21.夜明けのルシファー教団ってなんなの?
真っ暗闇の馬車にいる。
アリアのクールな声。
「真っ暗だからって、変態行為をしないでくださいね」
「しねぇよ」
「すーすー」
アリアは俺が何かするのを警戒している。と思う。暗くて見えないが。
馬車の中は4人が対面して座れる広さがあり、俺はアリアの対面に座っている。
夜明けのルシファー教団のシャイニングブルーさんが隠れ里とやらに案内してくれることになった。
シャイニングブルーさんは馬車の御者となり、俺たちは黒い布で包まれた馬車に乗せられて3日目だ。
「そういえば、俺が初めてアリアに会った時にネコ探してたけど……アレって夜明けのルシファー教団の手伝いか何かか?」
「そうでしたっけ? えーっと……わたくしもネコを探していましたが、夜明けのルシファー教団とは別の依頼人だと思いますよ。わたくしは依頼のあったネコを見つけれましたからね」
ほーん。ネコ探しが流行ってんのか?
でも、夜明けのルシファー教団ってどんなやつらなんだろうな?
「なぁ。アリアに聞くのも変だけど、夜明けのルシファー教団ってどんな宗教なんだ?」
「夜明けのルシファー教団の教えは、『他の邪神に騙されている迷える人々を救い、本来の神であるルシファー様の救済を待つ』というものです。神であるルシファーは元々は神の一族でしたが、神では救えない人々がいることを知って神の座を下り、邪神となって弱き人々を救う旅をしていると言われております。そして、再び神に戻ったときに世界は真の救済を迎え、全ての人々は救われるとのことです」
「すーすー」
なんか色々苦労しそうな神様だな。
全ての人々を救ってくれるんなら、ハティも救ってくれるかな?
少しは期待できそうだ。
俺はぐっすり眠っているリリアンの髪に手を差し入れて軽くなでる。
なぜか俺はリリアンを膝枕している。
馬車に乗るときにリリアンは自然な流れで俺に膝枕させてきた。
膝枕って女の子が男にするもんじゃないのか?
たぶんリリアンは、俺のことを動くベッドだと思ってるんだろう。
ガタンと馬車が揺れたので、ズレ落ちた気がするリリアンの黒いローブを直していると、扉が開いた。
扉から光が差しこんでくる。
「よくぞ参られた。新たな同志よ」
歓迎の挨拶なのか、シャイニングブルーさんが微笑みながら両手を広げている。
いや、信者になる気はねぇよ?
俺はリリアンを背負ってアリアと馬車を降りた。
着いたのは町の中で、パッと見は普通の町だ。
しかし、よーくキョロキョロすると右手に真っ黒い豪邸。左手に真っ白い豪邸、奥にでかい神殿がある。
神殿があると宗教の町っぽいな。
「ささっ、こちらへ。あちらの大暗黒神殿に行きます」
俺たちはシャイニングブルーさんの後ろをついて行き、奥のでかい神殿へ向かっていった。
――――
暗黒大神殿の中は、薄暗く、たいまつがところどころを照らしている。
ドクロや動物の骨も飾っていて、なんかくら~い感じだ。
シャイニングブルーさんは入口に立っていたおじさんと話をした後、俺達へ振り返り。
「魔法に詳しい者がいるのですが、会議が長引いているようです。少しお待ちください」
ペコリとして、どこかへ去っていった。
こんな暗いところに放置されるとはな。
なんか幽霊とか出そうだ。
アリアは俺と違って落ち着いている。
お化けとか得意なんだろうか?
