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おばちゃまね、オザリーナ温泉郷はね……

 コンビニおもてなし本店に駆け込んできたチュパチャップとともに転移ドアをくぐった僕は、オザリーナ温泉郷にあるコンビニおもてなし6号店の店内へ姿を現しました。

「え?」

 その店外へ視線を向けた僕は、思わず目が点になってしまいました。

 コンビニおもてなしの本支店は、24時間営業している3号店と、朝の通勤客の来店が多いため開店時間を朝6時に早めた5号店以外は、すべて朝7時開店となっています。

 コンビニおもてなし6号店もそれにならって朝7時開店にしているのですが……その、開店前のコンビニおもてなしの前にすごい数のお客さんが殺到していたのです。
「な、なんだこりゃ!?」
「わ、私にも何がなんだか……」
 僕の言葉に、チュパチャップも困惑しきりです。

 とはいえ、この大量のお客さんをそのままにも出来ません。
 僕は、チュパチャップに、保養所用の宿泊所で寝ている店員のみんなを起こしてくるように伝えると、本店に準備してある今日の商品が詰まっている魔法袋を取りに戻っていきました。

◇◇

 ほどなくして、僕が6号店に戻ってくると、チュパチャップが、他の店員達を起こしてきたところでした。
「みんな、いきなりで悪いけどすぐにこの商品を陳列してくれるかい?」
 僕がそう言うと、すでにチュパチャップから事情を聞いていたみんなは
「「「はい、わかりました」」」
 と、一斉に声をあげ、魔法袋の中から荷物を取りだしては、陳列棚へそれをならべて……
「ひゃあ!? またすっころんでしまいましたぁ」
「きゃあ! きょ、今日はベルトを三重巻きにしてましたのにぃ」
 ……なんか、お約束の声が聞こえて来ていますけど……以前は、下半身下着姿にされてしまうと真っ赤になって座り込むことしか出来なかったチュパチャップなのですが、今日は、すかさずスカートを引き上げると、すぐに作業に戻っていた次第です。

 ……うん……チュパチャップ、強くなったなぁ……

 って、いかんいかん、そんな感傷に浸っていてはいけませんね。
 僕は、店の入り口から顔を出しました。
 よく見ると、そこに集まっておられるのは、オザリーナ温泉郷にお店を構えておられる方々が大半です。
 まだ、この温泉郷で働きはじめて間もない皆様は、コンビニおもてなしで食事を調達なさる方が大変多いのですが……いつもでしたら、もう少し後、お店が開店する時間に合わせておいでになられるはずなのですが……

「皆さん、どうなさったのですか」
 僕が、そうお尋ねすると、
「いや、それがさぁ……」
「俺達にも、何がなんだか……」
 そう言いながら、皆さんはコンビニおもてなし6号店の横にある駅馬車発着場へ視線を向けました。
 で、僕もそちらへ視線を向けたのですが……
「な、なんだぁ!?」
 その光景を前にして、僕は思わず目を丸くしてしまいました。

 ララコンベ温泉郷と連携している駅馬車は、かなり早い時間から運行しています。
 これは、朝風呂に入るお客様が
「どれ、オザリーナ温泉の方にも入ってみようか」
 そう思われた際に対応出来るように、と、配慮したからなのですが……

 その駅馬車発着場に、すごい数のお客さんの姿があるではないですか。

「なんかさ、朝一の駅馬車からあの調子でさ」
「温泉宿にすごい数のお客さんが殺到してるんだ」
「でさ、俺らも慌てて店を始めたのはいいんだけど……」
「さすがに、腹が減っては戦が出来ないってわけでさぁ」
 皆さんは、そう言いながら僕に向かって頭を下げておいでです。

 理由はわかりませんが……とにかく、こりゃ大変です。
 
「わかりました、準備が出来次第、コンビニおもてなしを……」
 僕がそこまで言ったところで、
「店長さん! 準備出来ましたぁ!」
 店内からチュパチャップの声が聞こえてきました。
 同時に、店内に魔法灯が灯り、リール式のカーテンがあがっていきます。
 それを確認した僕は、
「では、皆さん、どうぞ!」
 そう言いながら、お客さん達を店内に案内していきました。

 お客さん達は、一斉に店内へとなだれ込んでこられました。
 僕は、とりあえずその皆さんの整理をしています。

 皆さんのお目当ては先ほど棚に並べたばかりの弁当やパン類です。

 皆さん、棚に直行してはそれらを手にとり、そのままレジに向かっておいでです。
 レジ横に並べてあるホットデリカや、スープ類も飛ぶように売れています。

 よく見ると、オザリーナ温泉郷で働かれているお客さんの中に混じって、駅馬車でやってきたと思われるお客さんらしきお顔もかなり見受けられます。
 その数も、正直半端じゃないといいますか……

