職員室へ向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なるほど。
そういうことでしたら喜んでご協力致しましょう」
二人の説明を聞いた担任の佐藤教諭が快諾した。
この男も科学部の顧問を務めるバリツの使い手であり「ミスターK」「Mr・カラテ」と呼ばれる猛者だ。
ちなみに本名を「さとこ」という。
由来を尋ねてはならない。
「いえね、今月に入ってもう六件目なんですよ」
彼は机の上に資料を広げると二人に示した。
「事件はすべてここで起こっているようですね」
生徒会長の目がキラリ光る。
「犯人の要求はなんなの?」セシルが口を挟んだ。
「それが、わからないんですよ。
ただ『生徒の命が欲しいのか』と訊いても『ちがうちがうそんなんぜんぜ~ん。
金よこせ金』『じゃ、金目当てで乱射していると?」教師が生徒に問いかけるも、生徒は無言だった。
沈黙が場を支配する。
「つまり犯行の目的ではなく手段が重要なのよ」
セシルの言葉に二人は顔を見合わせた。
生徒会長の眼差しを受けて、副生徒会長は渋々と口を開いた。
「目的は金銭、あるいは脅迫かと思います。
生徒への危害はその目的を隠す為の隠れ蓑に過ぎないのでは?」
「だとすると人質交換かな?身代金とか?」
会長が呟いたときドアがノックされた。
返事を待たずに開いたのは教頭の鬼瓦。
角刈り、眉毛無し。
どこからどう見ても悪役レスラーだ。
そして彼は二人の後ろで目を伏せて立っている少女を見るなり、身を屈めて話しかけた。
「キミ、名前は?」
「
三年生で剣道部に所属しています」黒髪を腰まで伸ばし、制服のボタンを大きく開けた巨乳娘が言った。
「ちょっと、誰なのあのエロい子は?」
生徒会長がささやくと副会長が苦虫をかみつぶす。
「彼女は、その、剣道部の次期主将候補なのです。
だから、その、学校側に許可を求めに参った次第であります……えへっ♪ えへ、あはは」と無理やりな笑い声で取り繕った 。
しかし彼の頬がひきつる様にぴくついているところを見ると内心かなり動揺していることは明白だ。
一方の小百合と名乗る少女は落ち着き払った様子で堂々と自己紹介した後ペコリとお辞儀をした 。
その姿に会長とセシルは胸を撫で下ろしたが、副生徒会長は「くぅ~!私よりおっぱおが大きいぃ」とうめくしかなかった
「いいだろう。
この件については私の方で何とかしておこう。
君はもう帰りなさい」
「あの、まだ用事は終わってないのですけど」
小百合と名乗った少女が言うと担任は顔をしかめた。
まるで邪魔者を見ているようだ。
「しかし生徒から聞いたが君達は交渉役ではないのだろ?」
「いい加減にしなよ!こっちも忙しいんだから。
帰ってくんない!」
「いいからいいから」
セシルは生徒会長を押しのけると水晶玉を覗き込んだ。
「これ、あんたの出番じゃん?」
そこには迷彩色の服に身を包む金髪の乙女がいた。
手に持っているのは明らかにライフル、しかもM4だ。
セシルが指さすと男はゆっくりと振り向いた。
「どうも、こんにちは」
M14のボルトを引くとコッキングハンドルを引き薬室に弾薬を送り込んだ。
銃口を下げたまま近づいてくる様が、妙にサマになる。
「どうぞよろしく」セシルに向かって敬礼をする姿すらさまになっていた。
男の名は「スピア・アンダーソン。
元海兵隊。
階級は軍曹。
今は軍を辞め、私立探偵を生業にしている」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 数日後の夕方 。
会長とセシルが校門に佇んでいると黒いクーペが現れた。
スピアの車だ「待たせたね」彼は窓から顔を出すと乗りなと言った。
「あら、意外と紳士なところもあるのねぇ」セシルは軽口を叩く。
二人が後部座席に乗ると同時にクーペは滑り出した。
「どこに連れて行くつもり?」
「すぐわかるよ」
彼はそれだけ答えるとギアチェンジをして、スピードを上げた。
しばらく走って住宅街の一角にある駐車場で止まった。
「ここは?」セシルが訪ねると彼は振り返らずに言った「オレの家だよ。
ガレージに寄らせてもらった」
「そう、ご家族は?」
するとようやく振り返り、「両親は死んだ」
とだけ答えた。
セシルが気まずげな表情を浮べている間に彼は鍵を開けると家のなかに入っていった 。
二人は家に入った。
「お茶を入れるから、そこにかけていて下さい」彼はキッチンに向かった。
ソファが二つ並んでいるだけのこぢんまりとしたリビングにテーブルがあるだけだ。
セシルは「なんか生活感無い」と思った。
「で、話って?」会長が単刀直入に切り出した。
セシルの膝の上で握られている手が小さく震えている。
「あぁ」
スッ、とコーヒーカップが二人の間に出された。
「これは?」「ブラックは苦手でしょ?」
そう言ってミルクとガムシロップを差し出す彼もブラックのまま口をつける。
「ありがとう。
頂くわね」
彼女は手を伸ばすも一瞬迷うそぶりを見せて引っ込めた 。
「何でそう思ったの? あたしがブラック駄目なこと」「前に一度飲んでいる所を見た事がある」「よく見てるのね」彼女は少し驚いた様子で「それで?」話の先を促した 。
「最近、この近くで銃撃事件が起きているのは知っているか?」
彼女の目が大きく開かれた後で小さく肯いた「それなら話が早い。
その事件を解決して欲しいんだよ」
セシルの顔色が変わった。
「ちょっと待って。
何で? ただの高校よ?」彼女が言い終わる前に「ただの?」男が言葉を被せる。
「ただの、何だ?ただの高校生なのか?本当にただの?ただの高校生がただの女子高生やただの女医と一緒に事件を解決できるとでも?お前らがただの学生ならそれは只事に過ぎない」男の言葉は止らなかった「お前らがもし只の学生でないのならば、その力を是非貸してほしいと思って来た」彼は一拍おくと語りかけた「お前らは、一体何をしてきた?」
彼は語り続ける「お前らのような力を持つ人間が、何もせずに過ごして来たわけがないはずだ」会長は押し黙ったままうつむいている 。
セシルは目を瞑って考え込んだ
「なぜだ?」男の口調がわずかに強くなる。
セシルの脳裏にはあの夜の記憶が蘇る。
あの男達、いや男達の影がセシルと会長を取り囲むように現れた 。
会長の前に一人。
セシルの後ろに一人 スピカの姿が見えた気がしたが気が付くとその姿はなかった……「わたしたちは……」セシルは口を開いた……そして再び閉じた……唇がかすかにふるえていた。
