③
月の綺麗な晩。あまりに月があかるいので、カーテンを開けたまま、窓辺でライラはリゲルから預かったノートを手にして何度も詩を読み返していた。頭の中に焼き付けるように。
そしてそのうち、読むだけでなく、調子をつけていく。まだメロディとは遠いが、ここからスタートするのである。
手の中にある、自分のプレゼントしたノート。それにリゲルの考えた、うつくしい詩(うた)が書かれていると思っただけで幸せだ。
文字をそっとなぞる。
リゲルの書いた文字。
彼の一部。
ふん、ふん、と軽くくちずさむ。綺麗だけど、どこか物悲しい部分もある、夜の詩。
藍色の夜空を見る。自分のことを考えて作ってくれたなら嬉しいな、と思って、笑みが零れてしまった。
今なら自信が持てる。
リゲルは「こないだ見た星空のことを考えてたら浮かんだんだ」と言った。当たり前のように、二人、公園のベンチで夜空を見たときのことだろう。だからきっと、夜空と星だけでなく、自分のことも考えて作ってくれたはず。そう考えるとくすぐったい。
でもだからこそ、特別なうたにしないといけないな、とちょっと心が引き締まる思いも浮かぶのだった。
時折、窓越しに夜空を見て、空の色をメロディに反映させるような気持ちで、ライラはどんどん手を加えていった。
しかし、ある部分で詰まってしまった。
それは星について書かれている一節だった。詩の中でも特に哀愁が詰まっている部分だとわかる。そして、ここが要(かなめ)になっていることも。
とてもうつくしい言葉。
でもここ、少し難しい。
ライラは思わず眉根を寄せていた。
ここを一番うまく仕上げないといけないのに。
どうしよう、なにか楽譜でも見たらいいかな。
そこでライラの頭に、ぽっと浮かんだこと。それはあまりに唐突で、ライラは数秒固まってしまった。
でも、すぐに気付く。
あ、私、見つけたかもしれない。
自分のしたいこと。それはとても、大切なこと。
ずっとほしいと思っていたこと。自分の『芯』になるかもしれないこと。