◇◇

 ほどなくして、コンビニおもてなし6号店で食べ物を調達し、腹ごしらえを済ませた皆様がお店を開店していかれました。
 そこに、温泉を堪能し、街中を散策なさっていた皆様が押し寄せていかれています。

 このオザリーナ温泉郷にお店を出されている皆様は、ナカンコンベにお店を構えておられる方が多いため、隣のララコンベ温泉郷の店とは品揃えががらっと違っています。
 そのため、お客さん達は

「へぇ、向こうとは結構違うのね」
「これ、なんか面白いな」
「ちょっとこれ、買って帰ろうか」

 そんな感じで、あれこれ購入なさっておいでです。

 そんな騒ぎを聞きつけた、シャラ達も慌てて劇場をオープンさせていました。
 いつもは夕方からしか営業していない劇場なのですが
「さぁさぁ、今日は朝からやってるよ、みんなよかったら見てらっしゃい寄ってらっしゃい」
 シャラ達の、そんな威勢のいい呼び込みの声が、コンビニおもてなし6号店の店内にまで聞こえています。

 コンビニおもてなし6号店も、準備していた弁当類がすぐになくなってしまったため、魔王ビナスさんに急いで追加してもらった次第です。

「しかし……急にどうしたんだ、一体……」
 お昼前に本店に戻り、魔王ビナスさんが作ってくれた追加のお弁当を魔法袋に詰め込みながら、僕は嬉し笑いとでもいった笑いを浮かべていました。

 てんやわんやで大変だけど、千客万来で嬉しくて仕方ない、といった笑いですね。

 すると、そんな僕の元に、ヤルメキスがおずおずといった感じで歩み寄ってきました。
「あ、あ、あ、あのですね……」
「どうしたんだい、ヤルメキス?」
「あ、あ、あ、あの……オザリーナ温泉郷のことでごじゃりますけど……」
「ん? 何か思い当たる節でもあるのかい?」
「は、は、は、はいです……あの、昨夜、オルモーリお婆さまがお友達をお集めになってお茶会をなさったのでごじゃりまするけど、そ、そ、そ、その際にですね、『オザリーナ温泉郷はね、とってもよかったの。おばちゃま感激したのよ』って、何度も言われていたでおじゃりまして……」
 ヤルメキスのその言葉を聞いた僕は、ようやく全てを理解しました。

 そういえば、確かに、オルモーリのおばちゃまは営業初日のオザリーナ温泉郷にこられていました。

 オルモーリのおばちゃまって、王都に顔が利くといいますか結構お偉いさん達に顔が利くすごい人みたいなんですよね。
 かつては社交界でもその人有りと言われていたとか、言われてなかったとか……
 そんなオルモーリのおばちゃまの友人と言えば、とんでもない有力者の奥さんとかが多いわけです。
 で、そんな方々と一緒に実施したお茶会で

『オザリーナ温泉郷はね、とってもよかったの。おばちゃま感激したのよ』
 
 なんて言われた日にゃあ……

 ようやく原因がわかった僕ですが……なんか、少し嬉しく思った次第です。
 いえね、オルモーリのおばちゃまは、見る目がしっかりしている方です。
 いくら孫の嫁が勤務しているからといって、コンビニおもてなしのために嘘を言う人ではありません。
 つまり、自分で興味を持って遊びにいらしてくださって、そして気に入ってくれたからこそ、こうして皆さんに勧めてくださったに違いありません。

 その、興味を持って遊びに来てくれたことに関しては、
『ヤルちゃまが勤務しているコンビニおもてなしがまた何かし始めたのね、ちょっと見に行ってみようかしら』
 と、いったお気持ちをもたれた可能性は否定出来ませんが……

 とにもかくにも、オザリーナやシャラ、それに僕達が頑張った成果が評価してもらえたってことです、はい。

「おばちゃまに、またいつでも遊びに来てくださいって伝えておいてくれるかい?」
「は、は、は、はいでおじゃりまする!」
 僕の言葉に、その場で土下座しながら返答するヤルメキス。
 なんか、見慣れたその光景に苦笑しながら、僕は荷物の準備を急いでいた次第です。

 そんなこんなで、突如始まったこのオザリーナ温泉郷の大盛況は、駅馬車の最終便が終わるまで続いていきました。

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