喉につかえる思いがした。
だが、もう後には退けない。
いや、引き返すことはできないのだから。
あの夜の光景を思い返しながら彼女は言葉を続けた
「……わたしたちは……人を助けたいの」
彼女は顔を上げて、まっすぐに男の目を見据えながら続けた「どんな力があっても、人は一人では生きていけないの。
助け合って生きていくしかないの。
あなたにも、大切な人が居たんじゃなくて?」
スッ、っと彼は視線を外した。
何かを堪えるように握りこぶしを作った
「そうだ、助けが必要だ」彼は顔を上げ真っ直ぐな眼差しを向けた「オレを助けて欲しい」「分かったわ。
依頼を承ります」セシルの言葉を聞いた途端、スッと立ち上がると手を伸ばし握手を求めた。
「ようこそ我らが秘密結社〈科学学園の正義〉へ」
男の声は興奮に満ち溢れていたが、なぜか乾いていた
―――かくしてセシルと会長の戦いは幕を開けた ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 3章『魔法と銃の世界』完 4
――四月上旬
――私立明鏡学園高等部
――二年三組 放課後になって間もなくの事だった
――ガララララッ
「失礼します」教室に入ってくるなり小百合が大声で言ったものだから生徒は皆振り向いた 。
しかし声とは裏腹に彼女はどこか自信なさそうな様子だった
「あー!あん時のお姉ちゃん!」
小百合に気付いた亜門が最初に反応する。
小百合は深々と頭を下げると、鞄から書類を取り出すと教壇の上に置いて広げた A4用紙十枚程だろうか。
箇条書きされた文面を流し読む。
どうやら犯行声明書らしい。
犯人のサインはないが日付が入っている。
「えぇ~本日、我々は本校において無差に銃弾を浴びせた。
これは紛れもない事実であり我々に一切の弁解の余地は無いことをここに表明するとともに深く反省したいと思うものである」そして小百合はその一枚に目を落とした。
そこには被害者の写真と名簿が載っていた。
小百合は「あちゃ~っ!」とつぶやくと頭を掻いた。
被害者の中には剣道部の主将、有村小百合の名前もあったからだ。
セシルが横から覗く「あんた、もしかして知り合いなの?」
「べ、別にそういう関係じゃないけど…」
小百合は顔を赤らめながらそっと耳打ちした。
「剣道部の主将として何度か稽古を付けて貰ったことがあるだけなんだけどなぁ~。
それに、私にそんな趣味はありませんっ!」
彼女はセシルに向き直ると改めて自己紹介した
「私は剣道部の主将を務めている有村小百合と言います。
三年生で部長をしています。
以後、よろしくお願いいたします」そう言ってペコリと会釈した 。
彼女は凛々しい立ち振る舞いと清楚で上品な雰囲気が合わさっている為か同性であってもドキッとさせるような女性だった。
黒髪が艶々でサラリと背中に流れる。
まるで漆のように黒く、絹のようだ 「あたしは生徒会会長の神崎セシル」彼女は腕を組みつつ顎をしゃくった。
「一応副会長だけど、ほとんど何もやってないから実質あんたがナンバーツーね」そう言って小百合の手を取ると強く握る。
「ふふ、よろしく」
「ちょっと痛いわ」小百合はセシルの手を離そうとするが中々放してくれない そこへすかさず副生徒が割って入った。
彼は生徒会長の手を掴むとグイィと捻り上げようとした。
「いだだだだっ!」
「会長。
仕事してください」
「分かったから。
ちょっと放して、折れる!」「折っても治りますから問題なしです」副生徒会長が言うと「あんたのそういう所、ほんと嫌い」セシルが文句を言う
「ところで、さっき言っていた事はどういう意味ですか?」セシルが尋ねる「え?なんのこと?」「この学校の銃刀法違反って話」
「そう言えば、銃を持って校内を徘徊していたと聞きましたが」と、有村さんも聞いてきた
「銃刀法っていうのがあってね」セシルが説明を始めた。
「簡単にいうと武器を持つことに関する法律よ。
これがあるから銃火器の携帯には許可がいるのね。
で、これがいわゆる警察の許可なんだけどさ」彼女は制服の内側から小さなカードを取り出して見せる。
そこにはセシルの顔が描かれていた。
「ほら、見てよこの証明書」
「すごい、本物のようですね」「そうそう。
でね、銃刀法は十八歳未満には原則として拳銃等の持込を認めてはいないんだ」
彼女はセシルに顔を寄せ、そっとささやいた「実はあたし、今度十九歳になるのよね」「そうでしたね」「だから大丈夫よ」「ダメですよ」セシルが頬を膨らませていると「つまりこういう事かしら?」
有村さんは納得したように肯いた
「校則に違反していないから問題ないと」「違う違う。
この学校は私有地で、その敷地内で発砲したことの方が重大なの」セシルが反論する「でも、この学校の所有者って……」
「もちろん国よ」セシルが胸を張ると、有村さんは困ったように微笑むだけだった
「まぁ、そう言っても法律じゃあ仕方ないし」彼女はため息をついた するとセシルは再び机に手を突いて乗り出すようにして身を前に乗り出すと「でもさ、この銃が本物だとすれば、まずいんじゃない?」と、彼女の手にある銃に視線を向けた
「これはレプリカ」セシルの言葉を聞いて、ほっと安堵のため息をもらす。
――数分後
「え? 銃が奪われた?!」有村さんが素っ頓狂な声を上げると、「どうやらそのようね」とセシルは神妙にうなずいてみせた。
「誰が奪ったの?」
彼女は小さく首を振る
「分からない」「何の為に?」
セシルが目を瞑る
――十分後 彼女はゆっくりと瞼を開くとその青い瞳を向ける。
そして静かに口を開いた「……恐らく、奴らが動き出したんだ」4章
『魔法使いの従者たち』完
――四月下旬(某県郊外・山の中)
鬱蒼とした木々に覆われ薄暗い山中を進む二つの影。
一つはスーツに身を包んでいるがもう一つは迷彩柄のツナギを着ていた。
彼らは木の間を抜け、藪をかき分け進んでいく。
スーツの男が後ろを振り返ると腰のベルトからぶら下げていたポーチのようなものを手に取る。
そしてそこから何かを取り出すと、それを地面に落とし踏みつけると、たちまち辺り一面に煙が立ち込め、あっという間に視界が遮られた。
その様子を確認した男は先へと進んだ。
しばらく歩いただろうか。
再び振り返ると男達はそこに居なかった。
「よし、予定通り作戦を開始だ」男がつぶやくとインカムに向かって指示を出す