俺が骨をツンツンしていると、目の前を灰色ローブのお兄さんが通りかかる。
「ん? 新しい信者かい? ではこちらへ来て我らがサバトを見ていきなさい」
お兄さんは俺の返事を待たずに引っ張る。
「あ、あの…」
「ハハハ。遠慮するな。ちょうど我らが神についての話し合いをしているところなんだよ」
「違います。俺は心に決めた女神がいるんだ。離してくれ」
なぜかお兄さんを振り払えず、大きな部屋へ入れられた。
アリアは何も言わずについてきている。なんか言って止めてくれよ。
部屋には、大きな丸いテーブルに灰色ローブを着た人が12人座っていて、壁際にはたくさんの灰色ローブがいる。
この部屋も薄暗い。
12人のなかの1人。灰色ローブが立ち上がって大声を出す。
声がガラガラになった、酒飲みのようなおっさんの声だ。
「わしは20枚の翼が生えたグリフォンのような大きなお姿だと思うんじゃ!」
灰色おっさんは大きな紙を広げる。
紙には、大きなグリフォンの胴体に脚や翼がたくさん生えた、ちょっと気持ち悪い絵が描いてある。
「この翼で目にも止まらぬ速さで動き、音もなく神々を滅ぼすんじゃ!」
灰色おっさんは体を左右に速く動かし、たまにパンチをしている。
周囲から「おぉー」という声が漏れている。
結構いい動きをしている。元格闘家かもしれない。
「いけいけぶっ殺せ」とか物騒なヤジが聞こえだした頃、灰色おっさんは満足げにお礼を言って座る。
次は、隣の背の低い灰色ローブが立ち上がって大声を張り上げる。
声は若く少年のようだ。
「じゃあ、僕の番だね。僕が考えるに邪神様は10個の首を持つ巨大なドラゴンのお姿だと思うんだ!」
灰色少年は大きな紙をバサリと広げる。
紙にはたくさん首の生えたドラゴンっぽいのが描かれている。
「それぞれの頭から炎や氷や雷を出す最強のドラゴンで、どんな攻撃も跳ね返すウロコに覆われてるんだ!」
身振り手振りで一生懸命に強さを主張する灰色少年。
一通り言い終わると、テーブルや壁の人から拍手と共に「素晴らしい」という声が聞こえる。
灰色少年がお礼をし、「エヘヘ」とでも言いそうに、はにかんでいる。
いや、ナニコレ?
アリアが俺の疑問に答える。
「邪神ルシファーはどのような形をしているか不明ですが、すべての神をも殺せる強さを持つといいます。なので、彼らは想像の中の邪神を発表しあっているのでしょう」
邪神がどんなのか妄想して、みんなで盛り上がってんのか?
「ちょっと待ってください!」
俺のすぐ耳元で大声がする。
リリアンの声だ。
リリアンはバッと俺から降りて。
「最強のドラゴンはサファイアちゃんです! 闇より暗く、漆黒より黒い最強のドラゴンです!」
リリアンはテーブルに座ってる灰色ローブから紙とペンを奪い、何かを書きだす。
奪われたお姉さん。お姉さんじゃないか! おいやめろ、お姉さんが涙目になってるぞ。
「あなたたちは何もわかっていません。いいですか……あらゆる力を闇が吸収し、漆黒のブレスで攻撃するドラゴンの中のドラゴンなのです!」
リリアンは急いで書きなぐった紙を広げる。
そこには本物そっくりのサファイアちゃんが描かれていた。
短時間でそっくりな絵を描いている。
さっきまで騒がしかったが、サファイアちゃんの絵で静かになる。
誰かが息を飲む音がする。
「すばらしい……」
「なんと強いお姿だ! この方も我らが神かもしれない!」
「邪悪さがあふれている! なんと闇闇しい姿だ!」
リリアンはまわりの反応に目をキラキラ、ニコニコしている。
紙とペンを奪われたお姉さんも、リリアンへ尊敬のまなざし。
なんか受け入れられてる?
リリアンは紙ペンを奪ったお姉さんと席を替わり、さらにサファイアちゃんの強さを語り出した。
リリアンが口を開くたびにどよめきが起こり、部屋は熱気に包まれる。
なるほどね。ルシファー教団の人は悪い奴じゃないな。きっと。