がんばる研修生の皆様 その1
テトテ集落でのコンビニおもてなし出張所の営業が始まりました。
出張所で取り扱っているのは、食べ物がメインです。
具体的に言うと、
お弁当
パンとサンドイッチ
ヤルメキススイーツ
この3種類が三本柱になっています。
本支店では、これに加えてスープやホットデリカも扱っているのですが、基本的に1~2人程度で営業することになる出張所では、レジの周辺に余分にスペースを必要とするような品物は極力扱わないことにしています。何しろ出張所の店舗は必要最低限の機能しかもたせない予定ですからね。
他の商品に関しましては、出張所を出店する場に住んでおられる皆様のニーズに合わせて臨機応変に対応する予定にしていまして、テトテ集落では住人の皆さんから特に要望の多かった
スア製の薬
調味料
鍋などの調理器具
などをおくことにしています。
スアの薬ですが、僕が元いた世界でいうところの薬剤師の情報提供を受けてからでないと購入することが出来ない要指導医薬品や第1類医薬品に該当する、薬品に関してはおもてなし薬局を切り盛りしているダマリナッセの指導を受けてから処方するようにしているのですがそういった薬は出張所では扱わないことにしています。
じゃあ何を扱うかと言いますと、ちょっとしたスタミナドリンクや消毒薬・傷薬などがメインです。
テトテ集落の皆さんは集落の周辺にある山野で毎日農作業に勤しまれていますからね、生傷も多いわけですし、お疲れになることもあるわけなんですよね
……あ~、お疲れに関しては農作業だけが原因でないといいますか……
ちょっと前に行(おこな)った職場体験以降、テトテ集落にお嫁にやってきた魔法使いの皆さんが結構おられるわけなんですよね。で、魔法使いの皆さんは実年齢は全員三桁なのですが、見た目はとってもお若いわけです。
そんなお嫁さんをもらうことになったテトテ集落のお年寄り男性の皆様は……え~、後は察してあげてください、はい。
ちなみに、すでにおめでた案件が2件ほど発生しているそうです。
ちなみにですが、おもてなし出張所を担当してくれることになったミミィも、僕よりちょっと年下で若いわけでして、集落の男性陣が声をかけたりすることがあるそうなのですが、
「ウチのミミィちゃんに何かご用めぇ?」
と、その度にリンボアさんがひょっこり出現して、悪い虫を追い払っているそうです。
なんといいますか、このお話をお聞きするとホントの母娘のようですね、リンボアさんとミミィってば。
現在ティーケー海岸でコンビニおもてなしの出店を取り仕切ってくれているブリリアンとメイデンですが、今後はオトの街とルシクコンベの視察に行くと言っていました。
小規模店舗の展開を始めたことでこうして販路が広がったわけなんですけど、無理に出店を重ねるのではなく、足下をしっかり踏み固めるように各本支店ならびに出張所の売り上げを管理しながらやっていこうと思っている次第です。
◇◇
気持ち拡大路線に踏み出したコンビニおもてなしですが、そうなるとやはり人材が足りません。
今の各本支店には必要最低限の人数しか雇用し配備していませんからね。
今後はみんなが休みを取りやすくなるように、各本支店へ1,2人ずつ増員をかけつつ、新店舗の話が持ち上がったらすぐに新店舗用の人員を編成出来るようにしないといけないな、と考えている次第です。
その一環として現在ガタコンベ・ブラコンベ・ララコンベ・ナカンコンベの各辺境都市の商店街組合に求人依頼を出しているのですが……
「ここがコンビニおもてなしか?」
本店の営業中に、3人の女性が店長である僕を訪ねてこられました。
その女性達は、皆さんガタコンベが所属しているブラコンベ辺境都市連合の中で一番大きな都市であるブラコンベにある商店街組合の紹介状を持って来ていました。
3人一緒に定期魔道船に乗って、本店までやってきてくれたんだそうです。
