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冒険の始まり

「メサオ!」

アロルの手のひらから炎が勢いよく飛び出し木をメラメラと燃やした。
俺は炎魔法を使う赤髪の17才の男だ。身長は高い方で、細見だが筋肉が程よくついている。このムーオ村で親父の弟のキルルおじさんとマリンおばさんと三人で慎ましく暮らしている。いつか冒険に出る日を夢見ながら今日も修行に励んでいる。
 ひととおりいつもの修行メニューをこなし、そろそろ家に戻ろうかという時、幼馴染のサラという青髪の女の子が息を切らしながら走りよってきた。

「はぁ…はぁ…やっと見つけた…アロル」
「どうした?サラ」
「私のモンスター図鑑返して!弟が読みたいって言ってるの」
「あっ、返すの忘れてた!あとでサラの家まで持ってくよ」

 俺はすぐに家に帰った。家ではおじさんがお茶を飲んでいた。

「おかえりアロル、修行はどうだった?」
「バッチリさ!それより、モンスター図鑑知らない?」
「それなら確か物置小屋にあったと思ったけど…」
「わかった」

 物置小屋に行き、図鑑を探し回った。小屋の中をウロウロしていたら、床がギシギシ音を立てている部分を見つけた。その音がなんとも心地良い響きであり、何度も踏みつけて音を出して楽しんだ。ちょっと強く踏んでみようと思い、その場所でジャンプして着地したその時!床が抜けてしまった。床の下に落ちた俺は驚いて目を丸くした。なんと床の地下に通路があったのだ。相当古くから存在している事が見て取れる。こんな所に通路があるなんてちっとも知らなかった。通路を進むと両開きの扉が見えてきた。扉の前に立ち、思いっきり押してみた。
 ギィ、ギィ、と音をさせながら、ゆっくりと開いてみると俺は扉の奥の光景に驚愕した。
 なんと金、銀、財宝が山のように積みあがっていたのだ。俺は驚きとあまりの喜びで倒れそうになったが、なんとか堪えてこの事をすぐにおじさんに報告した。

「こりゃたまげた、一体なんでこんな所に宝の山があるんだ?」
「俺にもわからないよ、でもこれで俺達大金持ちだな!」
「ああ、1億ギンドか2億ギンドぐらいの価値があるかもしれない」

 ラーメン1杯が大体700ギンドである。

「俺すぐに換金してくるよ」

 支度をして、町の換金所まで急いで行った。宝を見せるとやはり換金所のおっさんも驚いていた。

「これは、相当歴史的価値の高いものばかりですなぁ、一体どこで手に入れたんです?」
「ウチの物置小屋の地下に眠ってたんだよ」
「そんなうまい話あるわけないじゃないですかー」
「それがホントなんだよ」

 換金所のおっさんは疑いの目で俺を見ながら、鑑定を進める。1時間程で鑑定を終えた。

「はい、鑑定終わりましたよ。全部で30億ギンドになります」
「30億ギンド!?そ、そんなに!?」
「それだけの価値がありますよ」

 おっさんが30億ギンドを差し出した。

「ホントにもらっていいんだな?なんか夢を見ているようだ」
「どうぞお受け取り下さい」

 30億ギンドを受け取り、急いで家に戻った。

「キルルおじさん!すごい事になったよ!なんとあのお宝、30億ギンドだって!」
「はぁ…はぁ…30億ギンドだって!?ホ、ホントなのか!?」

 おじさんは驚きのあまり過呼吸になっていた。だが、そうなるのも無理はない。普通の人が一生働いても手にする事が出来ない大金を一瞬で手に入れてしまったのだから。

「ホントなんだよ、嘘でも夢でも幻でもないんだ」

 俺も喜びを抑えられず、思わずピョンピョン飛び跳ねながら答えた。

「現実なんだな。よし、じゃあ俺とマリンとアロルの三人でキレイに三等分しよう」

 キルルおじさんは頬をつねりながら言った。

「きっとマリンおばさん腰をぬかして驚くぞ」

 しばらくしてマリンおばさんが帰って来た。大金を見てやはり予想通りの反応をした。

「なんだいこのお金は!盗みでもやらかしたのかい!?」

 マリンおばさんはどでかい声でそう言った。
 俺達は事情を説明した。3人とも興奮がなかなか静まらずその日は一日中歓喜の宴となった。
 さて、この金を何に使うか。なんでも可能だ。好きなだけラーメンが食べられるし、城だって買える。しかし、俺の使い道は決まっていた。
 
 最強になるための冒険の旅費に使うのだ!
 
 やっと念願の冒険に旅立てる時がきた。冒険に出るためコツコツと貯金してきた努力は無駄になってしまったが、そんな事はどうでもいい。これから素晴らしい冒険が俺を待っているのだ。
 旅立つ事をキルルおじさんとマリンおばさんに話すと、快く承諾してくれた。一応、幼馴染のサラにも話してみると以外な反応が返ってきた。

「そっかぁ…アロル遂に旅立っちゃうんだね、なんか寂しい」

 サラは露骨に悲しい表情を浮かべた。

「またいつか会えるさ」
「一人で大丈夫なの?」
「まぁなんとかなるだろ」
「なんか心配だなぁ…そうだ!私がついて行ってあげようか!?」

 サラはパッと明るい顔になった。

「別に構わないけどホントにいいのか?」
「いいの、いいの、出発はいつ?」
「明日だけど」
「じゃあ準備しとく」

 そう言うとサラは足早に帰って行った。
 遂に明日から冒険の始まりか、なんだかワクワクするなぁ。今日も眠れそうにないな。あれこれ冒険のイメージを浮かべながら、なんとか就寝した。
 次の日、朝早く起きると準備を整え、キルルおじさんとマリンおばさんに別れの挨拶をした。

「じゃあ行ってくるね」
「頑張ってな、大魔導士だった兄貴を超えてこい」

 キルルおじさんの兄貴である俺の親父は俺が生まれて間もない頃、魔王ギガンデノスと戦い、戦死した。それから何年か後、母親も病死していた。

「気を付けるんだよ、たまには帰っておいでね」
「気が向いたらね」

 家を出ると、サラがニコニコしながら待っていた。

「行こっか?」
「ああ、冒険の始まりだ!」

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