⑥
すっかり安心して、ライラはリゲルの肩に寄りかかっていた。もう夜もずいぶん更けてしまっている。
帰らなければ。夜風も冷たい。
けれど触れている肩があたたかいから、もう少しこうしていたかった。ライラの逆側の肩を、リゲルの力強い腕がしっかり抱いてくれていることも手伝って。
「このノート」
ふとリゲルが言った。手を離して、膝に置いていたノートを繰る。
抱いてくれていた腕を離されたことにちょっとした不満を覚えるものの、リゲルの言葉には興味をひかれたので、ライラも体をあげて、寄りかかる姿勢からまっすぐにして彼の手元を覗き込んだ。
リゲルは、ぱらぱらとノートをめくっていく。
そのうち、なにか予測していたものが見つかったのだろう。ほっとしたような声を出した。
「ああ、やっぱり」
出てきたのは、一枚のフィルム。透明なフィルムに挟まれていたのは、あろうことか。
「これに挟んでおいたと思ったんだ」
少し変色してはいたものの、それが元々オレンジ色をしていたことはわかる。
オレンジ色の、花びら。
ライラは息を呑んでいた。
まさか、あれだろうか。
自分が渡した、歪んだオレンジの花?
「なくしたときはずいぶん落ち込んだもんさ。だから、見つけてもらえて嬉しいよ」
今度は違う意味で息が止まった。まさかこんなに大切にされていたなんて、思いもしなかったのだ。
「これ、カーネーションだな」
しっかりと骨張ったリゲルの手が、フィルムの上からやさしく花びらを撫でる。それはずっと疑問に思っていたことだ。
あれはなんの花だったのか。庭から適当に摘んできた、名も知らなかった花。今のライラだって、花びら、しかも変色しかけている一枚だけではわかりやしないのに。
「あのあと、大将にカーネーションの花の意味を聞いたんだ」
そして言われたことに、ライラの頬は違う意味で熱くなってしまった。
カーネーション全般は、『無垢で深い愛』。
オレンジのカーネーションは、『清らかな愛』。
そんな情熱的すぎるもの、無意識のうちに贈っていたなんて。