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19.シャキッとしなさいよね

 俺は治療院から出て中央広場のベンチに座っている。
 気づけば夕方になっていた。

 俺は……治療院で手伝うって言ったのに、ずっとここに座っていた。

 アレンの言葉で本当は何もできない雑魚であることを思い出していた。
 今までは仲間がすごかっただけで、俺は何もしていない。
 仲間のハティをアレンに奪われても、何もできなかった。

 どうしようもなく自分の無力さが嫌になる。



「あ! エルク君じゃないの。こんなとこで……どうしたの? つらそうな顔してるわよ」

 サーシャ先輩だ。
 ベンチの隣にゆっくり座ってくる。
 俺は自分が恥ずかしくて、いつもみたいに目を合わせられない。

「どうしたのよ? 全然元気無いじゃない」

 いつものように明るい声のサーシャ先輩。
 いつも自信に満ちあふれているサーシャ先輩がうらやましい。

「いえ、なんでもないです……」
「なんでもないですぅ? ボクちんすっごくなやんでますぅ って顔して何言ってんのよ? ほら、話してみなさい。これは先輩命令よ!」

 先輩命令……か。

「先輩命令でもあり、店長命令よ! ふふ。このハータでは私が店長サンなんだからね!」

 店長命令ね……お店を任せられるなんて、やっぱりサーシャ先輩はすげーや。

「ねぇ。話しやすいところからでいいわ。そうねぇ……今日、朝起きてからのことから教えてくれる?」

 声のトーンを落とし、ささやくように優しく聞いてくるサーシャ先輩。
 この人は本当に優しい。

 俺は素直に朝起きたところから話しだし……最後にはハティがアレンの命令で前のパーティの戻ったことを説明した。
 サーシャ先輩は黙って聞いてくれた。

 全部話し終わると、サーシャ先輩が「エルク君はどうしたいの?」と聞いてくる。



 俺は……

「前みたいにみんなと一緒に面白おかしく過ごしたいです」
「なーんだ。どうしたいのかわかってるじゃない。だったら、こんなところでウジウジしてる場合じゃないでしょ! 頑張れ男の子」

 バシッと背中をたたかれる。

「いってぇ」

 痛みで無理やり体が起こされる。
 文句を言おうと顔を上げ、初めてサーシャ先輩を見る。

 すると、夕日を背にし、神々しい光の中で、すべてを包み込む微笑みがあった。
 女神はここにいた。
 俺の女神様はここにいた。

「うんうん。そうやって、背筋伸ばして堂々としてなさい。うちの食堂で何を学んできたのよ?
「あなたは仲間想いのいいやつよ。あなたを見てきた私にはわかるわ。
「あなたが全部やらなくても、仲間と一緒に頑張ればいいじゃない。
「それに、最近のあなたを見てて思うの。なんだかんだ言って、あなたは最後にはすごいことをするわ。少なくとも私はそう信じてる」

 ニコッと笑いかけてくれる。
 女神サーシャ先輩のありがたいお言葉。

「ありがとうございます。俺やってみます」
「いい顔になったじゃない。しっかりやんなさい」
「はい。あ、サーシャ先輩はケガとかしてないですか?」
「うん。私たちは大丈夫よ。今はヒースルでお店を開く準備をしてるわ。おいしいご飯を食べれるようにして、みんなを元気にするのよ。新店長としてね!」

 腕まくりして肘を曲げ、ちからこぶらしきものを見せてくる。
 いや、ウチの店にちからは不要だろ。新しい店をどうする気だ?

 サーシャ先輩はいいモノを見つけたように、目をキラリとさせる。

「お、笑えるようになったじゃないの。エルク君はそうやって、やれやれとか言いながらみんなを引っ張ってればいいのよ。その方が、店長の私も楽できるからねー」

「あははー」と笑うサーシャ先輩。
 サーシャ先輩はすごい人だ。

 俺はサーシャ先輩へお礼を行って、治療院へ走った。

 ヒースルの中央広場にある、俺が作った、俺たちの銅像は、俺を含めて4体立っている。
 1人も欠けてはいけないんだ。



 ――――



 俺は治療院のアレン達の部屋へ戻り、ハティに宣言する。
 アレンがいることは完全に無視だ。

「ハティ。絶対に迎えに来るから待っててくれ」
「わかってるわよ。はやくしなさいよね。先輩を待たせるのはとっても失礼なことなのよ?」

 強気な声だが、目の端には涙を浮かべるハティ。
 俺は――――自分と仲間の力でハティを取り戻すことに決めた。

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