⑥
「こんちはー。二人なんですけど」
きちんと『OPEN』の看板が出ていたお店。からん、と音を立ててリゲルがそのお店のドアを開ける。すぐに店員らしき若い男性が寄ってきた。
外観からしてレンガが剥き出しで、リゲルの評したように素朴だった。でもそれがどこかあたたかみを生んでいる。
中はさらにそれが強かった。木のテーブルと椅子。無骨な作りではあるが、良い木材を使って作られているのが一目でわかった。
案内されて、席についてメニューを開く頃にはライラは理解していた。素朴であろうが、手入れをされていないわけではない。きっと、お店を作ったひとの好みでシンプルに、少々無骨に、しかし上質な空間にされているのだ。
リゲルがここを気に入ったのもわかった。あまり洒落ものではないが、リゲルはものを見る目が確かなのだ。裕福というわけではないから高級なものは持っていない。
けれど作りがしっかりしていて、実用的。そう、このお店とよく似たような雰囲気のものを、よく持っている。
「なににしようか」
彼の好みの空間。木でできていて、あたたかみが強いことも手伝って、ライラの緊張はほどけていた。
「えーと、今日のランチがいいかなぁ」
そんな自然な受け答えができてしまうほどには。
ライラの返事に、リゲルはメニューとして本の状態になっているものではなく、ぺらぺらのクラフト紙を取り上げた。そこには手書きで、季節限定なのかわからないがいくつかセットの内容が書いてある。
「じゃ、このメニューだな。今日のランチはパスタ……サーモンときのこか……あ、あとはオイルサーディンとガーリックなんかもあるぞ」
向き合ってひとつのメニュー用紙を覗き込んでいても、それほど意識はしなかった。
少なくとも、さっきのような妙な反応をしてしまわないくらいには。