コンビニおもてなし 5号店の2 その6
ルア率いるルア工房の工事も終わり、
2階がコンビニおもてなし
1階がマクローコの美容室とクキミ化粧品の作業場
そんな店舗が完成しました。
引き渡しと代金の支払いを終えた僕とマクローコは、早速店内の準備を開始しました。
マクローコの美容室は、以前からマクローコの店で働いているゴブリンとゴーレムの女の子が一緒になって作業を行っています。
今回の工事ではマクローコのお店の裏にあった空き家もを買い取っています。
その空き家を取り壊しまして、その分店舗を増築してあるんですよね。
で、マクローコの美容室もその分スペースが広くなっているわけです。
それにともないまして、マクローコの美容室では新しくスタッフを雇ったそうなのですが……
「そうね、美容室なら私達の能力をゴージャスかつエレガントに発揮出来るわ。そう思わないキョルンさん」
「えぇ、私もそう思いますわ、ミュカンお姉様」
そこにいたのは、ある時はヤルメキススイーツのサポート。またあるときはクキミ化粧品の作業員としてコンビニおもてなし関連のお店であれこれお世話になっている、バイト……じゃなかった、ゴージャスサポートメンバーのキョルンさんとミュカンさんのお2人でした。
お2人とマクローコは、クキミ化粧品の生成作業を一緒にしていた仲なんですよね。
どうやら、その際にこの話を打診したようです。
なので、3人は、
昼間はクキミ化粧品を作成。
夕方からはマクローコの美容室で作業。
そういったお仕事の形態になるわけです。
クキミ化粧品の作業スペースでは、マクローコの友人のエルフ達がバイトとして多数働いているのですが、そんなみんなにも引き続き働いてもらうことになっています。
ちなみに、コンビニおもてなし5号店東店にスタッフとして加わったエルフ4人組も、元はそんなバイトだったんですよね。
マクローコ達は、荷馬車に乗せて持って来た荷物をお店にどんどん運び込んでいます。
そんなマクローコ達を見つめながら、
「さて、僕達も負けずに頑張らないと」
そう言いながらコンビニおもてなし5号店東店へとあがっていきました。
マクローコの美容室の2階にありますコンビニおもてなし5号店東店へは階段であがることになっています。
階段は、建物の横とマクローコ美容室の店内の2箇所に設置されています。
これは、いままでどおりマクローコの美容室で順番待ちをしているお客さんがコンビニおもてなしに行きやすいように配慮しつつ、マクローコの美容室が閉店している時間帯にお客さんが入れるように、と、そういった配慮をしているわけです。
マクローコの美容室の中にある階段から2階へと上がった僕。
そんな僕の後方にはスアと、パラナミオをはじめとした子供達プラスアルカちゃんが続いています。
「……わ、私も早くファミリーに加わりたいアル……そのためにももっともっと精進するアル」
アルカちゃんはそう言いながら、リョータとつないでいる手をギュッと握りしめていました。
そんなアルカちゃんに、リョータは笑顔で
「大丈夫です、アルカちゃんならすぐです」
そう声をかけていました。
その言葉を受けて、アルカちゃんは顔を真っ赤にしながらうつむいていました。
なんといいますか、見ていてとっても微笑ましい2人なんですよね、ホント。
で、店内に移動した僕の前に移動してきたパラナミオが
「パパ! まず何をしましょうか?」
気合い満々の表情でそう言いました。
……ですが
そんなパラナミオを、僕は苦笑しながら見つめていました。
え? なんでかって?