「了解。
これより潜入任務を開始する」通信が途切れ、暗闇の中に沈黙が流れた ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『魔法と銃の世界』
~魔法銃少女、誕生!編〜 第1章『銃と魔法の出会い』
第2章『魔法銃少女たちの誕生』
3章『魔法と銃の世界』◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 5
「あの子たちが心配なんです。
わたしも一緒に行かせてください」小百合は深々と頭を下げた セシルが小百合に顔を上げさせた。
「いや、あのねぇ」呆れた口調で言いかけた時「いや、いいんじゃないかな?」会長の声で二人の視線が集まる
「彼女を連れていこう」セシルが賛成した
――それから二週間あまり過ぎた五月一日。
私立明鏡学園の校舎屋上から眼下を見下ろす二人の姿があった セシルと小百合は、柵の上に両足を乗せて寄りかかり、眼下の様子を見つめている。
「今日から三年生は修学旅行なんだよな」「一年の頃、私も同じところに行ったわ」二人は雑談を交わしていた セシルは小指を立てて言った「あれ?小百合ちゃんって去年までこっちに居たんじゃなかったけ?」
「ええ。
だけど、二年生の時に両親が海外に行くことになって。
それについていったから……」小百合は少しだけ視線を落とした
「ふーん。
それで転校してきたのか」彼女が納得していると、「神崎さんも一緒だったのよね」
「うん」セシルはうなずくと空を見上げた
(あ、飛行機飛んでるわぁ。
どこの国のだろう。
また変な色の機体が居るなぁ。
なんか全体的に紫っぽいし、塗装が斑だ。
なんだっけな。
昔読んだ漫画にそんなキャラが乗ってたような気がするんだけど、名前が出てこないや)
小百合が不思議そうにしていると「どうかしたの?」と尋ねられ我に返る。
「あ、いえ なんでもないの」小百合は慌てて否定する その時だった 小百合とセシルが身構えた。
それは、何者かが自分達の頭上に魔法を行使した気配を感じたからだ 彼女は目を閉じると意識を集中させ、神経を尖らせる。
そして「いた」と短く呟いた セシルが眉根を寄せながら「どんな感じの奴?」
「三人。
全員同じタイプ」小百合は人差し指を立てるとセシルは首を傾げた
「えっと、どういう意味?」「敵は一人だけ。
だけど三人いる」
セシルが「?」を浮かべて腕を組む
「どういうことだろ?」「多分、擬態だと思います」
「へぇ」セシルが関心の声を上げる すると、小百合は右手を胸元に置くと左手を前に伸ばし、その手の平を広げた。
同時に「お願い!」と叫ぶ その瞬間。
手にしていた指輪に光が灯った。
小百合はその光る指輪を天高く掲げると
「チェンジ!!」叫びと共に勢いよく地面を踏んだ 直後 轟音と閃光が周囲を包み込み
――数秒後、静寂が訪れた やがて風が吹き、木々をざわめかせる音が響き始めた。
雲ひとつない真っ青な晴天が広がっている ただセシルだけが、目の前で起きたことにただ困惑した様子で固まっていた ***あとがき お待たせしました 4章完結です いつもご愛読いただきありがとうございます。
5章からは、本編から脱線しオリジナル展開となります よろしければ、応援お願いします
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―――
「ここね」とあるビルの屋上から周囲の様子を窺っているセシル達の姿がある。
そこは街中にある、どこにでもある平凡なビルで看板には会社の名前が大きく掲げられている
――そのオフィスの一室で机に向かい事務仕事をしている男。
彼は時折窓から外の様子を確認するが変化はない 時計の針が進む度に緊張感が増していき、鼓動が激しくなった。
男は、はやる気持ちを抑え、大きく息を吐いた。
そして意を決したかのように立ち上がると、おもむろに窓を開ける。
そして、銃を取り出して構える その直後、背後で扉が開く。
「ちょっとあんた何してるの!」女が部屋に入ってきた。
「お前か、どうしてここに?」男は銃を下ろした
「あんたが遅いから様子を見に来たんでしょ。
そしたら銃を持ってるし、びっくりして隠れちゃったじゃない」
「驚かせて悪かった」「もう 気をつけてよね」
「それよりも状況は?」「相変わらず」女が肩をすくめると「ちっ」男は舌打ちをする セシル達がビルを出ると「さっきの人、怪しくないか?」
「ええ、明らかに挙動不審ね。
怪しい」男が振り返り銃を構えた「ちょっ、ちょっとあんた!」「大丈夫、あいつは俺の仲間さ」「仲間?」「まぁ、いいじゃないか。
とりあえず行こう」男はそう言うと先に進んでしまった 5章 ―魔法使いたちの夜は長い- セシルと小百合、二人の少女がそれぞれ魔法杖を構え、眼前に現れた敵をじっと見据えた。
対峙している敵の数は六人。
全員が迷彩服を身に着けている そのうちの一人が、口の端をつり上げニヤリと笑うと「よっしゃ!じゃ、行くぞ」と言った。
次の刹那。
その体が消えた 小百合が「は、速いっ」小さく声を上げた 迷彩男Aの体はすでに二人から十数メートルの距離にいる しかし迷彩男の目にはセシルしか映っていないようだ。
そのまま駆け抜けるとセシルに飛びかかった。
セシルがとっさに回避すると地面に激突。
衝撃により土煙が舞い上がる すかさずBが飛びかかる。
しかしセシルもすでに回避行動を済ませている。
迷彩男はそのまま地面に突っ込むが勢いが衰えることなく再び跳ね上がり今度は空中で身をひねる。
Cも遅れてセシルに迫る
「こいつら人間じゃないよな?」セシルがつぶやくと小百合はこくんとうなずいた
「なら遠慮はいらないわね。
まずはこの厄介そうなやつから」彼女はそう言いつつ、素早く魔法弾を生成し、銃口に込め引き金を引いた。
魔法は真っ直ぐに進み、着地しようとしている迷彩男の顔に直撃。
爆煙が広がった 迷彩男が転倒したところで小百合が銃を向ける「さすが、命中ね」
「まぁね」小百合がにっこりと微笑む そして、残りの四人もあっという間に片付いた。
するとセシルが、倒れた一人の懐を探り始める 彼女は「あった」と言って小さな手帳のようなものを取り出し、開いた。
「えっと何々。
『ターゲット確保。
