②
「そ、そうか」
ライラの期待が最大まで膨れ上がり、そしてリゲルは立ち止まった。つられてライラも立ち止まる。
数秒、沈黙が落ちた。視線が交錯する。
そのことでライラはすでに理解していた。なにを言われようとしているのかを。まさに、自分が期待した通りのことだろうと。
期待で胸がいっぱいになってしまっているライラの前で、リゲルが口を開く。しっかりライラの目を見つめて。
「それなら、その、俺の」
リゲルがそこまで言ったときだった。
不意に、がらがらっと大きな音がした。ライラが、はっとして顔をそちらに向けると、ワインレッドに塗られた立派な馬車がこちらに向かって突っ込んでくるところで。
え、な、なに、ここ、歩道じゃ。
そんなどうでもいいことを思ってしまったライラに比べ、リゲルの行動は真逆だった。
「危ない!」
ひとこと叫んで、次にライラの体が強く引っ張られる。そしてライラの体があたたかいものに触れた。初めて触れる感触に。その感触に強く引き寄せられて、転ぶかと思ったくらいだ。道の端の端まで強く避けさせられる。
あまりに強かった衝撃に、ライラの手にしていた包みが、ばさっと落ちた。本もレターセットも買ったばかりなのに。でもそれを気にしている余裕などなかった。
一瞬の、そのこと。自分の体が急に引っ張られて無理やり移動させられた、直後。
がしゃん、と爆発するかのような大きな音がした。きゃーっと女性の悲鳴があがる。暴走していたらしき馬車が、どこかの建物に突っ込んだようだ。
すぐに近くにいたひとたちが大声で騒ぎだすのが聞こえてくる。混乱していたライラの心臓が、どきどきと今更ながら高鳴り、恐怖に一気に凍り付いた。
事故だ。御者が居眠りでもしていたのかもしれない。危うく轢かれるところだったのだ。今更恐ろしくなってくる。
が、そんなことは些細……ではないが、もっと重要なことがあった。