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 歩く足取りはおぼつかなかった。ふわふわと雲の上を歩いているようだ。この数分でいろんなことがありすぎた。
 リゲルに言われかけたこと。
 馬車事故から護ってくれるために抱き寄せられたこと。
 頬に触れて撫でてくれたこと。
 そして、今、手を取って歩いてくれていること。
 どくどくと心臓がうるさくて、すぐ前を歩く彼の背中を見つめるしかない。その背中も、けっして大きなわけではないのにしっかりとした硬さを持っていることがわかってしまう。
 あの身で抱かれたのだと思うと、嬉しさと照れ、恥ずかしさに心臓が破裂してしまいそう。
 数分歩いて、家の近くまで来た。このまま帰るのだろうと思った。一緒に出掛けたときはそうあるように、家の前まで送ってくれるのだろうと。
 でもリゲルはライラの家に向かう方向ではないほうへ路地を曲がった。そこは少し道が細い。
 え、どうして。送ってくれるんじゃ。
 思ったのは一瞬だった。
 薄暗い路地へと入って、リゲルは足をとめた。ライラに向き直る。もう一度しっかり視線が合った。
 ライラを見つめる、琥珀の瞳。まるで恒星のように硬い色になっていた。
「流石に、あそこじゃちょっとあれだったから」
 確かに、馬車事故で恐れる声と、がやがやという野次馬の声が交錯する中では。
 だから少し離れたここまで来てくれたのだろう。
「交際しているやつはいないんだった、よな」
 前置きをして、今度こそ最後まで告げられる。
 ライラがずっと、ずっとほしかった言葉を。
「俺の恋人になってくれ。お前がまだ小さい頃から好きだった」

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