①
「まぁ。シャイさんと」
サシャの前で、ストルがぱっと顔を輝かせて胸の前で手を合わせた。
「ええーっ、お付き合いすることになったのぉ!」
ビスクも前のめりで聞いてくる。
翌日は流石に少し寝不足だった。遅くまでシャイと外に居たのだから当然ではあるが。しかし友達と約束があったので夕方からではあるが、待ち合わせをしていたカフェへ赴いた次第。
勿論シャイの働くシュワルツェではない。別の、もう少しカジュアルなカフェ。
オープンテラスもあるが、この寒さでは利用している客はいなかった。サシャ達一行も、店内の奥まったソファ席に陣取って、まったりと話をしている。暖炉には明々と火が入っていてとても暖かい。
「まぁねー、シャイさんとは仲、良かったもんね」
ビスクは、あーあ! などと言いながらソファに寄りかかって両手を上げた。伸びをするようなお行儀の悪い体勢で、先を越されちゃった、なんて言う。
ストルはそれに比べるとだいぶ落ち着いていた。目の前のローテーブルに置いていたハーブティーをひとくち飲んで、「おめでとう」と言ってくれた。
「シャイさんのこと、好きだったんでしょう」
そう言われるのはちょっと恥ずかしい。シャイとこの二人は顔見知りであるし、仕事を介してもシャイに良く会っていることは知られていたので。
「うん……だから、夢のようよ」
「そうでしょうねぇ。お幸せにね」
「ありがとう」
ストルはそれで終わらせてくれたが、ビスクはそういうわけにはいかなかった。伸びをしていた体勢から、ばっときちんと腰掛けなおす。それどころかその体勢よりもっと前のめりになってサシャに顔を近付けてきた。
「で? オヒメサマはどんなふうに告白されたの?」
ビスクの言った言葉はただの比喩であったが、サシャはちょっとどきりとした。
お姫様。
かりそめでもあるがお姫様のふりをしたことを言いあてられたような気がしたのだ。そんなはずはないのだが。