これから回収地点に向かう』だってさ」セシルはそうつぶやくと同時に魔法を使い男たちの手足を縛った 6章 ―魔法と銃の世界― ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ セシルと小百合、二人は再び屋上にいた
「やっぱりあの人たち、おかしいですね」
「うん。
さっさと逃げよう」
「でも、逃げるって言ってもどうすれば?」「それは、こうやって……だよ」セシルが小さく呪文を唱えると小百合の体に力が満ちていく そして小百合が「行きましょう」セシルの肩を掴むと、二人は柵の上に立った。
直後二人が飛び降りた。
だが 落下の途中で小百合は手を離したのだ。
セシルの魔法によって セシルは小百合を抱えながらも姿勢を保ち難なく地上に降り立つ 一方、自由になった小百合がセシルの腕から離れる セシルは振り返ると、屋上を見上げるとそこに人影はなく。
そこにはぽっかりと空いた穴があっただけだった ***あとがき いよいよ5章開幕です 新展開をお楽しみください! よろしくお願いします
「あの」小百合が言った。
セシルは立ち止まり振り返る 小百合は真剣な表情でセシルを見つめていた。
彼女の瞳に決意が宿っているのが見て取れる セシルは、そんな彼女を無言で見返した。
小百合の想いが伝わってくる。
セシルはその目をまっすぐに見据えた。
そしてしばらくの後で静かに肯くと、彼女もまた、黙したまま深く肯きかえした
***
セシルと小百合が並んで歩く。
そして小百合の案内の元、とある建物に向かっている。
それは大きな屋敷だった。
門の前では屈強な体格の男が立っている 小百合が一歩踏み出した。
「お嬢さんがた。
どちらへ?」男は言った 小百合は毅然とした態度で男を直視する。
だがその視線に負けじと、男は鋭い視線を送り続ける
(すごい迫力。
これがこの国の警察なのか)セシルは隣で様子を眺めている。
やがて小百合は言った「中にお知り合いが居ますので面会させていただきたいんですけど、だめでしょうか?」少し上目遣いになり、不安げな表情で問いかける すると男が少し笑みを漏らした。
小馬鹿にしたような笑いだ
「悪いがね。
あんたらの知り合いに会うことはできん。
帰りなさい」
セシルが「待ってください」と言うも「ダメだ」一蹴された。
セシルの肩をつかんで止めようとした その時だった。
突然、男の腹のあたりから銃声。
続けて「ぐふっ」男の腹部が赤く染まった 男がゆっくりと膝をつく「あなた、大丈夫?」女の声。
視線を巡らせると、先ほどの女が居た
「ううう」男が苦しそうにうめく。
セシルと小百合はその光景を見て絶句した そこへまた銃の発砲音が響く。
女の右肩に命中し、彼女は倒れ込んだ。
さらに一発。
女の手から拳銃が吹き飛ぶ。
続けざまに三発撃ち込まれ女は完全に沈黙した 7章 ―それは、とても懐かしい音だった― ◆ ◆ ◆ ◆
――
――
セシルの魔法による回復魔法。
それによって傷の治った男は安堵のため息を漏らした
「すまない助かった」「いえ」セシルは短く答える そして男とセシルは小百合の方を見た。
小百合が申し訳なさそうに頭を下げる そして「ごめんね。
迷惑かけて」
「いいの。
無事でよかった」小百合が笑顔を見せるとセシルは、はっとなった。
小百合が撃たれる直前、確かに聞こえたからだ セシルが言う「あの人達は?」
すると男は首を横に振った。
「わからん」「どういうこと?」
セシルが尋ねる。
「ああ、奴らの素性は一切不明だ。
目的はおろか人数すらも把握していない。
ただ分かることがあるとしたら」「何?」セシルが訊ねると男は、苦々しい顔を浮かべて答えた
「やつらが持っているものは全て本物の銃で弾丸が込められていることだ」
小百合は俯いた。
男とセシルは黙ってそれを見ている
――しばらくしてセシルが言う
「ねぇ小百合。
これ何かの映画撮影とかじゃなくて本当に起こっている出来事なんだよ」
男は驚いた顔をする。
セシルが続ける。
「それにしてもさ。
よくわかったね」
小百合が微笑むと男もつられて口の端を上げた
「わたしたちね、こういうことに関わっているから。
そういうこともあるのかなって。
でも、なんとなく分かったっていうか、気づいたらそうなっていた感じかな」
セシルと小百合は微笑み合う 小百合は言った「そろそろ戻ろうか?」「そうだね」セシルと小百合は同時に立ち上がると「ご迷惑をおかけしました」そして小百合は男の方に向きなおすと「それと」と言いかけた時「小百合!」セシルは大声で名前を呼び、手を引っ張った セシルと小百合は再び柵の上に立ち、そこから下を見下ろすと「あのビル?」セシルが言った。
すると男が、うん、とうなずく セシルが言った「それでは失礼します」「気をつけるんだぞ」「はい」「あと、このことはくれぐれも」
セシルは、はいとだけ言って柵を飛び越えた 8章 ―少女達は魔法を使って戦いながら進んでいく― セシルが魔法銃を構え、銃口から火花とともに弾が射出される 銃弾が敵を撃ち抜いた「さすがね」小百合は感心して言う
「まぁね」セシルは、にやりと笑う 二人は魔法を使い敵を殲滅していくがそれでも敵の数が一向に減らない 敵の狙いはあくまで少女達自身、もしくは所持している魔法杖にあるようだ 二人はビルの屋上へと出た だがそこで待ち構えていた敵がいた 男、それもかなりの年配の人物だ 男は、はぁ、はぁと大きく肩で呼吸をしていた。
しかしセシルを見るとニヤリと不気味に微笑む 小百合が身構え、セシルを庇いながら男を見据えた「あんた。
何者?」
「私はある方から命を受けたものでな。
その魔法杖が必要なのだ。
悪いが渡してくれないか?」「それはできない相談ね。
これは私の大切な杖よ」小百合の言葉を受けてセシルは、きっぱりと答えた「ならしょうがないな」
老人の目つきが変わると同時に彼の周囲に魔法陣が複数現れた。
小百合がすかさず、水と炎の混合弾を生成する。
そして銃口を構える 老人の詠唱が終わると共に複数の魔法の矢が一斉に放たれた だが、その攻撃がセシル達に命中することはなかった。
小百合が魔法障壁を展開したのだ 直後、激しい轟音と衝撃波が発生した 小百合の障壁と魔法の矢が衝突した結果だった そして爆発。
煙が立ち込める セシルは銃口を正面に向けると魔法を発動させる そして小百合の足元に向けて撃った 魔法弾は地面に直撃。
小規模な爆裂を発生させ小百合の身体が浮き上がった ***あとがき 今回もあとがきで色々と解説をしていきます。
興味のある方は是非!
