⑥
「これ、この間のお礼。朗読会、私を推薦してくれて本当にありがとう」
「えっ、いいのか? 俺に? わざわざ?」
その包みをリゲルに差し出す。リゲルは、なにかもらえるなど考えてもみなかった、と言わんばかりに目を丸くした。
「だって、とってもいい経験をさせてもらったもの。ね、お礼。もらって」
「あ、ああ……そう思ってもらえたなら、推薦した甲斐があったな。じゃ、なんか気を使わせて申し訳なかったが、うん、ありがとう」
俺に? などとは言ったが、リゲルは素直にそれを受け取ってくれた。開けていいか、と聞いて、包み紙を丁寧に開けていく。
テープを剥がすのだが、その剥がし方はとても綺麗だった。黒い包み紙はちっとも傷ついたりしないで、テープだけが綺麗に取られていく。自分はこういうものは、どんなに丁寧にしようとしたって絶対にやぶってしまうのに。
器用なリゲルと、あまり器用でない自分。ほんとうに対極。その事実だけで胸がくすぐったくなってしまう。こんな些細なことで。
「ノートじゃないか」
出てきたものを見て、リゲルは目を細めて嬉しそうな顔をしてくれた。その表情に、ほっとする。
「綺麗だなと思ったの」
「ああ、夜空だなぁ」
それは深い藍色をした夜空の色のノートだった。すみっこに、オレンジ色のちいさな点がいくつか散っているくらいの、シンプルなものだ。
「これ、星座だな。冬のダイヤモンド」
「え、見ただけでわかるの」
オレンジ色の点をなぞってかたちどる。リゲルの発言にライラは驚いた。自分は確かに「これは星座ね」と思って買ったのだけど、なんの星座かまではわからなかったし、気にとめもしなかった。
「だってこれ、俺の名前の由来だぜ」
「……えっ」
一瞬、驚きに息が止まった。
「リゲルは、星の名前。冬の空に輝く一等星だ。そうだな、えーと……この手帳の絵なら、これかな」
リゲルは解説してくれて、ひとつを指さした。
オレンジ色の、ちいさな一点。まさか彼の名前だなんて思わなかった。
そう思った瞬間、かっと頬が燃えた。まるでリゲルを想って選んだかのようではないか。
いや、そのとおりではあるけれど、そんな露骨な意味ではなかったはずなのに。
「ありがとな。余計に嬉しいよ」
きっと顔を赤くしただろうに、リゲルはシンプルに言ってくれた。
「そ、それなら、いいんだ、けど」
またしどろもどろになってしまった。今日はこんな物言いになってしまってばかり。こんな自分を情けなく思う。
でも、嬉しいと言ってくれたことはやっぱり嬉しい。おまけに無意識でも、彼を示すモチーフを選べていたことも。
「ちょうどいいからこれに詩を書いておくかな。中は……お、罫線が入ってて書きやすそうだ」
リゲルは新しいノートに興味津々になってしまったようだ。ライラの様子はあまり気にしていないよう。ちょっとほっとしてしまうような、残念なような。そしてその時間が、心を落ち着かせようと飲んだ甘いミルクティーが、心をほどかせてくれた。
お茶の時間はそのように和やかに済み、そして夕方になってしまった。そろそろ帰る時間だ。