一応求人には「勤務希望の方は最寄りのコンビニおもてなしへ出向いてください」と書いておいたんだけど、
「雇って頂くのであれば、その本店に行くのが筋という物であろう」
と、3人の中で一番背の高い女性がそう言われました。
……ですが
「……私は別にブラコンベの2号店でいいじゃないって言ったんですよ」
「私もだにょ」
他の2人が、その女性に聞こえないように小声でそんな会話を交わしていたのを僕は聞き逃しませんでした……ま、まぁ、いいんですけどね。
で、この3人の方々ですが……
一番背の高い女性はアーリアさんと言われるエルフの方です。
スアよりは若いみたいですが……え~……僕はですね、今までこの世界のエルフの皆さんってみんな慎ましやかなお胸をなさっていてですね、ダークエルフの皆様はその逆なんだな、と思っていたんですよね……
ところが、このアーリアさんは見事なボンキュッボンなスタイルをなさっておいでだったんです。
「……こんな方もおられるんだ」
僕が思わずボソッと言葉を発すると、アーリアさんは
「店長殿、何か?」
背筋をピンと伸ばしたまま僕にそう聞いてこられました。
僕は、そんなアーリアさんに
「いえいえ、別に……」
そう返答するのがやっとでした。
次のクヨヨンは、人族の女性の方です。
ショートカットの小柄な方でして、ごくごく普通な感じの方です。
算術を得手になさっているとのことですので、結構期待出来そうですね。
最後のもう1人の方も人族の方でして、名前をカアラと言われました。
相当度のきつそうな眼鏡をかけていらっしゃいまして、書類を見るのにも、その都度すごく近づかないと見えないみたいですね。服装は女性にしてはどこかいけてないと言いますか、ダサいといいますか……
そんな皆さんがブラコンベの商店街組合から紹介されてきてくださった次第です。
「じゃあ早速だけど、明日から研修に入ってもらってもいいかな?」
僕がそう言うと、アーリアさんがいきなり挙手をなさいました。
「はい店長! 私は今日からでも可能です!」
相変わらず胸を張りながらそう言うと、アーリアさんはクヨヨンとカアラに向かって何やらドヤ顔をしています……これはあれですかね、
『これで私は、あなたたち2人より正式採用に一歩近づいたわね』
って感じなのかもしれませんね。
すると、それに気付いたらしいクヨヨンとカアラも慌てた様子で挙手されまして
「店長さん、私だって今日からでも大丈夫です!」
「わ、私もだにょ」
お互いにそう言ってくれたのですが、カアラだけは僕とは正反対の方向に向かって話しているんですよね……こんな調子で大丈夫かな……僕は少し不安を覚えた次第です。
本当なら今日は3人と雑談をしてその話し方から人となりを拝見させてもらうだけにするつもりだったんだけど、3人ともやる気満々な様子ですし、それにまだ昼前ですからね
「じゃあ、今日の閉店時間まで、こちらの魔王ビナスさんについて研修を受けてもらいますね」
「「「はい!」」」
僕の言葉に、3人は同時に返事をしてくれました。
で
研修中の3人の様子ですが……
クヨヨンはまずまず無難な感じです。
アーリアさんは、自信満々に作業を進め過ぎる癖があるせいでケアレスミスを連発なさっています。
カアラはカアラで、目が悪いせいで何をするにしても過剰なまでに目標物に近づかないと判断などが出来ないせいで、何をするにしても時間がかかっていた次第です。
クヨヨン以外の2名はちょっと問題ありな感じではありますけど……あくまでも今日は初日ですしね。
しばらく研修をしてみて、その後の様子を確認させてもらってから最終判断を下そうと思っている次第です。
しかしあれですね……求人広告を配布して数日しか経っていないのに、こうして3人もの雇用希望者がやって来てくれたわけです。
魔王ビナスさんについて研修を受けている3人を見つめながら、僕は思わず右腕をグッと握りしめていた次第です。