・魔法銃について この世界の魔道技術により作られた銃 。
魔力を込めた特殊な弾丸を発射できる カートリッジ式のオートマチックになっている。
銃身が短く、持ち運びしやすいため、女性にも人気がある グリップ部分が魔法式によって操作され引き金を引くと自動的にトリガーガードに指が収まる 装填数6発。
マガジンは取り外し可能
***
セシルの視界の先で小百合は空中で体勢を整え、落下しながらも地面への激突を避けていた だが次の瞬間には、背後からの攻撃を受け小百合は吹き飛ばされた 屋上の隅にあった貯水タンクに勢い良く叩きつけられる 「小百合!!」セシルが駆け寄る 小百合が弱々しくセシルの服の袖を掴んで言った「逃げなさい」セシルは思わず声を荒げた「どうして?」
小百合は微笑む。
「あの男からは尋常じゃないくらいの強い魔法を感じるわ」小百合の顔色が徐々に悪くなっていく「お願いだから逃げて」
9章 ―少女達は戦いながらも出口を目指す― セシルは屋上の入り口付近で魔法を使った後「ちょっと、行ってくるね」とつぶやくと階段を下り始めた ***あとがき 次回いよいよ決着します。
乞うご期待! そして今回はセシルと小百合それぞれの心情も描きました。
お楽しみいただければ幸いです ◆ ◆ ◆
――
― ****あとがき セシル視点
――**
***
僕は階段を降りて一階に向かった。
だがそこには誰もいなかった 代わりにあったのはエレベーターのボタンだけだった どうやら故障しているらしく、扉が開かないようになっている 非常口を示す緑色の明かりは点滅していた だがセシルの魔法は通用しない。
彼女は仕方なく一階の廊下を突き進むことにした 9 Fと書かれたフロアに出る。
ここは比較的損傷が少ない。
床のタイルがひび割れ、所々陥没が見られるが歩く分に支障はない セシルは奥へ続く廊下の突き当りで壁越しに耳を当てて聞き取ろうとする
(人の気配。
それも一人じゃない。
数人)「隠れよう」セシルは呟くように言った 10 ―セシルと小百合は、それぞれ離れた場所で戦闘を開始する―
(敵が四人、こっちは私一人。
さすがに不利すぎる)「でもやるしかない!」セシルは気合いを入れ直し、右手の親指と中指を合わせ、それを擦るようにしてスライドさせ、そして離す そして唱えた
「ライトニングアロー」光の矢は男の胸に突き刺さった 小百合が唱えた「アクアカッター」水の刃もまた別の男の胸部に命中し血飛沫が上がった だが男は、ふっと笑い余裕を見せていた。
それを見たセシルと小百合は表情をこわばらせた
(何なのあいつ?)
小百合は、すーと深呼吸をする。
そして再び呪文を唱える。
今度は両手で印を結んだ 小百合が唱えたのは風の魔法だ。
風を纏う。
さらに彼女は自分の周囲の空気の温度を下げて凍結を防ぐ氷の魔法を唱えた 小百合の周囲は白い冷気に包まれる 小百合が杖を前に突き出すと魔法陣が展開された セシルはその隙を狙って発砲。
しかし、あっさり避けられてしまった 男は、やれやれといった顔をする 男はセシルの方に歩みを進めると、小百合に向かって言った「残念ながら時間切れだ。
お前の魔法は確かに素晴らしい。
ただ俺達相手には不十分というだけだ」セシルの放った二発の銃弾は男の胸と太腿に命中した 小百合は男の腹部めがけて拳を振りぬこうとした。
男は身を翻してそれをかわした。
男の後ろで待機していた二人の部下の一人が小百合の腕を掴み、そのまま彼女の腹を殴りつけた。
「きゃっ」
小百合が悲鳴を上げる。
それと同時に男は杖を小百合の頭に叩きつけようとする。
男は笑みを浮かべている。
勝ちを確信したかのように。
「かかったね」小百合は素早く左手の人差し指と薬指を合わせて振り上げる 。
その動作と共にセシルが叫んだ
「フラッシュ」セシルが唱えた。
強烈な光が周囲を包みこむ 男がよろめく。
セシルと小百合は互いに視線を交わし、うなずいた。
「逃げるよ」「えぇ、早く」小百合が、セシルの手を引いて走り出した。
男は二人に目掛け銃弾を放つ。
その度に小百合が障壁を展開。
魔法弾は、はじけ飛ぶ。
セシルが振り返って叫ぶ
「待ってろ!すぐに追いつくからな」男は銃弾を撃ち続ける。
一発撃つたびに杖の先端にある魔法石が輝く やがて弾が切れる頃になって男達はビルから脱出に成功した 11章
『小百合は、セシル達から距離を取って、とある場所に来ていた』
「もう限界だ。
このままでは奴らを止めることはおろか、近づくこともままならない。
しかも奴らの力も未知数のままだ」男は、ため息混じりにそう言った するともう一人の男の声が聞こえる「まぁまぁ、まだ諦めるのは早いぜ?」「だが、これ以上どうしろと?」すると「あの娘がいるじゃないか?」小百合は眉間にしわを寄せ、険しい顔つきになる「あれはまだ試作段階なのだぞ?それにあの子も……」男は再びため息をついた 12章 ―少女達は屋上を目指して進む― 男の部下の二人が追ってくる。
