9.最強の私が毛玉をボコったげるわ
「あはははー。こんな白い毛玉、私がぶん殴ってやるわ!」
ハティが右手に銀色のガントレット、『ブンナグル』をつけて暴れている。
暴れながらも狙っているのは暴食ウサギの群れだ。
体長30センチくらいのウサギの魔物で野菜や布などを好んで食べる。
しかし、鉄や石や人を食べたりはせず、危険は少ない。
俺達がいる場所は、農作の町ラッツルの端っこの農場前だ。
ラッツルは農業が盛んで、王国の半分の食料を生産している町だ。
どうやら土の精霊と相性が良く、おいしい作物や家畜が育つらしい。
俺の勤める食堂『スイクーンの寝床』でもたまにラッツルで作られた野菜を使っている。
今は暴食ウサギの駆除クエスト中だ。
ハティはブンナグルを振り回しているが、全然当たってない。
ただ、ハティは暴食ウサギの噛みつきをうまく避けている。
離れて見ている俺としては、青いワンピースの女の子が白いウサギと楽しそうに踊っているようにも見える。平和だね~。
今はお昼前くらいで、リリアンは俺の背中で寝てる。
どうやら、昼頃までは絶対に起きないようだ。
前のバルログ戦で圧倒的な力を見せつけられたので、とりあえず連れてきた。
ピンチの時の奥の手ってやつだな。
「ちょっと……エルク。はやく魔法使いなさい……こいつらすばしっこくて……当たらない」
ハティがはぁはぁ息切れしながら訴えてきた。
2匹くらい倒したようだが……体力ねぇな。
俺は地面に右手をつくと、小指の指輪がぼんやり緑色に輝きだす。
エルフ幼女に貰った指輪だ。魔力を高める効果があるらしい。
「貫け。アースニード……」
魔法を使おうとすると、地面が揺れだし――――転んじまった。
リリアンが俺から落ちてコロコロ転がる。
使い慣れない魔力に驚いちゃったぜ。
起き上がると、俺がいたところを中心に地面がボコッとこぶみたいになっていた。高さは1メートルくらいで、亀裂がたくさん入っている。
土魔法の制御失敗だ。
ハティが疲れてるのに俺をバカにしてくる。
「ちょっと……なに遊んでるのよ……」
言い返そうとした俺に大量の暴食ウサギが襲いかかってきた。
何度も噛みつかれたが、痛くはない。
噛まれたところを見ると服に穴が空いている。
「エルク……なんとかしなさいよ!」
ハティは青いワンピースのスカートをかじられてミニスカートになってる。
白いふとももがまぶしいぜ。
俺は地面に手をつき、魔法に集中する。
指輪が光り、大量の魔力を感じるが、その少しだけを手のひらへ送り込む。
「貫け。アースニードル」
100本くらいの土の針が地面から飛び出す。
俺を襲っていた何匹もの暴食ウサギを串刺しにしていく。
俺すげー。
俺の魔法を見て、危険を察知したのか暴食ウサギが逃げていく。
ハティと戦っていた暴食ウサギも逃げ始めた。
俺は暴食ウサギがまとまってきた頃に、もう一度アースニードルを使い全滅させる。
威力だけじゃなく、射程距離や攻撃範囲も上がってるな。
俺めっちゃ強くなってる。
よし。今後は魔法の道具を集めよう。
俺は針で荒らした地面を直そうと、広範囲に土魔法を使ってみる。
すると、あたり一面の土地が緑色に輝き、花や草がワサッと生えてきた。
土が活性化したのか? なんかすげーな。
フラフラしているハティが俺に近づいてくる。
「なかなか……やるじゃない。でも、私のワンピースどうしてくれるのよ! 新しいの買いなさいよ!」
「おう! いいぜ。次はもっといいの買ってやるよ」
ハティは「えっ?」としながら笑顔になる。
おっと。自分の強さに浮かれて軽く返しちゃったぜ。
ま、いいか。
ミニスカートってところはいいんだけど、ボロボロになった服をハティに着せるわけにもなー。
「ホント? やった。あ、エルクもいい装備買いなさいよ。上はほぼ裸じゃない」
俺は自分の格好を見ると、上半身裸になっていた。
暴食ウサギに食べられたんだろう。
古い装備だったし、ちょうどよかったかな?
ま、今後の俺は魔法で敵をボコれそうだ。防御は気にしないで、魔力を高めるローブでも買おう。
「おっし、じゃあ暴食ウサギ討伐の報告に行くか」
俺は今後の活躍を想像しながらリリアンを背負おうとすると、転がってたリリアンへ振り返る。
すると、リリアンが生まれたままの姿で地面に寝ている。
仰向けになっているが、植物がいい感じ……悪い感じにいいトコロを隠していて見えない。
どうやら着ていたものを全部、暴食ウサギに食べられたようだ。
「よーし。リリアン。いつまでも寝てないで行くぞ」
リリアンを背負おうとした歩く俺の腕をハティが引き留める。
「ちょっと待って。もしかして、このままおんぶする気?」
「お、おう」
ハティがジト目でにらんでくる。
「ねぇ。全裸のリリアンをおんぶする気なの?」
俺は……。
ハティは大きめの声で確認してくる。
「おんぶしてリリアンの生おっぱいを……」
「ハティ。俺は街に行って、着るものを買ってくるから待っていてくれ」
俺はハティの話に割り込み、リリアンを見るのをやめてラッツルへ走り出す。
後ろからハティの大声が聞こえる。
「もっと速く走りなさいよ!」
――――
ラッツルで簡単な服を2着買い、ダッシュで戻った。
リリアンは起きており、ハティと同じように俺へジトーっとした目を向けている。
リリアンはハティのミニスカワンピースを着ている。ハティは下着姿だが、恥ずかしがる様子は無い。
でも、服を渡すときにいつもより距離を取られた気がする。
その後、ラッツルのギルドへクエストの報告をした。
ギルドのお姉さんから、「あの……次からは服を着てから来てください」と言われた。
俺はずっと上半身裸だった。
二人からクスクス笑われたが、変な空気感は和らいだと思う。たぶん。
後日。報酬の5万ティルと特別報酬に10万ティルを貰った。
なんでも、俺が草花を生やした土地の地質が良くなってるらしい。
だが、報酬は全部ハティとリリアンの新しいお洋服代に消えた。