①
コトの顛末に、当たり前のようにシャイは目を丸くした。サシャの来店時点ではただ嬉しそうな顔をしてくれたけれど。
「サシャ! いらっしゃい。俺、仕事中なんだけどデートのお誘い?」
シャイは今日、早番らしい。昼前だが既に店に出ている。
シュワルツェはランチも提供しているので昼は少し混むこともあるのである。なので今、長居はできなかった。
「いえ、なんていうか、そうね」
サシャの返事が濁ったのを聞いて、シャイは不思議そうに首をかしげた。
「まぁ、紅茶でも一杯飲んでいきなよ。俺の奢りで」
「ありがとう」
本意ではなくとも隠し事のようになってしまったので少々気は引けたのだが、サシャはいちばん隅のテーブルを借りて一杯紅茶をいただいた。
「実は、妹さんからお手紙をいただいたの」
「……キアラから?」
紅茶を運んできてくれたシャイに端的に話す。シャイはもっと不思議そうな顔をした。
公共の場で話して良い範囲で、そして言葉遣いでサシャは事情を説明していった。
「キアラさんがお茶会をされるそうで、そこで歌ってほしいとお願いされて」
お姫様に、そしてそのご依頼についてこんな言葉遣いで離すのは躊躇われたが、ここでは敬った言葉遣いで話すほうがおかしくなってしまう。
そんな言い方でも内容はちゃんと伝わったようだ。シャイはこれ以上ないというほど目を丸くした。
「……はぁ? あいつが?」
数秒後に間の抜けた声を出す。