第47話 決戦
俺は、ひたすら切り刻んでいた。幾度も幾度もだ。
修復速度は、変わらず早い。何を思ってこの姿形にしたのか、意図が掴めない。単に形状を模写しているだけにも見える。もしかすると体をもったことがなく、いまいち把握しきれていないのかもしれない。
ただそうなると、ここで全滅している連中らは何にやられたかだ。現に、目の前の竜もどきは反撃すらせずただ佇んでいるだけの状態で何も代わり映えはしない。
気になるのは、俺たちが入った入り口にある二本の支柱だ。この黒い霧が現れたところも、二本の支柱がある。ちょうど両者とも、同じ直線で繋げられるほどだ。他にも二本ずつ支柱があるところを見ると、東西南北にわけた、それぞれの入り口にも見える。
あれから三十分ほど、刻み続けている……。
ようやく位置が特定できたのか、エミリーが竜へ急接近する。右胸肺あたりの位置を袈裟斬りに、魔剣を繰り出す。狙ったと思われる位置に、吸い込まれるように魔剣が突き刺さると、すぐに引き抜き離れて、後退してしまう。どうやら外したようだ。
変わらず修復だけに、この竜は集中している。
さらに刻み続けていると、変化が訪れた。それは竜ではなく、支柱のほうだ。何か太い弦が振動するかのような音が、この敷地全体に響き渡る。すると何が起きたのか、支柱それぞれ頂点にある球体が赤く輝きはじめた。
まるで音叉の共鳴現象のように、それぞれが鳴り響く。
「リリー伏せろ!」
俺はなぜ気が付かなかったんだろう。ここにある遺体の傷を見れば、概ね予測はついたはずだ。それにこの竜は敵ではい。ただし、味方でもない。
俺たちの頭上には赤色の光線が辺り一帯を突き刺し、切り刻む。そうだ、この竜はダミーで本来は、あの支柱が仕掛けなんだ。このレーザー光に近い直線的な熱線は、ここ倒れている者たちを切り刻み、突き刺した張本人だ。
あまりにも鋭利な傷であったため、竜の爪かと思ってしまった。何がきっかけで、この支柱の球体が動きはじめたのか謎だ。唯一言えるのは、この柱を攻撃対象として排除対象しなければ、俺たちに安堵する場所はない。
「レン! あの支柱なら魔法が通じそうだな!」
「ああ。やってみる価値はありそうだ」
お互いにしめし合わせ、全力を放つ。
「フェアリーランス!」
「ダークボルト!」
石柱の頂上にある球体は、跡形もなく消失してしまい、意外とモロい。この勢いで、他の支柱も一気に片付けに向かう。
この球体からくる攻撃は、狙って撃つというよりは、指定した範囲を徹底的に死滅させる勢いで動く。目となる存在がいない分、攻撃の密度は異様に濃い。
俺たちは、ほとんどを破壊し尽くした。
残る最後の一つも破壊すると、また先のような沈黙が訪れる。ほとんどが石柱ごと破壊をしていたため、エネルギー源としていた魔石も回収して回る。かなり良質な魔石のようで目的の色である赤黒く変化までした。
あとの問題は、この先どこに進めばよいかだ。
竜の姿をした”物”は、変わらず佇んでいて敵となる気配がない。この広場には俺たちが入ってきた場所以外の出入り口がなかった。
すると竜が変化しはじめた。
まるでホットケーキのように丸く平になったかと思うと、魔法陣の文様を地面に映し出す。すると巨大な中央の円環の周囲に五芒星を型取り、各頂点に小さな円環が周り始める。青緑色のその円は、黄緑色の粒子を振りまき、一帯を照らす。
「レン! 一体……」
「馬鹿な! なぜここに!」
円環から現れた宙に浮く文字は、俺のよく知る物だった。
”Congratulation”
一体どういうことだ? なぜ元々いた世界の文字が現れる? しかも目の前に現れた者の姿に驚愕を覚えた。
”勝者だけ得る特別な物”
天使の姿をした女性が、胸もとに小さな手のひらサイズの宝箱を持ち、俺に差し出す。あの姿はどう見てもエルや神族の使役する天使とことなり、俺のいた世界の小説に出てくる天使にそっくりだ。
ひとまず宝箱を受け取ると蓋が一人でに開き、中身が見えた。そこにはこう書いてある
”無限弾”
まさか、あのハンドガンの弾なのだろうか。マガジンが一本ある状態だ。俺が手に取ると、突如体にしみるようになじみ、手のひらに吸収されてしまう。
すると脳裏に突然浮かんだ光景は、”使える”ことだった。このハンドガンが使えるとなると、この体の元の持ち主である蓮次郎は相当運が悪いとしか言いようがない。俺たちが苦戦してまでしてやっと手に入れた物を、最弱の人では到底ムリだからだ。
宝物を取り出したあとは、霧散して消えると魔法陣はまだ回転をしており、今度は門が現れた。ここの出入り口の門と形状は同じで、どうやら出口なのが直感的に、脳に響く。
リリーも同じで、門が出口なことを唐突に理解した。
まさか焼印の材料集めで、元の世界の文字やらアイテムの入手など、思わぬ展開に俺は頭を悩ます。今になってなんで現れたのか。偶然にしてはできすぎているような気がする。しかもこのゲーム的な提供の仕方は、どういうことなのか。
何かの意図が見え隠れしているような気さえしてきた。
俺たちは、出入り口の扉が開いたのを確認して、中に進む。
「リリー行くぞ!」
「レン! 行こう!」
はぐれないよう、二人で手を繋ぎ中に進んだ。