第51話 エピローグ
「あれが、ヤマトの本当の姿……」
天へと登る大和の姿を見ながら、エリシュが小さく独りごちた。
今も尚、天を見上げるエリシュへと
「……エリシュ殿。これからどうなされるおつもりで?」
「王子のご尽力で
ゲートの外には
人々は
エリシュは颯爽と振り向くと、毅然とした面持ちのまま、多くの人を前にして語り出した。
「皆……どうか私の言葉に耳を傾けて欲しい。ブレイク王子はその身を持って『冷徹の魔女』を討伐し、文字通り神へとなりあそばされた。だが、またいつ何時、外敵がハラムディンを襲ってくるか分からない。我々は、このままでよいのだろうか。弱者が
民衆たちからは一斉に、否定の声が投げかけられた。
エリシュはゆっくりと目を閉じる。
ブレイク王子と国の行く末、民の生活を心痛し、共に語り合った日々。
その思い出が熱を帯び、エリシュをさらに駆り立てると、
「……私もそう思う! ブレイク王子のご尽力で外敵の憂いがなくなった今が、変革の時。王子の理想はここから始まる。ブレイク王子は弱い者が笑える国を作りたいと心から切望していた。そしてその意志を、この若者———アルベートが引き継いだ。この剣が、何よりの証拠よ!」
アルベートが剣を
「血を流すのは、これで終わりにしましょう。だからやり遂げましょう、最後まで。王城を攻め、政権を奪取し国を正しい道へと導き直す。平等な世の中など、不可能なのかもしれない。だからせめて私たちの手で、弱い者が救われる国に作り変えましょう!」
歓声がうねりとなって大きな波を作り出す。民衆の心が一つとなった。
熱が冷めやらぬ内に、
「よーしみんな! まずは武器の手入れと腹ごしらえだ! それが終わったら早々に10階層の
希望を手に入れた群衆が、ハラムディンへと戻っていく。
エリシュは考えた。アルベートにはちょっと荷が重そうだが、このまま神輿役になってもらおうと。多くの人間を同じ向きへと誘導するには、多少の演出も必要となる。
それにもし、アルベートがそのままハラムディンを統治することになっても、彼なら間違った道へは進まないだろう。きっと優しい国となるに違いない。
「お見事でした、エリシュ殿。これでみんなも俄然、やる気になるってものです。……ところでエリシュ殿。一つお尋ねしてもよろしいか?」
「ええ、なんでも聞いて頂戴」
「あの方……ヤマトと名乗っていたあの方は、本当にブレイク王子なのですか?」
「ええ、本当よ。王城に行けば油絵の肖像画があるから、確かめてみるといいわ」
「そうですか。それにしても少々破天荒だが決断力もあって、芯がとても強い魅力的なお人でしたなぁ……神になられるのも頷けるってものです」
事情をすべて知らない
メビウスという女神との会話を理解できなかったのか。それともあえて触れないのか。
いずれにしても、この
「王城にはブレイク王子のご意志に賛同する仲間も、多くいました。私たちが下から攻めたてればきっと立ち上がり、協力してくれるでしょう」
「おお! それはありがたい! 何せ上層階は高ランクの兵士が多いですからな! それに快く協力をする
見かけの荒々しさとは裏腹に、頭も切れるとエリシュは思った。
「さあ、我らも最後の戦いの準備をしましょう。エリシュ殿、アルベートくん。我が屋敷にお越しください。少ないですが景気づけの酒と粗肴も用意しましょう」
皆から少し遅れてゲートに向かう道中で。
「結局———」
エリシュの口から、知らず知らずに漏れてしまったその一言。
「ん? どうかしましたか? エリシュ殿」
エリシュは振り向くと、今一度空を見上げた。
「いや……なんでもないわ。ちょっとだけ風に当たっていたいから、二人とも先に行ってて頂戴」
「分かりました。……さ、行こう。アルベートくん」
高い空にはどこまでも澄み渡り、女神はもちろん二人の姿はもう見えない。
(結局、どちらも私の元から去っていった。……同じ人を二度好きになるなんて、なかなか経験できないわよね)
エリシュは
「……幸せにね、ヤマト」
〜完〜
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【少しだけ、後書きです!】
最後までこの物語にお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
「とにかくカッコイイ戦闘描写を書いてみたい!」と、ただそれだけの思いから、見切り発車で書き始めた本作品。
もしこの作品が、ほんの少しでもあなたの心に触れたのなら、レビューで評価を頂けると幸いです。
それではまた、お目に掛かれる機会があることを心より願いつつ。
蒼之海