④
「ライラ、ちょっと」
「ひゃっ!?」
普通に話しながら歩いていたはずだったのに、急にライラの心臓は予測していたとおり、喉元まで跳ね上がった。ひっくり返った声も出てしまう。
リゲルが自分のほうをふと見て、それだけでも、とくりと心臓は軽く騒いだのに、直後、手を伸ばされたのだから。
「ネックレス。ひっくり返ってるぞ」
あまつさえ、胸元のネックレスに触れられる。そして裏向いていたネックレスを、くるりとひっくり返された。
ライラは、あぜんとしてしまう。顔が一気に熱くなって、どくどくと心臓がさらにうるさくなってしまう。息もとまりそうだ。
「これ、あのときのだろう。いいやつなのに、まったく、お前はやっぱり不器用……。……どした」
リゲルは何気なくそうしたのだろうが、ライラが顔を赤くして固まってしまったのに気付いたのだろう。怪訝な顔をした。
それを見てライラはあせってしまう。不審に思われただろう。ちょっと手を伸ばされたくらいでこんなおかしな反応をして。
「え、あ、あの、その、びっくり、して」
でも口から出る言葉はしどろもどろになってしまった。
いや、びっくりしたなんておかしいでしょ。
頭の中で冷静な自分がツッコミすら入れた。
けれどほんとうなのだ。今までは平然とできていたことに、びっくりしてしまったのは。
リゲルは単に、妹分の世話をする気でしただけだろうに。
妙な思考などまったくなかっただろうに。
リゲルは数秒不思議そうにしていたが、そのうち視線をふっとそらした。
「あ、……ああ。悪い。いきなりだったな」
リゲルも少しきまりが悪い、という様子で一応謝ってくれた。
別に普段ならこんなこと、当たり前にしていたのに。このわずかな触れ合いで思い知ってしまった。
全然違う。
自分だけではない。リゲルもなにかしら、普段と違うと思ってくれているのだと思う。それがどこかぎこちないやりとりになってしまっているのだろう。リゲルの決まり悪げな様子と、今までなら無かった謝罪はそれを示していた。
「あ、もうそこだぞ。そこの角を曲がったところだ」