実はですね……この時、パラナミオの後方でスアが水晶樹の杖を一振りしていたのですが……
なんということでしょう、その一振りでですね、僕が魔法袋に入れて持って来ていた商品が一瞬にして店内に備え付けられている棚の中に陳列されてしまったのですから……
ですが、そこはさすがスアです。
僕が『えっと、どうしたらいいんだ、これ』的な表情を浮かべていると、
「……パラナミオやみんな、こっちに来て」
スアはそう言いながら子供達をお店の奥に連れて行きました。
スアが到着した先は魔石や生活雑貨を販売しているコーナーなのですが、このコーナーには商品が陳列されていませんでした。
その棚の前には、この棚に陳列する予定の品物が詰まっている木箱が並べて置いてあったのです。
スアは、その木箱を指さすと、
「……さぁみんな、これを並べて」
パラナミオ達にそう言いました。
そうなんです。
スアは、お手伝いをするために一緒に来ていた子供達のために、わざと一部商品を陳列せずに残していたんです。
スアの言葉を聞いた子供達は、
「ママ、任せてください! パラナミオ頑張ります!」
「アルカちゃん、僕達も頑張ろうね」
「は、は、は、はいアル、リョータ様」
「アルトも頑張りますわ」
「ムツキも全速前進にゃしぃ!」
口々にそう言いながら、木箱の中身を棚に並べはじめました。
そんな子供達の姿を見つめながら、僕はスアに、
「ありがとうスア」
そう言いながら、右手の親指をグッとたてました。
そんな僕に、スアも笑顔を浮かべながら、
「……旦那様と私達の子供のため、当然のこと」
そう言いながら、自らの親指をグッとたてたのでした。
そんなわけで、スアと子供達の頑張りのおかげで、コンビニおもてなし5号店東店はあっという間に開店準備が整った次第です。
◇◇
僕が一階の様子を見に降りてみますと……そこに意外な人物の姿がありました。
「はいはい、ではではこのカットも頂きますね」
そう言っているのは魔女魔法出版のダンダリンダでした。
ダンダリンダの横では、小柄なエルフの女性が水晶撮影機を手にしています。
その女性の前には、どうやらマクローコやキョルンさんとミュカンさんの手によってヘアメイクと化粧をされたらしいバイトのエルフ達の姿がありました。
椅子に座って、おすまし顔をしているエルフ達に、その女性は、
「いいですねいいですね、もう少し笑って笑って」
そんな言葉をかけながら水晶撮影機で撮影を続けています。
ダンダリンダによりますと、この女性はシリシリンシと言って、魔女魔法出版のおしゃれ系の書物を主に担当している編集者なんだとか。
「今回、こちらマクローコ美容室のヘアメイクとメイク本を出版させていただくことになりまして、その撮影をさせていただいているのでございますわ」
ダンダリンダは、そう言いながらウンウンと頷いていました。
「この間、いいモデルさんを見つけて写真集を出版しようとしたのですが、そちらはお断りされましたの。ですので、その分、こちらに気合いを入れさせていただいておりますわ」
そう言うダンダリンダの前で、シリシリンシは撮影を続けていた次第です。
しかし……魔女魔法出版って、確かにこの世界最大の出版社ですけど、ホント多岐にわたる内容の書物を出版しているんだなぁ、と、改めて感心した次第です。
さすがはスアのお母さん、リテールさんが社長を務めているだけのことはあるってことですかね。
「あら嫌ですわ、婿様ったらそんな他人行儀にお母様だなんて。お気軽にリテールとお呼びくださいな」
「うわぁ!? お義母さん、いつの間に!?」
いきなり僕の横に出現した小柄なエルフ……スアママことリテールさんは、顔を赤くしつつその体をくねらせながら僕の脇腹をツンツンとつついてきました。
「まだまだ私、これでも現役バリバリですのよ……なんでしたらこのまま別室に行ってですね、ステルちゃんに弟か妹を……」
リテールさんがそこまで口になさったところで、その姿が一瞬にして消えてしまいました。
で
そこには、リテールさんと入れ替わるようにしてスアの姿が出現していました。
「……スア、リテールさんをどこまで飛ばしたの?」
「……とりあえず、山向こう」
僕の言葉にそう返答したスアは、
「……旦那様は私の、なのに」
そう言いながら頬を膨らませていました。
そんな焼き餅スアを見つめながら、僕はリテールさんがどこの山の向こうまでスアの魔法で吹き飛ばされていまったのか思いを巡らせていました。