小百合とセシルは、ひたすら屋上を目指していた。
だが敵の魔法による攻撃により、セシルの足は止まってしまった 小百合は足を速める。
だが敵の攻撃の方が早かった
「アイスロック」男の詠唱が響き渡る その直後セシルの動きが止まった 。
そして氷漬けとなったセシルを男が抱きかかえる。
そして屋上に続く入り口の前に来たときだった 小百合は男を蹴り飛ばすようにして、そこから離れた。
男の姿はなかった 13章 ―セシル達がビルの入口にたどり着いた時には既に敵の男が居座っていた―
「さぁ。
ここまで来い。
そうしたら命だけは助けてやろう」男は低い声で告げた 14章 ―セシルは覚悟を決める。
魔法銃を構えると男に向けて引き金を引いた― ***あとがき 次回からいよいよ最終決戦が始まります 果たして二人は無事、屋上に到着することができるのか!? 15 Fと書かれた扉を開くとそこは行き止まりになっていた。
だが屋上には人が入れる程度の穴があるだけで扉などは無かった(ここから出るには穴を開けるしかないみたい)
(まさか閉じ込められたの?一体誰が?)セシルと小百合は辺りを見渡すと壁に文字が書かれているのを見つけた。
「これは?」小百合は指先で文字を読み始める。
「『ここに来るまで何人もの人間が死んでいった。
私はお前達を許さない』」
16 二人は屋上に出た。
空を見上げれば日が沈みかけ、茜色に染まっている 屋上の中央には大きな機械があった おそらくエレベーターと思われる そして屋上の床一面には血が広がっていた 小百合が言う「これは……」
セシルは何も言わずに銃口を構える。
銃口は小刻みに震えている。
唇を強く噛む。
手も少し震えていた。
「怖いんだろ?」セシルは無言でうなずくと男は笑い出す。
セシルは銃を構えた 小百合はゆっくりと前に進み、セシルの傍らに立った
「行くよ」
「わかってる」
17 セシル達の銃口が男の額に向けられた時だった。
突然銃が暴発 した 衝撃により、男の手が離れ、彼は銃を落とした。
男は手を庇うような仕草をした
「どうなってやがる」セシルは慌てて拾い上げて構え直そうとする。
その時、背後から物音が聞こえ、咄嵯に横に転がった 直後。
背後にあったコンクリートの壁が音を立てて壊れ、破片が散らばる。
男の仲間の一人が死亡したらしい 18章 ―小百合は男に向かって呪文を唱えていた― 男の背後に忍び寄った少女は、手に持っていた拳銃を向けた 少女は静かに呟くように呪文を唱えた後、引き金を引く。
乾いた音が周囲に響く 男は背後からの銃撃を受けた 19章 ―セシル達は、屋上の端へと追いやられていた― セシルと小百合が屋上の真ん中で、魔法と魔法をぶつかり合わせている。
激しい爆風に飛ばされないように踏ん張ることしかできなかった 20章 -小百合の放った攻撃魔法- ***あとがき 小百合視点
***
小百合が魔法を唱えると魔法陣が広がり始めた。
だが、魔法は発現しなかった セシルが異変に気付いたときには遅かった。
突如地面が爆発したのだ 。
魔法陣が展開される直前に爆発が起きた。
その瞬間セシルの意識は闇に沈んだ 21章 ***あとがき セシル視点
***
僕は目が覚めた 身体中に激痛が走ったがなんとか起き上がることができた
「セシル君」小百合が泣きそうな顔をしていた 22章 ―魔法は使えなくなったが敵を倒す方法は残っている― 僕達は二人で戦うことにしよう
「セシル君」「大丈夫か、小百合」僕は立ち上がると彼女に肩を貸して歩いた
「ちょっときついけど、どうにか歩ける」僕は微笑みかける。
すると彼女もつられて笑みを浮かべた 23章
――そして今に至る――
(もうすぐ屋上だ。
あともう少しだけ頑張ってくれ)
25章 -屋上に到着した時、目の前に敵が立ちはだかる――
26章 ―敵との距離はおよそ五十メートル。
互いに睨み合っている― 27章 ―セシルが発砲。
銃弾が男に命中したはずなのに男は何事もなかったかのように立っている 銃弾が男に命中しなかった どうして?とセシルが思った刹那。
男の攻撃が始まる
「ファイアボール」小指ほどの火球が現れ、セシルに襲いかかる 28章 ―銃弾を装填して発砲するが、今度は別の方向から銃弾が襲ってきた― 29章 ―敵の男は杖の先を地面に叩きつけると土が隆起し、銃弾を塞いだ さらに杖の先をこちらに向け、呪文を紡ぐ。
そして再び発砲する。
だが敵が発動させたシールドは破れない ―セシルが銃弾を発射する前に、敵が放った魔法の効果が現れる 足元から煙幕のような白いモヤが現れた― 30章 ―敵の魔法に気づいたセシルが叫ぶ セシルの視線の先にいる男は笑みを浮かべている―
(まずい。
早く逃げないと!小百合が魔法障壁を展開してくれたからいいものを、そうじゃなければ、俺はあの時に殺られていた。
だが、小百合が魔法を使えるようになったのは何故だ?)
