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大切なもの3

 マクスウェルが私から一歩離れて剣を構え直す。

 親子で殺し合いをさせてしまうことに胸が痛む。
 けれどちらりと見たマクスウェルの顔に迷いは無かった。

「ああ、大人になるとこんなこともできるんだな」

 そうマクスェルが言う。
 ひゅっ、周りを取り囲む者たちが息を飲む。

「眼力による威圧なんて、自分でやるとは思わなかったけれど案外簡単だなこれ」

 見回すとマクスウェルに切りかかろうとしている人々が剣を振り上げたまま固まっている。
 油汗が滲んでいる姿に驚く。

 マクスェルは大きくため息をつく様に息を吐きだしてから一歩踏み込んだ。

 それ以降は私の目には動きがよく分からなかった。

 
 バタバタと人が倒れていく中、まるでマクスェルは舞う様に剣をふるっていることだけは分かった。


 最後に国主が一人残される。

 うめき声が室内に響く。

「この剣切れ味が異常だ。
強くなりますようにとでも祈ったのか?」
「まさか」

 そんな事を祈ったつもりは無かった。

「王には王にふさわしい神より賜りし超常の剣が必要か……」

 この国に伝わるおとぎ話の一部をマクスウェルが呟く。

 ひっ、と国主が悲鳴を上げる。

「あなたに育ててもらった覚えは無いんで、あまりなんの感情もわかないもんですね」

 マクスウェルが剣を振り上げた。
 ばたん、と音を立てて国主が崩れ落ちた。

「切ったのですが?」
「まさか、失神してるだけですよ」

 国主を見下ろしながらマクスェルが言った。

「大人の竜はある程度お互いの力の差が見えるものなんで、もう対峙した時点で結果は視えていた」

 そう言ってマクスェルは笑顔を浮かべた。

「あなたの大切な国が守れてよかったです」

 私がそう言うと、不思議そうにマクスウェルが「はい? そうですかね」と答えた。
 噛み合わない会話に私はマクスウェルを見る。

「強い愛国心が芽生えて大人になったのでは?」

 私がマクスェルにそう聞くと「どうしてそうなるんだ!!」と彼は少し大きな声で言った。

「俺は、アンタが大切だから大人になったんだよ」

 マクスウェルはふてくされた様にそう言った。

 ジワジワと顔が赤くなる。
 彼は私のために大人になったと言ってくれている。

「そこ分かってないのに、なんで名前を名乗ったんだよ」
「聞かれたから」

 はあ……、とマクスェルは大きくため息をついた。
 子供の頃の方がよほど大人っぽかった様に見える。

「俺の国で名前を贈り合うのは特別な場合だけだ」

 メアリに聞いた言葉を思い出す。
 忠誠を誓う場合は一方的に名前を伝える。婚姻の場合は双方に名前を伝え合う。

「え……?」
「取り消すつもりは無いし、取り消す方法を教えるつもりもない」

 マクスウェルは倒れている人たちを手際よく縛り上げながら言った。

 屋敷にはすぐに沢山の人が来て縛られた国主たちを運んで行った。

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