バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

6.まずは簡単なクエストにしましょう

 グルルルゥ

 目の前にナックルベアーが2体いる。
 昼前あたり。俺はリリアンを背負ったまま、ハティとコソコソと森を移動している。
 ハティは俺の荷物も合わせて背負って貰っている。力は俺よりあるだろうからもっと荷物を持っても大丈夫そうだ。

 俺が荷物を背負い、ハティはリリアンを背負うってのもいいプランかもしれない。しかし、俺は荷物よりリリアンを選んだ。当然だ。
 低い姿勢で歩いていると、ハティが俺の服のすそを引っ張ってきた。

「ねぇエルク。あのクマ。ハチミツ食べてるわよ。あれ奪っちゃいましょうよ」
「バカ言うな。あんな凶暴なやつ倒せるわけないだろ。今回は薬草採取だ。この先にずっと濡れてる変わった薬草があるらしい」

 昨日受けたナックルベアーを倒すクエストは失敗した。
 ドラゴンを召喚できるリリアンが起きなかったからだ。
 そこで、今日は戦わなくてもいいクエストにした。

 本当はリリアンを仲間にせずに、他のメンバーを募集したかったんだが。
 ジャイアントスズメのフンがリリアンのローブについていて、弁償はいいから仲間にしろと言われて仕方なくそのままになった。
 リリアンが起きて戦ったら強いはず。ドラゴン召喚できるし。

 ちなみに、リリアンは俺の背中で今も「すーすー」寝てる。

 俺は地面の気配を土魔法で探り、ハティには周囲の音を警戒させている。
 今のところ、この連携がうまくいっているのか、まだ戦闘になっていない。

 魔物の気配を避けつつ、そっと歩いていると森の中に小さなほこらや石が積まれていた。
 ハティが「わぁっ」と言って石へ小走りに近づく。
 積まれている石にはハティが入れそうな空洞が空いていて、門のようになっている。
 空洞の奥は真っ暗だ。

「これ何? なんかあるわよ」

 石の門からは静かでキレイな空気感を感じる。
 なんだろう?
 ハティはペタペタほこらを触っている。

 すると、門が急に光りだした。
 空洞の奥から白い光りがあふれだす。
 まぶしさに目を閉じる。

「何よ。まぶしーわね」

 光がおさまったようなので、目を開けると、小さい女の子が立っていた。
 背はかなり低く、人間なら5歳くらいだろうか。
 女の子は首をかしげて俺を見上げてくる。

「あれれー? あなただぁれー?」

 薄い色の金髪で、耳がとがっている。エルフか?
 白いワンピースを着ていて、髪飾りや指輪、ネックレスなどには大きな宝石がはめ込まれている。
 金持ちのお嬢さんかな?

「俺はエルクでこっちはハティだ。お嬢さんは何て名前?」
「わたしは……わたしはまだお名前ないの」
「そう……か。名前無いか。あ、俺の背中の子はリリアンっていうんだよ」

 俺はエルフ幼女に見えるように背中を向ける。
 エルフ幼女は「はっ」と驚き。俺を指さす。

「その女の子を放しなさい。あなたは悪いドレイ商人なんでしょ。私にやっつけられたくなかったら言うことを聞くことね」

 エルフ幼女は手のひらを広げる。
 魔力がエルフ幼女へ集まるのを感じる。
 なんか強そうな子だ。

 様子を見ていたハティが俺の前に立ちふさがって両手を広げる。

「ちょっと待って。エルクは奴隷商人じゃないわ。ただのせこい魔法使いよ」
「おい。せこいってなんだ?」

 合ってるけど、はっきり言うなよ。
 エルフ幼女があごに指を当てて、体ごと横に傾いて質問してくる。

「え? そうなの? お姉さんはドレイの首輪してるし、お兄さんの背中の子は眠らされてるよ。今から悪い人へ売りに行くんじゃないの?」
「違うのよ。私は別の人の……ってややこしいわね。とにかく色々あるの。リリアンは寝るのが好きだから寝てるの!」

 ハティが両手をバタバタ動かしながら説明する。説明適当過ぎだろ。
 しかし、エルフ幼女は体をまっすぐにして笑顔になる。

「なーんだ。悪い人じゃないのね。良かった。じゃあ、わたしの即死魔法は使わないね」

 即死魔法? 無茶苦茶やばそうな魔法使えるじゃねぇか。俺のパーティに欲しい。
 ハティは両手を組み、偉そうにウンウンうなずいている。

「わかればいいのよ。あと、私はとっても偉いからハティ様って言ってもいいわよ」
「うん。わかったハティ様」

 ピュアなエルフ幼女を騙す悪い奴隷がいる。
 そんなに偉ぶりたいのか。
 俺がハティに軽く引いていると、後ろから獣の唸り声が聞こえてきた。

 振り返ると、ナックルベアーが勢いよく出てきた。
 俺は身構え、素早く指示を飛ばす。

「おい。さっきの即死魔法ってやつをあいつに、」
「きゃああああっ」

 顔だけ振り返ると、エルフ幼女がハティにしがみついて震えている。
 ハティも驚いているのか、エルフ幼女の手をつかんでいる。

「ちょっと。私の服を引っ張らないで。伸びるでしょ。怖がるふりしてないで、あのクマやっつけなさいよ」
「うぇぇぇ。できないよハティ様。わたし魔法使えないもん」

 おい。話が違う。
 だが、あきれてる場合じゃない。俺は地面に手をつける。

「壁となれ。アースウォール」

 俺とナックルベアーのあいだに土の壁を作る。
 10センチくらいの暑さがあるが、俺の魔力だと簡単に壊れるだろう。
 ただの目くらましだ。
 今のうちに逃げよう。

 エルフ幼女がハティの服を強く掴んで、ハティから引き剝がされないようにしながら。

「でもでも、わたしこの光の門は使えるようにできるんだよ。こっちへ逃げようよ」

 石の門はまだ光ったまま。
 どうやら別の場所に行けるようだ。

「よし。その光の門へ逃げるぞ。おいハティ。その子の手をあんまり強く握るなよ。痛いだろ」
「嫌よ。この服は私がはじめて自分の物になった服なのよ。絶対破らせたりしないわ」

 こんな時に自分のことばっかり考えてんじゃねぇよ。
 俺はごちゃごちゃしているハティとエルフ幼女を連れて光の中へ入る。

 こんなピンチの時も、リリアンは「すーすー」とリズムよく寝息を立てている。
 ただ、いつも脱力している両手はいつの間にか俺の首へ巻かれていた。
 何があっても振り落とされないようにしているのか、リリアンはちゃんと自分の身を守ろうとしてた。

しおり