31章 セシルは考えるのを一旦やめて銃を構える。
(とにかく奴に魔法を使わせるわけにはいかない)
セシルの発砲した弾丸は、男の胸に当たる。
32章 ―男はセシルに向かって発砲 同時に杖を前に突きだす― セシルは、横に避ける 33章 ―男はセシルの方を向いて何かを唱えた セシルの魔法が消えてしまったのだ。
魔法障壁の効果時間が終わり、解除されたようだ。
小百合の援護でなんとか難を逃れた― 34章 ―小百合が男の頭を狙って発砲 男は素早く後ろに飛び退いた。
だが着地に失敗し、転んでしまう。
男の顔には苦悶の表情が広がっている― 35章 ―男は懐中時計を取り出すと「時間切れ」と言って立ち上がった「どうした。
もう終わりか?」男は、勝ち誇ったような顔で、ゆっくりと二人に近づいてくる ―するとセシルと小百合はお互いにうなずいた― ***あとがき
「おい。
お前ら。
いつまで遊んでいる気なんだ?」男は呆れた様子で二人を見ていた 36章 ―小百合が唱えた「ブリザードランス」
氷の柱が出現し、男にぶつかった 男はそれを片手で受け止めた セシルも銃口を向けて発砲。
男も負けじと魔法を放つ 。
氷の槍が二人に襲いかかる ―しかし小百合は冷静な顔つきで、氷の壁を生成して防いだ― 37章 ―男は小百合とセシルを見て舌打ちした―
「まさかここまでとは思わなかった」男は小百合に向かって魔法を唱える。
「ストーンウォール」
小百合の目の前に巨大な石壁が出現するが、セシルがそれを破壊した― 38章 ―男が小百合に向けて、また魔法を唱える。
「アイスジャベリン」
小百合は、魔法を唱える。
「ウォーターカッター」水の刃は男を切り裂こうとした だがそれは避けられる 39章 ―小百合とセシルはお互いを庇いながら戦った 男は、小百合の魔法を避けながら魔法を放った― 40章 ―敵の男の詠唱が始まった 。
「ファイアーボルト」
放たれた魔法を小百合はギリギリのところで回避。
だがバランスを崩してしまう そこにすかさず男の第二射。
今度は避けきれず被弾しそうになったとき、セシルの魔法によって救われる
41. ―小百合は、銃を構えると敵の男の胸に照準を合わせて引き金を引いた そして小百合の目は驚愕に見開かれる ―銃口から出たはずの魔力弾は、途中で消えたからだ―
「残念。
これはフェイクだ」男はにやりとする。
その言葉に小百合は目を見開いた「さぁ。
お返しだよ。
ファイアボルト」
男が魔法を発動させると同時に小百合は叫んだ「ウィンドカッター」風の塊が、男に向かって飛んでいく 男もまた驚いたように目をぱちくりさせると魔法を放って相殺しようとする だがその前に風の勢いに押されてしまい直撃は免れたが少し食らう
42. ―小百合の呪文にセシルが反応する「ロックショット」
男の頭に岩の固まりが激突した― ***あとがき
***
この章はここまでとなります。
次回からは、最終章に突入します。
いよいよラスボスとの決戦です。
果たして、勝つのはどちらなのか!?是非ご期待ください。
141章 ***
「お前のことは昔から知っていた」男は、突然そんなことを言った。
小百合とセシルはその言葉を理解できなかった だが男は続ける「私はずっとお前を見ていた。
そして確信に至ったよ。
私は、お前を仲間にすることにした」男はセシルに近づくと、銃口を向ける。
セシルは銃を構えようとした時だった
「セシル君。
もう駄目。
銃が暴発してしまったの。
これ以上は無理。
私も一緒に戦ってあげるから。
二人で協力すれば勝てるよ」セシルが首を横に振った。
「いやだ」
「セシル!」
「嫌な予感が止まらないんだ。
今すぐここから逃げるべきだ」
小百合は、俯くと「……うん。
わかった」セシルの言う通りだ。
と小声で言って銃を構えた。
「待ってくれ。
俺の話はまだ終わっていない」
男は、二人の方に手を伸ばしたが、何も起こらなかった ―男は、手から血を流していた― セシルが呟いた「やっぱりか……」「えっ?」セシルの声が小さかったため、聞き取ることができなかった小百合は、聞き返すと彼は無言でうなずいた そしてセシルは再び男の方を向くと、「何者だ。
どうしてこんな事を始めたのかを話せ」「俺はこの国の平和を守る兵士の一人だ。
それがどうしてだ?俺はただ、平和を守るために戦っている。
戦争なんかに、興味はない」
セシルの目が見開く
「何を言っている。
俺たちが守るべき平和を脅かすのはお前じゃないか!お前が始めたことじゃない。
なのに何故だ。
一体誰の命令なんだ?」「命令などしていない」「じゃあなんで。
なんでこんな事をしたんだ?それに小百合を狙う理由はあるのか?何故だ?どうして小百合を殺そうとする?小百合を誘拐して何を企んでいた?目的を教えろ」
セシルの言葉に男は答えることなく再び呪文を唱える。
小百合が止めようとするが間に合わない。
男が再び魔法を唱え終わると、二人は息を飲む。
なぜならセシルと男のちょうど中心に魔法陣が浮かび上がったから。
やがて魔法陣から雷鳴が轟き始めると激しい風が巻き起こった。
その瞬間、セシルと小百合は思わず吹き飛ばされてしまう 15章 -魔法は、使えないが、敵を倒す方法は残っている― 16章 -男の魔法の効果が発現した 強風に小百合はセシルの腕にすがるようにしながら、どうにか堪えている - ***あとがき
***
***あらすじ ついに始まったラスボス戦 そしてセシルと小百合は敵の男と対峙した 敵の正体と狙いが明らかになる 21章
***
***小百合は男と向かい合っている
「どうして私の両親を狙ったの? 理由を聞かせて」「それは言えないな」「ならどうして小百合を?」
セシルの問いかけに、男は答える代わりに杖を振りかざす 。
セシルの足下が爆発した *17章-セシルは咄嵯の判断で、横に飛ぶ。
しかし爆発の影響は強く、壁に背中を打ち付け、気を失ってしまった。
そして、意識を失った彼の元に小百合は駆け寄ろうとするが、男の攻撃により阻まれた セシルに近づけさせないと言わんばかりに男は、セシルに向かって次々と魔法を唱えた
20. ―男は、呪文を唱えた「ウインドスラッシュ」21. ―セシルが身を捩ると男の攻撃は空振りに終わる―
22. ―男は、杖を構えると、魔法を唱えた「フレイムボール」
***あとがき
***
*23章 ***セシルは、立ち上がると、敵に向かって走る 敵までの距離は約五メートル。
***小百合はセシルに向かって走り出す。
「行かせないぞ」男は、再び魔法を唱える「サンダーボルト」
24. ***セシルは立ち止まり振り返った。
小百合の方を見ると彼女も走っていた 25章 ***「お前に用はない」セシルが敵から距離を置こうとすると男の魔法に捕まってしまう。
魔法から逃れることができない。
そのまま、男は杖をセシルに向ける 26章 **セシルに、魔法を唱えた「アイスボルト」27 ***セシルの身体には無数の氷柱が現れていた 28章
(俺はこのままここで朽ちるのだろうか)
*29章
(私はこのままここで死んでしまうの?)
