⑥
不意に、シャイが立ち上がった。手を差し伸べて、サシャのことも立ち上がらせてくる。
促されるままに立ち上がったサシャは即座に、腕に抱き取られていた。ぎゅう、と痛いほどに強く抱きしめられる。
けれどそれもきっと、シャイの抱いてくれる気持ちの強さ。サシャは安心して彼の背中に腕を回した。とくとくと伝わってくる鼓動が心地いい。
「初恋が実って、俺は幸せだ。……愛してる」
「私もシャイを愛してるわ」
当たり前のように言い交わし、しばらくそのままでいたのだが、シャイがふと声音を変えた。
「気付いてたかい。外」
「外?」
サシャは窓に背中を向けていたので、外は完全に見えない位置であった。なので、シャイから少し離れて振り向く。見えたものに、思わず「わぁ」と感嘆の声をあげてしまった。
ちらちらと白いものが降っている。
雪だ。
これほど降っているのを見たのは、今まで生きてきて数えるほどしかない。
うつくしかった。とても。
「雪。サシャの国ではあまり降らないだろう。ゆっくり見るといい」
見入ってしまったサシャを少し可笑しく……いや、愛しく思ったのだろう。シャイはそう言ってくれる。
「綺麗なものね」
「雪遊びでもしていくかい」
「それも楽しそうだわ」
言い合い、くすくすと笑う。
シャイのこと。
抱えている事情を知った今、楽しい気持ちや嬉しい気持ちばかりではない。
それでも自分で言ったように、『つらい気持ちだって、愛しているひとのため』。
だから、いい。
今はつらく感じられることすら、幸せなことなのだから。
雪を眺めていた視線をそらして、シャイのほうを見る。シャイも気付いたようにサシャに視線をくれて、視線がまたぶつかった。どちらともなく、微笑を浮かべる。
触れ合ったくちびる。まるで心ごと触れ合うような、深くやさしいものだった。