24.リリアンの家にみんなでお泊り?恋バナしましょうよ!
「はははー。僕もこういうのやってみたかったんだよ」
父リリアンはイズリィさんと同じ笑いかたで言う。
娘の結婚話を断る父親ってやつをしたかったらしい。
「それでさ。本当に何にもないのかい?」
「はい。何にもないです」
「ほぅー。ではどういう関係なんだい?」
「ただの仲間です」
俺は即答する。
「そっかぁ」とさみしそうに笑う父リリアン。
「ただの……」父リリアンのように小さくつぶやくリリアン。
静まる空気の中、リリアンをじーっと見ていた母リリアンが、俺に視線を合わせてくる。
「ところで、エルクさんは都会で活躍されてるっていうのは本当かしら?」
「えーっと、だいたい合ってますがリリアンさんの方が活躍してますよ」
「あらそう? イズリィが言うには魔角をポンポン倒して、王様からガッポガッポお金を貰ってるって聞いたんですけど、違うのかしら?」
誰かに加工された情報を話す母リリアン。
イズリィさんからか……ちゃんと秘密のエージェントしてるんだな。ああ見えて調べ事とか得意なのかもしれない。
俺たちの話、ちょい盛られてるけど。
「まぁ、少しは貰ってますかねぇ」
母リリアンの目が光る。
「そうなの? おいくらティルくらいかしら?」
バタンッ 隣の部屋の扉が勢いよく開けられ。
イズリィさんが腰に手を当て、ババンと立っている。
「1億ティルよ! リリアンとエルク君で合わせて1億だから、2人が結婚したら丸々貰えるわ!」
「い、いちおく!」父リリアンが勢いよく立ち上がる。
「け、けっこん!」リリアンがうまく立ち上がれず椅子から転げ落ちる。
母リリアンは微動だにせず。
「今日は泊っていっていきなさい。新しい息子のエルク君」
真剣な目で微笑む母リリアン。
賑やかなご家族で毎日楽しそうですね!
――――
「あの、なんでエルクが私のお布団に入ってるんです?」
リリアンがキョトンとした顔で聞いてくる。
俺たちは晩御飯の『あぶり野菜のチーズフォンデュ』をごちそうになった後、順番にお風呂に入った。
俺が最後にお風呂から上がり、母リリアンに部屋へ案内されると、リリアンの部屋だった。
それだけだ。
部屋が狭くてここしか寝る場所が無いらしい。
無いったら無いと、母リリアンが微笑みながら言っていた。
俺は「それはしょうがないですね」と全く反論せず、寝てるリリアンの布団に入る。
が、俺が布団に入った瞬間、リリアンが起きた。
顔を赤くさせるリリアン。
「でてってください」
「まぁまぁ。お母さんがここしか空いてないってさ。ってか、今日寒くねーか? 俺が腕枕するから、ギュッとしようぜー」
俺は軽いノリで言いながら、リリアンの枕を奪って自分の頭を乗せ、リリアンの首へ右腕を差し入れる。
リリアンは俺の素早い動きについてこれない。
「なんでですか! というか、やけに手慣れてますね! なんなんですか……」
フフフ。
こんなこともあろうかと、イメージトレーニングしていたのさ。
「いつも背中でぎゅぎゅっとしてるんだからいーだろ?」
俺は仰向けになり、目を閉じる。
父母リリアンやイズリィさんが晩御飯のあいだもすげー騒いでて、ツッコミを入れてくのに疲れたぜ。
明日は大人しくなってるよな?
「……そうですね」
おとなしくなるリリアン。
俺の方を向くように体勢を変え、半分くらい体重を預けてくる。
女の子のいい匂いとやわらかい感触がする。
「ふふふ。いつもありがとうございます。エルクのおんぶを私はとても気に入っていますよ」
横を見ると、目の前に目を閉じているリリアンがいる。
あれ? これチュー的なのできんじゃね?
こんなに近くで目を閉じるなんて、キス待ちだろ。
これは……
どうするか悩んでいると、「すーすー」寝息がする。
無防備に眠るリリアンに、俺は何もできなかった。
――――
「わりぃ子はいねぇかー!」
急に布団をひっぺがされる。
「あれ? 2人とも服を着ている?」
イズリィさんのびっくりした声。
この人はいつも急だな!
「なんなんだよ? まだ朝じゃないか? 寝かしてくださいよー」
俺は目をこすってからだを起こすと、外はまだ明るくなり始めたくらいだった。
「いや……いやいや。なんで何も無かったみたいに寝てるのよ?」
「何もなかったからですよ」
「え? はははー。お姉さんを騙そうとしても無駄よ。男は狼なのよ?」
男は狼て……
『悪いことをしたらごめんなさいしましょう』みたいな人生のルールっぽいのを言うイズリィさん。
男の俺に言われても……
「……エルク君は男の子の方が好きなのかい?」
「いえ。女の子大好きですよ」
「年下の女の子は好きじゃないのかい?」
「いえ、最近は上も下も関係なく女の子は大好きですよ」
「妹のことは好きじゃないのかい?」
「いえ。リリアンのことはす……って、あぶねーな! 変な聞き方すんな!」
にたぁとするイズリィさん。
「へぇ~。そうかいそうかい。キミもそう思ってくれてるんだね~。良かったね~リリアン」
リリアンを見ると……顔が真っ赤になってる!
えっ? 起きてる? いつから?
「いやはや。お邪魔虫のお姉さんは消えるとするかね。朝からしっぽりするってのもいいと思うよ!」
「朝とか関係なくしねーから! あと、仲間として好きってことだから!」
俺が大声を出すと、リリアンが俺の服をギュッと掴む。
「あの、さっきまで私を抱き締めてクンクンしてたのは何だったんですか?」
目を潤ませて見上げるリリアン。
なにっ?
いつから起きてたんだ!
「違う違う。こう……魔法の練習をしてたんだよ」
「ははは。下手過ぎる言い訳だねエルク君! どうするんだい? 周りに音が漏れないように部屋に魔法をかけて欲しいのか。音が漏れるのを気にしながらプレイするのがいいのか」
「余計なお世話です!」
俺は恥ずかしくなって、さっさとリリアンの部屋を出る。
「あっ。もう少し……」と名残惜しそうな――小さな声が漏れていた。