29章 30章
(誰か……)
(いや。
まだだ!)
31.
(誰か助けて!!!)
32章 *33章 -セシルは敵の懐に入り込んだ。
「これで終わりだ!!」しかし、小百合の方が早かった。
彼女の放った銃弾は敵の腹部を撃ち抜く 34章 35章 ―セシルと男は互いに杖を前に向けながら魔法を唱えた 36章 ***男に向かって、風の塊のようなものが次々と放たれる― 37章 *38章
(私は死ぬんだ。
でも最後にセシル君を助けることができた)
*39章 36章 38章 ***小百合とセシルの頭上に、炎が出現した― ***39章
(ごめんね。
セシル君。
あなたを守れなかった)
40章 *41章 -セシルに魔法を放った直後、男は、背後から衝撃を受ける― *42章
「まさか、後ろからも魔法が来るとは」
*44章 -セシルは男の顔面にパンチを入れると、よろめいた男の頭を鷲掴みにした― 46章 -小百合の撃った弾は男の頬に命中した― 47章 -小百合は、
「私が時間を稼ぐから逃げて」
と言うと、男の前に立つ― 49章 -男が小百合に向けて魔法を唱える。
「ウィンドブレード」
小百合の目の前に石の壁が出現する。
それは敵の攻撃を防いだ。
男はセシルに向けて、
「お前だけは許さない」
50章 ***セシルは、小百合に魔法を放った男を睨むと「貴様の相手は俺だろう」と言って、敵に殴りかかった
51. ―セシルは、男の胸ぐらを掴むと壁に押しつけた― 52章 53章 54章 55章 56章 57章 58章 59章 60章
61. ―セシルは、男の襟首を掴んだまま、壁に強く押し付ける。
「ぐっ」男は苦しそうな声を上げる― 62章 63章 64章 65章 66章 67章 68章 69章 70章 71章 72章
73. -セシルは、男の顔面に強烈な一撃を食らわせる。
男は、床に転がった後、倒れた
「さぁ話してもらおう」
「お前は自分だけが正義だと思っているのか?お前は神にでもなったつもりか。
ああ、そうだろう。
人は皆、役立てと教育される。
だから世のため人のためにやった。
だがなあ、それはお前が決める事じゃない。
お前の行動一つで何億という人間が犠牲になっているんだ!」男は震えていた。
まるで自分の行いを恥じるかの如く顔を伏せ、肩を震わせ、拳を握っている。
セシルは男の姿を見て思った
「確かにそうだ」セシルは、ゆっくりと男に近づいていく。
その時、男が言った。
「そういう所は母さんそっくりだな。
なぁ。
お前の母親がお前を産んだ時、なんていったか知っているか?覚えちゃいないだろうな。
知らないまま勝気に育った。
それが、今、俺に正義の鉄槌を下しているお前の為だったのかも知れない。
公正世界説を暴走させ、世界は勧善懲悪であれと信じ、己の正義に陶酔するためなら、どんな卑劣な手段を使ってでも悪を叩きのめす。
お前の母さんはそんな人だったよ。
だから、別れたんだが。
お前もそっくりにそだった。
カエルの子はカエルか…。
俺は死ぬが…父親としてお前を正す責任もある。
選ばせてやろう。
お前の母親のやった事を俺が墓に持っていく方がいいか?冥土の土産に聞かせてるか。
どっちがいい? ゴフッ…俺の息があるうちに決めろ」
「俺の事は、忘れろ。
そして俺と同じ過ちを犯す前に俺の事を伝えろ」
「嫌だ。
俺は、父さんと違う。
俺が正しいと思ったことをやるまでだ。
もし間違ったとしても後悔なんてしない。
俺が選んだことだから」
「わかった…… ではさらば」
男は奥歯を噛み砕いて死んだ。
強力な毒薬が仕込んであった。
白目を剥いた遺体が天井を睨んでいる。
セシルは泣きだした。
「こんなのおかしいよ 」セシルは叫んだ
「どうして、みんな争うんだよ こんなことって」
セシルの声が虚しく響くだけだった
小百合は駆け寄ってきた「大丈夫!?怪我はない?」セシルは、自分も死ぬと言って父親の遺体に口づけした。
そして唾液を吸い取った。
残っていた有毒成分がセシルに作用し、たちまち痙攣と喘鳴が始まった。
セシルの身体がどんどん青ざめていく。
「私には何もできないの?」小百合は、膝をつき、セシルに寄り添いながら涙を浮かべている。
セシルは意識を失い、小百合にもたれかかってくる セシルの唇を手で覆い吐血した。
小百合の手は真っ赤に染まっていた。
「わたしにできること」小百合が考え込んでいる。
セシルは意識を失っていた。
小百合の中で閃くものが現れた ―セシルは病院の一室で目覚めた。
傍らで小百合は泣いている―
(ここはどこ?)
(あれっ。
身体に力が入らない)
(痛い。
って、あれ、天井がやけに高い。
自分の身体ってこんなに軽かったか?。
それにさっきからやけに両耳がもぞもぞするんだが)あうーっとうめき声をあげようとして、セシルは驚いた。
ベッドサイドの窓に見知らぬエルフ女が映っていたからだ。
肩まである黒髪が乱れている。
「ええっ?」おどろいてかぶりをふると、エルフ女もいやいやをする。
「えっ、もしかして、これって…」
セシルが若い女の声で戸惑うと、小百合が涙を流した。
「よかったあ」
「ど、どうなってるんだよ。
この身体?」
「ドナーに感謝なさいね。
ちょうど事故死した人がいたの。
セシルは脳だけ助かったの!」
「えええええ? じゃあ、この身体は若い女性エルフの?」
セシルはパニック状態になった。
目が覚めたらいきなり見知らぬ女になっていた。
受け入れろという方がおかしい。
「でも、俺は、俺はもう男ではないんだ。
男としての人生が絶たれてしまった」
「そんな顔しなくていいわよ」
小百合の言葉にセシルは救われたが、まだ動揺が収まらないようだ。
セシルは障害者施設に入れられて女として残りの人生を送るようだ。
「これからは女らしくしないと」
セシルが小百合に訴えると「セシルはそのままで良いの」と言いながら優しく抱きついた。