①
「ちょっと頼みごとがあるんだが」
いつものように、ひょっとリゲルが顔を見せたのは夏も終わりそうなある日のことだった。特に『会おう』と約束をしていなくても気軽に顔を合わられてしまうのは、近くに住んでいるが故の利点だと思う。
「なに? お夕飯?」
くすっと笑って茶化したライラは、リゲルに睨まれた。琥珀色の綺麗な瞳で。
「お前……俺のことをなんだと思ってるんだ」
「冗談よ」
はっきり視線が合ったことでどきどきしながらライラは言って、リゲルは、はぁ、とため息をついてから「真面目な頼みだよ」と言った。
そんなやりとりはともかく、改めてライラの家、毎回そうであるようにリビングでお茶を飲みながら、その『真面目な頼み』について話される。
「今度な、教会でイベントをやるんだよ」
お茶をすすりながら言われたので、ライラは首をかしげた。
「イベント?」
「教会っつってもな、場所を借りるだけで孤児院のイベントなんだよ」
孤児院。
言われたことに、ライラはちょっとどきっとした。リゲルが貰われっこであることを思い出してしまう言葉であるゆえに。
リゲルは孤児院出身というわけではない。育てられたのは貰われていった、今の家庭なのだ。
でも「口利きをしてくれたのは孤児院らしいからな」と聞いたことはある。なので「俺は覚えてないんだが、世話になったらしいんだ」と言っていた。
それゆえに、なのだろう。リゲルはときたま孤児院を訪ねているようだった。花を持って行ったり、ちょっとした果物を持って行ったり。そんな話を聞いたことがある。
「で、聖書を聞かせようって話らしいんだけど、ほら、普通に読んだって子どもには面白かないだろう」
「それはそうかもね。子どもには難しいかも」
お茶をひとくち飲んで、リゲルは本題に入った。
「そこでだ。子ども向けの絵本タイプのにしようって話になってさ」